- 日替わりコラム
Fri
12/12
2025
「この件は、是非前倒しで検討すべきだ」などと使われる「前倒し」。これは、少し先に実施することを予定していた事柄について、状況の変化などに対応し、時期を早めて行うことをいいます。
「前倒し」は、古くからある言葉ではありません。『岩波国語辞典』によると、『「繰り上げ」でも済むのに、1973年ごろに官庁俗語として現れたのが、広まった語』と説明されています。当初は「俗語」扱いだったものが、だんだんと一般に定着してきたのです。
最近では、「前倒し」に対し「後ろ倒し」という言葉も広がっています。「後ろ倒し」は10年以上前から用例が見られますが、当初は公の媒体にはほとんど使われませんでした。しかし、近年、急に使用が増えています。ここ数日のニュースサイトを検索しただけでも、「利下げ予想時期を後ろ倒し」、「元旦営業を一部店舗で廃止し、初売りを1月2日に後ろ倒した」といった表現が見つかりました。
先に紹介した『岩波国語辞典』の最新版は、まだ「後ろ倒し」を載せていませんが、次の改訂ではどうなるでしょうか。新しい言葉がどこかから生じ、だんだんと広がっていく過程があり、ついには辞書などにも採用される……。そんな流れを観察していると、言葉は時代とともに変わっていくものであるということを改めて感じます。
文化庁国語課 主任国語調査官武田康宏
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