- 日替わりコラム
Fri
10/13
2023
最近、『ピュア』という衝撃的かつ面白い短編小説に出会いました。物語の舞台は未来の地球、遺伝子操作により女性が強大化し、すべての面で男性を圧倒しています。女性の最大の使命は妊娠して子どもを作ることで、そのために男性を襲っては性交し、相手を食べてしまわなければなりません。まるでカマキリのようです。実際、作者の小野美由紀さんも「カマキリが念頭にあった」と述べています。
カマキリのオスは、自分より強大なメスに気づかれないように接近して交尾し、交尾後あるいはその最中に頭から食べられて命を落とします。しかし、オスを食べて栄養補給したメスは、食べなかったメスの倍近い数の卵を産むという研究報告があり、その死は子孫繁栄に役立っているのです。メスがオスを食べる「共食い」は、最も高頻度に共食いをする種でも、3回ないし4回の交尾につき1回程度だということです。また、交尾は何度もみられているのに、オスが食べられた観察例のない種もあります。オスはなんとかメスの目をくらまして生き延び、複数のメスと交尾して数多くの子孫を遺そうと必死になり、一方メスは、オスを食べて産卵数を増加させ、子孫を多く遺そうとします。見かたを変えると、交尾という行為は「オスとメスの生存闘争」の最前線なのかもしれません。
稲岡徹
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