- 日替わりコラム
Wed
1/7
2026
ある日突然、クモの円網が捕虫用ではない「要塞」に作り替えられます。設計者はクモではありません。背に取り付いたクモヒメバチの幼虫です。幼虫は蛹化直前、クモの神経を操って粘着スパイラルを回収させ、ランダムに走らせた放射糸と枠糸を何度も補強させます。さらに綿のような装飾糸を吹き付けさせ、紫外線を強く反射して鳥や昆虫の衝突を防ぎます。できた「操作網」は、外周(枠糸)で3倍以上、円内(放射糸)で30倍以上も頑丈——安全な足場が整うと幼虫はクモを殺し、自らの繭を掛けます。他者の体で自らの建築を成す、驚異の戦略です。
この研究は、ギンメッキゴミグモとニールセンクモヒメバチの組み合わせで実証されました。操作網はクモが脱皮前に作る休息用の特殊網と酷似し、幼虫はそのプログラムを”借用“しているようです。人為的に幼虫を取り除いても操作はしばらく続くことがわかり、ハチがクモを脱皮前の生理状態に化学的に誘導している可能性が示されました。
この種に限らず、多数のクモヒメバチで多様な網操作様式が知られています。寄生者の利益のために寄主が働き、成果物はハチの生存を守ります。利己的遺伝子の「延長された表現型」を体感できる、背筋が寒くなるような生態です。自然の”安全設計“には現場の学びもありますが、この設計者は情け容赦がありません。
参考文献:
Takasuka K., Yasui T., Ishigami T., Nakata K., Matsumoto R., Ikeda K. & Maeto K.(2015) Journal of Experimental Biology 218, 2326―2332. Takasuka K. & Broad G.R.(2024) Contributions to Zoology 93,1―106.
九州大学 大学院 理学研究院 助教髙須賀圭三
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