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2026

社会寄生性アリによる母殺教唆型寄主操作

 地中にあるアリの巣の奥には光が届きません。したがって、アリにとって嗅覚情報はヒトにとっての視覚情報に匹敵する意思決定基準となります。嗅覚を中心とした正確なコミュニケーションによって高度に統率された社会が形成され、ワーカーは実母である女王をコロニーのもっとも重要な存在として堅固に護衛し、全霊を尽くして世話をします。そこには暗闇でも女王だとはっきりわかる匂いがあるのです。ところがその女王の匂いが突如危険な外敵の臭気に豹変し、娘であるワーカーたちが実母を一斉に攻撃し始め、絶命させてしまう現象が存在します。にわかに信じられないこの実母殺しには、実はコロニー外の犯人がいるのです。
 その黒幕は一時的社会寄生性アリです。これらのアリの新女王は寄主アリの巣内に単独で侵入し、寄主女王を排除した後に寄主ワーカーに自分の子どもたちを育てさせます。この習性を持つケアリ類のうちの2種はいずれも、新女王がコロニーに侵入した後、寄主女王に接近し相手に向けて腹部液体を腹端から正確に噴射します。これにより、寄主コロニーの洗練された嗅覚ネットワークは完全にハッキングされ、ワーカーは実母を殺すことを教唆されるのです。ケアリ属はアリ科の中で唯一蟻酸(ぎさん)を産生できるヤマアリ亜科に属しているため、このワーカー操作を引き起こす液体の主成分として、蟻酸が有力視されています。

参考文献:Shimada T., Tanaka Y. & Takasuka K.(2025). Current Biology, 35: R1079-R1080.

九州大学 大学院 理学研究院 助教髙須賀圭三

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