特集

弊所発行の「月刊クリンネス」に掲載された過去の連載コラムの中から、テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。

食中毒を防ぐために

東京食品技術研究所 所長(執筆当時) 鈴木達夫

食品 食中毒を防ぐためにふぐ

 「あら何ともなきや きのふは過ぎて 河豚汁(ふぐとじる)」という松尾芭蕉の俳句があります。「なんともなくてよかった。昨日、ふぐのみそ汁を食べて一晩中心配したのだが」といった意味でしょうか。この俳句にあるように古来より日本人は、ふぐの恐ろしい毒を知りながら、その美味に魅了されてきました。
 現代においても、ふぐによる食中毒は最も恐ろしい食中毒のひとつです。平成17年から26年の10年間に起こった、ふぐによる食中毒は260件、患者数は359人ですが、死者は11人を数え、腸管出血性大腸菌とともに食中毒による死亡の主な原因となっています。そのうち9名が家庭での事故です。発生原因は、「自分で釣ったふぐや、もらったふぐを調理して食べる」という素人料理によるものがほとんどです。
 ふぐの毒は、テトロドトキシンです。有毒部位はふぐの種類によって異なり、臓器によっても毒力が異なりますが、一般に肝臓、卵巣、皮の毒が強いことが知られています。また、個体差が大きく季節による変動があるなどの特徴があります。そのため、食べられるふぐの種類は決められており、その部位もふぐの種類ごとに決まっています。ふぐを調理する場合にはふぐの種類を見分け、適切な除毒処理を、専門知識と技術を持つ調理師などが行う必要があります。
(2016年1月号掲載)

食品 食中毒を防ぐためにアニサキス食中毒

 友人との会食中に刺身を箸でつまんだところ、その下で2cmほどのアニサキス幼虫が元気に動いていて、大変驚いたことがあります。アニサキスの成虫は、クジラやイルカなどの海産哺乳類の寄生虫です。幼虫はオキアミに寄生し、そのオキアミをサバ、サンマ、アジ、イワシ、カツオ、タラ、ホッケなどが食べて寄生します。そして私たち人間は、アニサキス幼虫が寄生した魚を生食し、生きたアニサキスが1匹でも胃壁や腸壁に侵入すると食中毒になります。アニサキス食中毒は、平成26年では全国で79件、東京都内では12件届け出されていますが、年間2,000人以上の患者が発生していると推計されています。症状は激しい腹痛、吐き気、おう吐、蕁麻疹(じんましん)などを伴うこともあります。治療では、内視鏡による虫体の摘出が行われます。
 アニサキスは、魚を加熱または冷凍することで予防できます。刺身などで食べるときは、新鮮な魚を選び、速やかに内臓を取り除くとともに、内臓は生では食べないでください。アニサキス幼虫は魚の内臓に寄生していますが、鮮度が落ちると内臓から筋肉中に移行します。
 鮮魚の流通機構の発達や生食ブームにより、都会でもいろいろな鮮魚を生で食べるようになりました。今後、アニサキス食中毒は増加することが予想されるので、注意が必要です。
(2016年3月号掲載)

食品 食中毒を防ぐためにカンピロバクター食中毒

 仕事が終わった後に仲間と焼き鳥で一杯は魅力的ですが、その数日後に同僚が風邪で体調を崩したことがありました。こんなときは、風邪以外にカンピロバクター食中毒も疑われます。カンピロバクター食中毒の症状は、下痢、腹痛および発熱で、予後は比較的良好です。潜伏期間は平均2〜3日間と長く、初期には風邪と間違われることもあります。
 カンピロバクターは食中毒を起こす細菌で、ニワトリ、ウシ、ブタなどの動物の消化管内に生息しています。近年、カンピロバクター食中毒は増加しており、発生件数では平成26年には全国で306件と1位となり、患者数でもノロウイルスに次いで2位となっています。
 カンピロバクター食中毒の原因食品の多くは鳥料理で、鳥のタタキなどの生食や調理の際の加熱不足、さらに鳥肉からの他の食品への二次汚染が原因となっています。中心温度を65℃までしっかり加熱すれば菌は死滅します。この温度は、鳥肉の赤みがなくなり白くなる温度ですので、しっかり確認しましょう。
 カンピロバクター食中毒から、まれに難病のギラン・バレー症候群を発症することがあります。ギラン・バレー症候群は、食中毒発症後1〜3週間後に両足に「力が入らない」や「しびれる」などの初期症状で発症します。重度の後遺症を残すこともあるので、注意が必要です。
(2016年5月号掲載)

