- 日替わりコラム
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6/9
2025
食料安全保障には、入手可能性・アクセス・活用・安定性という4つの要素が不可欠であることは前回述べました。さらに近年では、持続可能性と主体性の重要性が指摘されています。
かつて「飽食の時代」といわれましたが、現代日本の食生活が本当に持続可能かという問題は深刻です。資金があっても入手できない食材が出始めており、供給リスクが顕在化しています。また輸入品が国産品より低価格の場合、安価なほうを選びたくなるのは自然ですが、それがいつまで持続可能かは不透明です。輸出国が供給を止めれば、日本の食料事情は大きな影響を受けます。そこに持続可能性の問題が絡んできます。
一方、主体性は英語ではagencyと表されます。何を選び、どのように調理し、いつ食べるかといった自律的な行動は、人間が生きるための本質的な条件です。いくら栄養価の高い食品でも、嫌いなものや強制的に食べさせられるような状況では安全保障が十分とはいえません。市場原理には多くの利点がありますが、行き過ぎれば社会的弱者の主体性を奪い、食料供給に混乱を招く可能性があります。
食料安全保障を考える際には、持続可能な形で必要な食料を確保すると同時に、社会的弱者の主体性も尊重しながら実施することが求められます。この両面を常に念頭に置くことが重要です。
宮城大学 副学長 食産業学群 教授三石誠司
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