Kanbunken 環境文化創造研究所

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Wed

11/18

2020

南の島とラーメン

 その男性は窓の外を眺めていました。高台の緑の彼方に広がる海原、そしてテーブルにはラーメン。男性はポツリと「たまに食べに来るんです。特に味がいいわけでもないんだけど」。東北三陸地方の公園にある景色の良い茶屋で、隣席に居合わせた私たち相手に男性は語り始めました。
 彼は戦時中、南洋の島にいました。激戦地ではなかったのか日本兵と現地人との仲は良好で、男性は食料調達のために集落をよく訪れたそうです。そのうち村の首長に信頼され、娘さんと結婚しました。「結婚式は盛大でしたが、ご馳走はなぜかラーメンでした。洗面器みたいな大きな丼にたっぷり入ったラーメンをこうやって抱え込んで花嫁と花婿が食べるんです」と、彼は笑ってテーブルに置かれたラーメン丼を両腕で抱え込みました。やがて子どもにも恵まれ、幸せな日々を過ごします。ところが終戦で、兵士たちは全員帰国。彼も泣く泣く日本へ。「それで、どうなったのですか?」。「何度も島へ行こうと思いました。でも結局、行けずじまいでした」と、男性は再び海へ遠いまなざしを向けました。
 その後、男性は故郷で新たな所帯を持ち「普通の日本人」として暮らします。そんな中、温かな陽光に黄金色に輝く海、そしてラーメン。南洋の妻や我が子とつながれる唯一の舞台装置が、この茶屋だったのです。30年前の、旅の昼下がりのことでした。

ノンフィクションライター眞鍋じゅんこ

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