イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

子どもたちの心の声を聴く(1)

保育士 五十嵐有紀子

「かみつき、ひっかき」

 1、2歳児のお子さんをお持ちの保護者の方からよく聞かれる悩みのひとつに、「かみつき、ひっかき」があります。私たち保育士は1、2歳児の担任になると、子どもたちがかみついたり、ひっかいたりするという前提でそれぞれの発達段階を頭に入れながら接しますが、それでもゼロにすることは難しいので、実際にそうなったときには保護者の方にそのときの様子をお伝えし、お詫びしています。
 公園などで保護者同士が一緒にいて子どもたちが遊んでいる場面での「かみつき、ひっかき」は、大人同士の関係を考えると、より辛いかもしれません。この時期の「かみつき、ひっかき」は、自我が芽生え、まだ言葉が出なかったり、うまく気持ちが伝えられないために起こることが多くあります。玩具の取り合いでかみつかれてしまった子どもには、痛みに寄り添いながら「お友だちも同じ玩具を使いたかったんだよ」という気持ちを伝えます。かんでしまった子どもには、玩具が欲しかった気持ちに寄り添いながら「どうすればよかったのか」を伝えるようにしています。それを繰り返すことで、やがて言葉で気持ちを伝えられるようになる頃には、「貸して」、「いいよ」、「あとでね」のやり取りができるようになっていきます。発達段階を踏まえ、お互いの気持ちを想像しながら、大人も子どもも心豊かに育ち合うことができるといいですね。
(2016年6月号掲載)

発達障害とは?

 「発達障害」という言葉を聞いたことはありますか。発達障害は、脳機能の先天的な障害により起こります。日本では発達障害者支援法の中で、発達障害を「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害」と定義しています。
 平成14年に文部科学省が行った調査では、全国の小中学校の通常学級に通う子どもの6.3%に発達障害の可能性があるという結果が出ました。これは1クラスに約2人の割合です。発達障害のある子どもには一般的に、「他者への関心が薄い」、「見通しを持った行動ができない」、「こだわりがある」などの面が見られ、障害ごとに「不安感が強い」、「多動性、衝動性がある」など特性はそれぞれです。社会生活に困難を抱えていますが、難しい言葉を知っていたり興味があることに深い知識を持っている一面もあります。「ちょっと変わった子」、「手のかかる子」または「親の育て方が悪い」と捉えられて適切に理解されないままに成長し、社会人になってから自分の障害に気がつく人も多いようです。
 発達障害は、脳の機能障害です。障害そのものを治すことは、現在はまだできません。しかし、周りの理解や幼少期からの適切なかかわりの積み重ねにより、困難を軽減させることはできます。今後は具体的な例を挙げながら、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
(2016年9月号掲載)

経験や発達に合わせて伝える

 現在、日本の通常学級に通う子どもの6.3%に発達障害の可能性があり、これは1クラスに2人程度の割合だという調査結果が報告されています。実は、私の息子もその1人です。暗黙の了解がわからない、臨機応変に対応できないことで、成長につれて友達との関係や学習面に困難さが出てきています。
 たとえば息子に、「12時頃に雨が降る予報だから、雨が降ってくるようだったら洗濯物を取り込んでね」と言うとします。皆さんのお子さんなら、どうするでしょうか。いくつかの選択肢が考えられますが、わが息子ならおそらく、雨が降る、降らないにかかわらず12時ちょうどに洗濯物を取り込むでしょう。雨がすでに降っていたり、良い天気であったら叱ってしまうかもしれません。
 けれど発達障害について学んだ今の私は、息子にこう言います。「ぽつんと雨が降ってきたら洗濯物を部屋にかけておいてね」。一番伝えたいことを具体的に、経験や発達に合わせて伝えることで、息子はしっかりとお手伝いができ、私も褒めることができるようになりました。皆さんの周りにも、きちんと話してもなぜかうまく伝わらない、臨機応変に対応できない人はいませんか。発達障害を知り、伝え方を変えることで、あなたご自身も相手も、生活しやすくなるかもしれません。
(2017年3月号掲載)

