- 日替わりコラム
Thu
8/7
2025
「ごはん、ある?」と言われたら、どう受け取るでしょうか。単にごはんの有無を聞いているのかもしれませんし、何か食べたいと言いたいか、食事の準備を遠回しに要求している可能性もあります。また、「ごはん」といっても、炊いたお米なのか、パンでもパスタでも食べられるなら何でもよいのかなど、文脈や状況で意味は違ってきます。
人とのコミュニケーションにおいて、時に言葉は、手掛かりにすぎない場合があります。言葉だけに頼っても、相手の伝えようとしていることが十分にわかるとは限りません。言葉をよりどころとしながら、そのほかの情報、たとえば、場面や相手との関係、周囲の状況などを考え合わせながら、互いの伝えたいことを理解しているのです。
もちろん、「レトルトカレーを買ってきたから、白いごはんがあるとうれしい」、「お腹が空いたから、何か食べるものがあったら頂きたいのだけど」などと、詳しく伝えれば済むこともありますが、ふだんはそこまで気を付けません。親しい人に対しては、なおさらです。
言葉が届いていたとしても、伝えたいことが確実に伝わるとは限りません。言葉だけで誤解を防ぐことは難しいのです。そのことを理解していれば、相手に対して寛容になれるだけでなく、人とわかり合うためには努力を重ねるしかないという覚悟ができるかもしれません。
文化庁国語課 主任国語調査官武田康宏
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