特集

弊所発行の「月刊クリンネス」に掲載された過去の連載コラムの中から、テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。

温泉って、どんなもの?

健康保養地医学研究所 所長(執筆当時) 阿岸祐幸

いきもの 温泉って、どんなもの?温泉って、どんなもの?

 日本は源泉が約2万7000か所、温泉地は3000か所もある温泉天国です。全国民一人ひとりが、平均して1年に1回は温泉に泊まりに行くことになるほど温泉好きでもあります。
 温泉とは「地中から湧き出る温水、鉱水および水蒸気その他のガスで、湧き出たときの泉水温が25℃以上あるか、あるいは鉄、硫黄など18種類の決められた物資のうち、ひとつでも基準値以上含まれているもの」と定義されています。温泉は温かいものと思っている人は多いでしょうが、冷たくても一定値以上ある成分が溶けていると温泉なのです。
 温泉は地中の深いところで生まれ、水と熱と化学成分からなっています。水は雨水などの地表水が大部分で、循環水として地下に浸透していき、そこでマグマから熱エネルギーをもらって高温になります。成分は、周囲の岩石の性質で特徴ある泉質となります。
 このような温泉は地表に湧き出ると温度や圧力が急に低下し、酸素の多い空気に曝さらされると化学的性質も変わります。炭酸ガスや硫化水素ガスなどの気体は空気中に逃げていき、温泉中に溶けていたカルシウムや硫黄などは結晶を作って沈殿します。体への薬理作用も時間が経つに従って低下したりなくなってしまうエージング(老化)現象が起こりますので、温泉は新鮮な湧き出たままの状態で利用したいものです。
(2013年12月号掲載)

いきもの 温泉って、どんなもの?温泉のさまざまな利用法

 温泉の利用は湯船に首まで浸かる全身浴が一般的ですが、他にも多くの効果的な利用法があります。
 打たせ湯は高い所から温泉を落下させて肩や腰などに直接当てて、温熱刺激と水圧によるマッサージ効果で、肩こり、腰痛、筋肉の痛みによい方法です。湯の中で、浴槽の壁やホースから湯を噴出させて体に当てる水中圧注法もあります。この場合、手足の先の方から体の中心部に移動させるのがコツです。気泡浴は、浴槽の底や壁から空気や炭酸ガスなどの気泡を噴出させて体に当てるマッサージ法です。
 湿式サウナ(蒸し風呂、蒸気浴)では温泉や海水、ハーブなどの蒸気で満たされた浴室に入ります。水圧がなく、発汗作用が強く、蒸気に含まれているミネラルやハーブ成分を鼻から吸入すれば、痰(たん)を溶かしたり切れがよくなります。喉をよく使う人や慢性気管支炎などに効果的です。
 吸入療法は温泉や海水を霧状にした部屋の中で、20分ほど安静にして、深呼吸をします。吸入器で直接鼻から吸入する治療法もあります。
 泥浴は天然の鉱泥(こうでい)、泥炭(モール)、火山灰(ファンゴ)などを温泉で薄めて温め、全身や、痛みや腫れのある関節部に貼布するものです。
 飲泉は、温泉中のミネラルを胃腸の粘膜から吸収するので、ミネラルの補給、消化吸収の促進、便秘や胆石によいものがあります。
(2014年2月号掲載)

いきもの 温泉って、どんなもの?日本の温泉の特色と体への作用①

 温泉で湧出(ゆうしゅつ)時の泉温、溶存成分、濃度などから医療効果が期待されるものを療養泉といい、9種類に分けられます。主な療養泉には次のようなものがあります。
・単純温泉―源泉の水温が25℃以上で、溶存塩分が1000mg/L未満の薄い温泉です。体に穏やかで刺激性が少なく、子どもから高齢者まで万人向けの名湯といわれる温泉が多くあります。鎮痛や鎮静作用があり、病後のリハビリや心身のリラクセーションに適します。十勝川(北海道)、鹿教湯(かけゆ)(長野県)、下呂(岐阜県)などが有名です。
・塩化物泉(食塩泉)―入浴ではよく温まり、保温効果が強く「熱の湯」といわれます。鎮痛作用もあり、冷え症、関節・筋肉痛、血流改善、筋の緊張を取るのに適します。殺菌作用もあります。吸入で痰(たん)の切れが良くなり、出しやすくなります。不老不死(秋田県)、熱海(静岡県)、有馬(兵庫県)などがあります。
・炭酸水素塩泉(重曹泉)―皮膚表面の角質層を溶かし軟らかくするので、肌が滑らかになり「美肌の湯」といわれます。皮膚の脂肪や分泌物を取るため、浴後に清涼感があり「冷えの湯」ともいわれます。洞爺湖(とうやこ)(北海道)、東山(福島県)、別府(大分県)などが有名です。
(2014年4月号掲載)

