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2025

人生永遠のテーマを追った作家 向田邦子(21)「犬小屋」(筋書き)

 麻酔医と結婚し2人目の子を身ごもった達子が電車に乗ると、ある親子連れを見かけました。母親は妊娠しているようで、その夫の仕草を見た時に達子はハッとしました。以前家に来ていた魚屋・魚富の若い衆「カッちゃん」だと気づき、とっさに隠れようとしました。そしてカッちゃんがかつて実家に通っていた時のことを思い出していました。達子の飼い犬が魚富の若い衆にもらった鯖の中に紛れていた河豚(ふぐ)の毒にあたったことから、その若い衆・カッちゃんとの交流が始まったのです。
 人は好意を抱く人の理解を得るために、自分を大きく見せようとするものです。カッちゃんは達子の気を引くために犬の世話をよくしていました。大きな犬小屋を建て、犬に魚を与え、魚料理を達子たちに振る舞いました。カッちゃんは愛情表現が残念な人です。カッちゃんがある時こんな話をしました。犬には犬地図が存在し、どこの電柱に自分の匂いを付けたのか、どこにいじめっ子がいてどこにご馳走があり、どこに憧れの牝犬がいるか犬は理解している、という話でした。
 カッちゃんは達子たちに自分の匂いを付けたといえるのかもしれません。そしてカッちゃんの恋心は未遂に、自殺も失敗し、すべてが終わりました。達子は乗換駅に着きました。別れ際にずり落ちそうなほど大きなカメラをしっかり押さえているカッちゃんの手が見えました。

写真技術研究所別所就治

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