- 日替わりコラム
Wed
1/29
2025
ドブネズミとクマネズミは繁華街で共に生活していますが、最近、両種の交配によるハイブリッド種が誕生しているかのような記事が散見されます。しかし、過去の観察では、両種が生息しているところでもその交雑子孫は生じていません。これを裏付けるように九州大学でのドブネズミとクマネズミの人工交雑実験結果が古くから報告されています※1 。論文によると、メスのダイコクネズミ(ドブネズミと同種の実験用ラット)とオスのクマネズミとの交雑を人工授精によって行ったところ、正常に受精することが認められましたが、受精卵に異常が発生し、分娩は一例もありませんでした。一方、ダイコクネズミ同士の交尾、または人工授精による妊娠は正常でした。これらのことから、メスのダイコクネズミとオスのクマネズミの交雑においては、妊娠の前半に胚の発生が異常となり、次第に退化吸収されるものと考えられました。
しかしながら、今後は科学技術の進歩からその雑種が誕生してもおかしくありません。もしドブネズミとクマネズミの交配で子孫ができ、それぞれの長所が表現されるならば、体が大きく獰猛なドブネズミの因子、殺鼠剤に耐性をもち警戒心の強い、しかも登攀(とうはん)※2 能力に優れたクマネズミの因子が合わさり、スーパーネズミが生じてしまうかもしれません。そうさせないためにも各研究機関の倫理を遵守しなければなりません。
※1 平岩馨邦、吉田博一(1955)ドブネズミとクマネズミ間の受胎:Ⅱ.人工助精による交雑実験.九州大学農学部学芸雑誌15:(2)267―273.
※2 手足を使ってよじ登ること
イカリ消毒株式会社 名誉技術顧問谷川力
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