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12/16

2025

人生永遠のテーマを追った作家 向田邦子(27)「一杯のコーヒーから」

 向田邦子さんが、出版社の雄鶏社(おんどりしゃ)で雑誌『映画ストーリー』の編集者をしていたときのことです。昭和30年代初頭、ちょうどテレビの台頭が映画界に影響を及ぼし始めた時代です。映画関連の雑誌も徐々に勢いを失いつつありました。飽きっぽい性格の向田さんは、スポーツをすることで仕事の憂さを晴らしていました。
 そんな頃、毎日新聞で広告の仕事をしている今戸公徳(いまどきみのり)さんに松竹本社で会いました。今戸さんに近くの喫茶室に誘われ、やけに分厚くて重たいプラスチックのコーヒーカップでコーヒーを飲みながら、思いがけない誘いを受けました。「テレビを書いてみない?」。雑誌の原稿は証拠が残るけれど、テレビは一瞬だから大丈夫。よかったら紹介する、と言われたのです。そして新人作家で作っている「Zプロ」に入りました。週に一度集まって日本テレビ『ダイヤル110番※ 』のシノプシス(あらすじ)を発表し、内容が良ければ脚本化するという段取りです。最初の題名は確か「火を貸した男」でした。オンエア翌日に出社したときには、副業がバレたのではないかとビクビクしていましたが大丈夫でした。以来、スポーツ好きの向田さんはスキーに行きたい一心で、小遣いが欲しくなるとあらすじを考え、持っていきました。よもやこの職業で食べていくことになろうとは夢にも思っていませんでした。

※  日本テレビ系列の捜査ドラマの草分け的作品(1957~1964年)。フィルムと生放送をリンクさせる構成で高視聴率を維持した

写真技術研究所別所就治

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