食品 食中毒を防ぐために腸管出血性大腸菌

 皆さんは、20年前の平成8年に堺市の学校給食が原因で発生した腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒事件を覚えていらっしゃいますか。この食中毒事件の患者さんのおひとりが、食中毒の後遺症により、昨年10月に亡くなられたとの報道がありました。この方は25歳の女性で小学1年生のときに食中毒になり、発熱、激しい腹痛や血便を伴う血性尿毒症症候群(HUS)を発病し、回復しましたが、後遺症の腎性高血圧を原因とする脳出血により亡くなられたそうです。
 腸管出血性大腸菌による食中毒としては、平成23年に北陸地方で生肉ユッケを原因として子どもを含む5名が、また平成24年には北海道で浅漬けを原因として高齢者など8名が犠牲となっています。さらに、平成26年には安倍川花火大会で冷やしキュウリを原因として、患者数500名を超える食中毒が発生しています。この食中毒では小児や高齢者が感染すると重症化することが多く、また大規模で広範囲に被害が拡大することがあるので最強の食中毒菌といえます。
 腸管出血性大腸菌による食中毒の原因としては、加熱不十分な牛肉などが多く、二次汚染を防ぐために肉とそのほかの食材を調理する際には、まな板・包丁などの調理器具を使い分けることも大切です。また、食品取扱者は定期的な検便により、安全を確保する必要があります。
(2016年7月号掲載)

食品 食中毒を防ぐために毒キノコ

 実りの秋の味覚のひとつに、キノコがあります。秋の行楽で山に出かけ、野生キノコを採取して食べることを楽しみにしている方も多いと思います。日本には約5,000種類のキノコがあるといわれ、およそ100種類のキノコが食用にされています。
 しかし、食用のキノコと間違えて毒キノコを食べてしまうという事件が、昨年では全国で38件、患者数95名も発生しています。なかでも、シイタケやヒラタケとよく似たツキヨタケによる食中毒が最も多く報告されています。そのほかにも、クサウラベニタケ、テングタケやスギヒラタケなどによる食中毒も発生しています。
 毒キノコと食用キノコを見分けることは、外見が似ているために大変難しく、素人による図鑑などからの判断は危険であり、専門家などの鑑定が必要です。さらに、「柄が縦にさけるキノコは食べられる」、「地味な色をしたキノコは食べられる」、「乾燥すれば食べられる」といった言い伝えがたくさんありますが、迷信ですので信じないでください。
 野生のキノコについては、福島第一原子力発電所事故に由来する食品中の放射性物質対策で、東日本の一部地域について原子力災害対策特別措置法に基づき出荷制限がかけられています。地元自治体のホームページなどで必ず確認をして、出荷制限地域での採集は避けてください。
(2016年9月号掲載)

食品 食中毒を防ぐためにヒスタミン食中毒

 カジキやマグロなどの赤身魚や、これらの加工品を食べた直後から1時間後に、顔面紅潮やじんま疹、頭痛、発熱などのアレルギー様症状がでる、ヒスタミンという化学物質による食中毒が知られています。
 ヒスタミン食中毒は、赤身魚に多く含まれるヒスチジンというアミノ 酸が、ヒスタミン産生菌が持つ酵素によりヒスタミンに変わることで起こります。この菌は0度から10度の低温でも増殖するので、食品の保存には注意が必要です。また、ヒスタミンは熱に強く、煮たり焼いたりなどの調理をしても分解することはありません。
 ヒスタミンによる食中毒は、飲食店、集団給食施設や家庭などで発生しており、都内では平成27年には事件数5件、患者数52名が発生しています。主な原因食品は、カジキ、ブリ、マグロやサバなどで、海外ではチーズや鶏肉による食中毒も報告されています。
 食品中にヒスタミンが多量に含まれていても、外見の変化や腐敗臭はありません。ヒスタミン食中毒の予防としては、赤身魚の保存中にヒスタミンを増やさないことです。生の赤身魚は常温で放置せず、冷蔵でも長期間の保存でヒスタミン量が増加することがあるので早めに食べましょう。また、冷凍した赤身魚は冷蔵庫内で解凍し、凍結と解凍を繰り返さず、鮮度が落ちた魚は食べないようにしましょう。
(2016年11月号掲載)

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