- 日替わりコラム
Tue
9/15
2026
向田邦子さんの作品はどのようなものか。この問いだけで論文が書けそうですが、あえてそれを簡潔に書いてみましょう。
向田文学の凄さは、物語の情景を思わせる描写を多発させることで、読者の想像力を掻き立てる巧みさです。ある程度書いたら、あとは読者の想像力に任せるのです。ゆえに行間から情感の機微を感じ取ることができます。「声色や顔色」も文章で表現するため、その前後関係から、人物の雰囲気を確実に読み取ることができるわけです。
この考え方の原点は、かつてのホームドラマに関わった脚本家たちが基本路線とした「松竹蒲田調」にあります。それを創出した城戸四郎※ さんが以下のように記しています。「人間社会に起こる身近な出来ごとを通して、その中に人間の真実というものを直視することである。(中略)映画の基本は救いでなければならない。見た人間に失望を与えるようなことをしてはいけない」。この言葉にすべてが集約されています。
日本で初めて、サラリーマンという中産階級が興った大正期は、この層が日本の娯楽産業を支えていました。この階級の生活から脚本の題材を採ることは、同時性・共時性の観点から支持された行動でした。向田さんが雑誌編集者として活躍し、松竹映画の脚本に多く接していたことからも、自身の知識の出発点になったといえます。
※ 松竹蒲田撮影所所長(三代目)、後の松竹会長。
引用は『日本映画伝——映画製作者の記録』(文藝春秋新社・1956年)より
写真技術研究所別所就治
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