- 日替わりコラム
Wed
2/25
2026
寄主のクモは、本来なら洗練された自作の網や捕縛糸で獲物を絡め取り、網に干渉する者たちを難なく退けます。ところがクモヒメバチは、寄主ごとの網の「作法」に合わせて近づき、暗殺のごとく一撃でクモを麻酔し産卵を果たします。その戦術は種ごとに多岐にわたり「クモを一度は追い出し円網の中心で戻りを待ち伏せする」「網に獲物がかかるまで待ち、捕虫のため隠れ家から出てきたところを攻撃する」「粘着糸を獲物のように揺すって誘い出す」「不規則三次元網では葉のシェルターにそっと忍び込む」、あるいは「獲物らしく捕虫シート網に飛び込み、接触の瞬間に刺す」——いずれも寄主の網構造と行動に著しく特化しています。
共通するのは、押し込み強盗のような派手な力押しではなく、「敵と気づかれないこと」を最優先にした一貫して保守的な接近です。気づかれぬよう接近して寝首を掻き、あるいは相手をあえて退避させて長く待ち、捕虫時に隙があるならその時機を待ち、誘える場面では自身が獲物を装います。すなわち、クモは攻撃されたこともわからないうちに眠らされ、覚醒後には体表に死の宣告ともいえる寄生者の卵がすでに産みつけられているのです。
かようにクモヒメバチは、網という強固な防壁を多様で巧妙、しかし保守という一貫したやり方で攻略してきました。
参考文献: 髙須賀圭三(2019)昆蟲(ニューシリーズ)22(1):11―23.
Takasuka K. & Broad G.R.(2024) Contributions to Zoology 93, 1―106.
九州大学 大学院 理学研究院 助教髙須賀圭三
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