- 日替わりコラム
Fri
12/5
2025
ある作家は、いつも家の縁側でゴロゴロしながら小説のネタを考えていたそうです。そして妻は、そんな夫を邪魔者扱いにしていたといいます。ところが、作家が「これだ!」とアイデアを思いつき、2階の書斎で机に向かってカリカリと原稿用紙に文字を書き始めたら、それを見た妻は「やれやれ、うちの旦那がようやく仕事を始めてくれたわ」と言ったそうです。それに対して作家は「何を言っているんだ。これは仕事じゃなく、作業だよ」と言ったそうです。
以上の話は、オフィスでの働き方にも当てはまる昔ながらのワークスタイルでもあります。つまり、縁側でゴロゴロしている姿はサボっている姿であり、机に向かってカリカリしている姿が仕事をしている姿なのです。しかし、作家の本当の仕事は物語を創造することであり、机に向かって文字を書く行為は、創造物を文字に置換する作業にすぎないのです。かつてのオフィスは机だけが並ぶカリカリ空間でしかありませんでした。しかしながら、現在は創造的な仕事が主体です。つまり、作家の例でいうゴロゴロ空間が求められているのです。
昨今、自席以外での場所選択的な働き方が広がりつつあります。これは換言すれば、(カリカリ空間と一緒に)いかにゴロゴロ空間を作っていくのか、という課題にほかならないのです。
東京造形大学 名誉教授地主廣明
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