- 日替わりコラム
Wed
5/29
2024
向田邦子さんは理論で決めつけることなく、言葉ひとつの中に想像性を広げます。1972年に放送された『新・だいこんの花』というドラマの17話に以下のようなやり取りがありました。森繁久彌(もりしげひさや)さん演じる永山忠臣は、元部下の相馬京太郎(大坂志郎)がやっている料亭に行きます。そこで京太郎の後妻の息子で、ホテルマンになった井村健太郎(松山英太郎)との会話です。
忠臣が健太郎に、ホテルマンとしての座右の銘は何かと問います。「ちょっとおこがましいのですけどね。『行き届いた無関心』です」。ハッとした忠臣は「行き届いた無関心!う~ん」。「いままでの日本の旅館は、この逆だと思うのですよ。『おこしやす』なんて言ってね。女中さんが褞袍(どてら)着るのを手伝ったりして、あれ年寄りの感覚なのです。いまの若い人たちは放っておいてもらいたいのですよ。それよりか、パっとお湯がすぐに出たり夜中にお腹がすいたらサンドイッチがすぐに食べられたりするような、そういった設備やサービスは行き届いていて、感情やプライバシーは無関心。これが新しいホテル経営でね……」、「もっともだね~」と言って一同笑い出す。
これはホテルの今の姿を50年前の念願として述べたものですが、逆にいえば、半世紀前の伏線を知るうえで良いセリフだとも思いました。
※ 1970年から1977年にかけてテレビ朝日系列で毎週木曜日に放送されたドラマ。全5部。第3部から向田邦子の単独執筆になる
写真技術研究所別所就治
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