- 日替わりコラム
Fri
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2021
中米のニクバエは、日本にいるニクバエと同様、親バエが卵ではなく幼虫を産む卵胎生です。幼虫は動物の死骸を食べるので、親バエは死臭を嗅ぎつけて死体に直接幼虫を産みます。1匹の雌が産む幼虫数は、私たちの観察では23~72匹でした。幼虫は4~5日で成長し、肉汁から這い出てきて地中で蛹になります。
鶏レバーを容器に入れて熱帯雨林の林床に置き、そこに来るハエを毎日観察すると、2日目にまず小さなノミバエが来ます。次に金属光沢のあるクロバエが来て、たくさんの卵を産みます。卵は1日以内で孵化します。4日目くらいに来るのがニクバエです。遅く来ても幼虫を産むので、餌の奪い合いには負けません。実験室でニクバエの幼虫にさまざまな量のレバーを与えたところ、蛹の体重は最大186mgで最小は22mgと、なんと9倍近くの差がありました。最大体重を100kgの人間にたとえると、最小体重はわずか12kgということになります。餌の少なかった幼虫は早く蛹になり、そして早く成虫になりました。
動物の死体はハゲタカや他の哺乳類の餌でもあり、ニクバエの幼虫が発育の途中で彼らに餌を奪われてしまう危険性が高いのです。そんな状況でニクバエは、十分な餌が摂れなくてもちゃんと蛹になって無事に成虫になれる柔軟性を進化させてきたのでしょう。
参考文献:『熱帯昆虫のふしぎ―ステノターサスのすむ森で』田中誠二著 文一総合出版(1993)
: Tanaka, S., Guardia, M., Denlinger, D. L. and Wolda, H. Res. Popul. Ecol.(1990)32: 303-317.
元農林水産省 蚕糸・昆虫農業技術研究所 研究室長田中誠二
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