- 日替わりコラム
Fri
8/29
2025
この作品は銀座のタウン誌『銀座百点』の連載として発表され、後に『父の詫び状』という随筆集の1つとして書籍化されました。その内容のすべてが向田さんの少女時代の思い出でつづられており、昭和初期の庶民の哀感が、向田さん独特の視線と鋭い観察眼、そして驚異的な記憶力を通して見事に浮き彫りになっています。
この作品は昭和61年にNHKで一度だけドラマ化されています。脚本はジェームス三木さん、そして演出は深町幸男です。深町は「愛情をこめて、きめ細かくしっかりと演出しました」と語っています。向田さんと深町は年齢では1つ違いです。昭和初期の独特な世界観を同世代に生きた者として、その雰囲気をただ描くのではなく、行間に潜む「言葉の広がり」を理解して、その時代の「風土」を見事に描いていました。深町の演出は「ナマ身の人間の息遣いを感じさせる自然な演技」を求めます。この作品のエピソードは、ドラマの中ですべて採用されています。そして当時の人たちの心の機微を、今の人たちにもコミカルにわかりやすく演出しています。
ドラマ『父の詫び状』はDVDやNHKオンデマンドで観ることができます。作品を読んだ時のイメージを、ドラマも観て比較してみるのも一興です。昭和初期の風土が見えてくることでしょう。
写真技術研究所別所就治
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