いきもの 温泉って、どんなもの?日本の温泉の特色と体への作用②

 前回に引き続き、医療効果が期待できる療養泉をご紹介します。
・酸性泉―肌の弱い人では時に湯ただれを起こします。抗菌作用が強く、慢性皮膚病、疥癬(かいせん)※1 、水虫などに効果的です。登別(北海道)、酸ヶ湯(すかゆ)(青森県)、玉川(秋田県)、別府(大分県)。
・二酸化炭素泉(炭酸泉)―手足の血管を広げ、血圧を下げます。冷え性、関節・筋肉痛に良く、飲泉で消化吸収を助けます。歌登(うたのぼり)(北海道)、木曽(長野県)、有馬(兵庫県)。
・硫黄泉と硫化水素泉―皮膚角質を溶かし、末梢血管を強く広げる作用があります。末梢循環障害、関節痛、乾癬(かんせん)※2 、慢性湿疹、気管支拡張症に適します。登別、酸ヶ湯、鳴子(宮城県)、白骨(長野県)、湯の峰(和歌山県)。
・放射能泉―天然温泉中のラドンやラジウムの線量は低く、細胞の機能を活性化します。神経・筋肉痛、関節リウマチ、変形性関節症などが適応症です。村杉(新潟県)、増富(山梨県)、有馬、三朝(みささ)(鳥取県)。
・硫酸塩泉―末梢の血行を改善し、飲泉で胃腸や胆・肝臓の働きを盛んにします。便秘、慢性肝・胆嚢炎に良いです。浅虫(青森県)、作並(宮城県)、毒沢(長野県)。
・鉄泉―湯の色が赤く、血行を改善します。恵山(北海道)、松代(まつしろ)(長野県)、有馬。
 温泉は、症状に合わせて効果的に選びたいものです。
(2014年6月号掲載)

※1 ダニの寄生による皮膚感染症
※2 慢性の皮膚角化疾患

いきもの 温泉って、どんなもの?世界の温泉事情?ドイツのクアオルト

 温泉は世界中いたる所に分布していますが、特に欧州では医療や病気の予防に活用され、しかも温泉療法専門医の処方があると3週間にわたり社会保険が適用されます。
 ドイツでは、公的な基準に則った医療施設や人員が配置されている場所を「クアオルト」といい、約180か所あります。原則として地域の特徴ある植生や地形を活かした保養公園クアパルク、その中に会合や演奏会が行われる温泉保養館クアハウス、それに温泉療法医が常駐して入院患者やリハビリの利用者に処方や治療を行う設備がある総合温泉療法館クアミッテルハウスからなっています。
 現在では、自費でも楽しみながら医師の処方やアドバイスを受けることができるテルメという施設も多く見られます。クアパルクの周囲には、サナトリウム※ や専門病院があり、自炊できる民泊施設から大変豪華な保養ホテルなどが見られます。クアミッテルハウスには、泉質に応じた治療用入浴施設、水中運動プール、吸入室、飲泉室などがあります。
 最近のテルメでは、さらに伝統的東洋医療や美容室などが用意され、長期滞在でも飽きないように工夫されています。またクアオルトの周辺の地形を利用して、森林浴、トレッキング、タラソテラピー(海洋療法)などのメニューも組み込まれています。
(2014年8月号掲載)

※ 長期治療に向けた療養所

いきもの 温泉って、どんなもの?もっと温泉を楽しむために

 温泉でゆったり湯に浸かることは、心身のストレスや疲れをとるのに一番です。入浴を安全に楽しむには、湯温が決め手となります。42℃以上の高温浴では交感神経が興奮して血圧が急に上がったり、心筋梗塞、脳卒中などを起こしやすく、特に高齢者では温度への感受性が低下するので注意しましょう。高齢者の入浴関連の死亡数は年間1万5千人以上もあり、交通事故死よりも多いのです。一方、39~41℃のぬるめの温泉入浴は副交感神経系が優位になり、血圧は下がり、体の芯から温まり、気持ちを静めてよく眠ることができます。大きな浴槽では寝浴をしたり、腰や膝、足首の屈伸運動ができます。手足の先から体の中心部に向かってのマッサージはむくみをとり、血行を良くします。
 昔は、湯治(とうじ)という優れた温泉療法がありました。日常生活から離れた温泉場に1~3週間滞在し、農作業などによる心身の疲れや腰・膝のこわばり、痛みなどを温泉で癒し、しかも次の仕事への体力を養う意義がありました。
 温泉は、積極的な健康づくり、生活習慣病の予防、転倒防止や骨粗しょう症予防、介護予防、高齢者の憩いの場として最適です。1週間くらいは滞在して温泉浴でリラックスし、軽い運動や地元の食材による食事療法も組み合わせる健康づくりの場として、現代的湯治をしたいものです。
(2014年10月号掲載)

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