世代間による子育ての違い

 現在は、希望すれば「祖父母手帳」を交付してくれる自治体があることをご存知でしょうか。みんなで力を合わせて子育てをする体制が広がる一方で、祖父母世代との子育ての仕方の違いに悩むお母さんやお父さんたちの声も、まだまだ聞かれます。
 よくあるのは、赤ちゃんが泣いたときの対応や、虫歯についてです。以前は、抱き癖がつくから良くないといわれていた抱っこですが、今は心の成長に必要なので泣いたらすぐに対応してあげるようにといわれています。虫歯についても、以前は大人が食べやすいように嚙み砕いたり取り分けながら子どもに食べさせていましたが、今は大人の口から虫歯菌がうつることがわかり、食器類も分けて使うようになっています。母乳の与え方やトイレトレーニングについても世代間で考え方に違いが生じる場合があり、戸惑うようです。
 実は保育の世界でも、世代間で考え方や方針に違いがあり、話し合いや勉強会を必要とすることがあります。子育てを取り巻く情報は変化、進歩していきます。そのなかで、我が子、我が孫を大切に思うからこそ、意見がぶつかってしまうことがあります。お互いの意見を参考にしながら目の前にいる我が子としっかり向き合い、子どもの心に寄り添って何が必要なのかを選びたいですね。
(2017年5月号掲載)

将来が明るくなった瞬間

 先日、発達障害の診断をうけている息子の中学校で、社会体験が行われました。息子は半年前から再び不登校ぎみの生活を送っていたために、私も学校の先生方も心配しながら当日を迎えました。受け入れ先は、近くの保育園。私も保育士なので、保育園での1日の流れや体験させていただけるであろう内容を本人に伝え、送り出しました。
 周りの助けや理解、陰での支援もたくさんあったことと思いますが、息子は3日間楽しそうに通い、帰ってくると毎日、その日の様子を話してくれました。そして最終日には、「保育士になりたい」と体験の記録ノートに書いていました。集団生活が始まって10年。毎日辛そうに登校する息子の将来が、一気に明るくなった瞬間でした。就職するにあたっては、周りの理解、支えは必要になるでしょう。また、障害があることで選択肢も少ないことでしょう。けれど、社会の一員として受け入れてもらえることを願ってやみません。
 発達障害は、大人になってから病院に行って初めて診断されるケースも多いと聞きます。自分の特徴を知り、周りにどんなことを助けてほしいのかを伝え、周りがそれを受け入れ助けてくれれば、自立も結婚もできるのです。「助けてほしい」と伝えるのは難しいことですが、もし伝えられたら、受け入れてもらえる世の中になることを心から願っています。
(2017年8月号掲載)

忘れられない言葉

 発達障害を持つ子どもは、1クラスに2人の割合といわれていますが、それと同じだけその子どもを育てている親がいます。発達障害は生まれてすぐにわかる障害ではなく、育てていくうちに「周りの子と比べて」、「周りに指摘されて」診断に至るケースも多くあります。そのため私を含めて多くの親たちには、障害を受け入れることへの難しさがあります。「育て方が悪いのではないか」と自分を責め、なんとかしようと必死に育てているのに周囲からは「わがままな子」、「甘やかしているのでは」などと言われてへとへとになり、病院に相談したところ「育て方のせいではなく発達障害です」と診断されて安心したという話もよく聞きます。
 ある日、息子が学校で金子みすゞさんの「私と小鳥と鈴と」という詩を習って帰ってきたときのことです。「みんなちがって、みんないい」という一節があり、「先生に、みんなちがって、みんないいって話をきいたけど、ぼくは、みんなと同じがよかった」と言ったことに、大きな衝撃を受けました。周りの皆さんには、「みんなちがってみんないい」と思ってほしい。けれど、息子も私自身も「みんなと同じがよかった」というのが本音のように思え、この何気ない言葉が今でも忘れられません。
 保育の現場でも、発達障害と向き合う親子に出会います。状況が少しでもよくなるために、発達障害への理解が広まることを願ってやみません。
(2018年2月号掲載)

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