- 日替わりコラム
Wed
8/5
2026
6月号に引き続き、環境による性決定の事例として、海洋性の環形動物の一種であるボネリムシの性決定を紹介します。
ボネリムシの雌個体は7cmほどの大きさでT字型を呈し、海底に固着して生活します。雄個体は雌に付着・寄生し、1~2mmにしか成長しません。雌と寄生している雄との間で繁殖が行われます。孵化(ふか)した幼生は、初めは浮遊生活をします。そして、この段階では幼生の性は決まっていません。幼生は浮遊している間に成熟した雌に接触すると、付着して寄生生活を始めます。その後3日ほどで雄になります。しかし、幼生が雌に付着する機会がなく水底に沈むと雌として成長し、別の幼生の接触を待つことになります。
仮にこの生物が私たち哺乳類と同様の遺伝性決定を採用していたら、どうなるでしょうか。幼生の性が初めから決まっていると、理論上、単独で固着生活を始める個体の半分は雄になります。小さな雄が水底でいくら待っていても、雌と接触する機会はほとんど訪れないと考えられます。そして雌としても接触してくる幼生の半分が雌となりますので、繁殖の機会が減ることになります。したがって、この種にとっては初めから性を決めておくことは不利に働きます。接触の有無による性決定は、まさに固着性生活と寄生性繁殖に適応した形質といえます。
中部大学 応用生物学部 准教授松原和純
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