- 日替わりコラム
Tue
9/22
2026
夜中に目が覚めると、長い廊下の突き当たりの部屋から光が漏れていました。執筆している父の後ろ姿は、今でも鮮明な記憶として残っています。原稿は机の一番上の引き出しに鍵をかけてしまわれ、家族は父が小説を書いているのを知らないことになっていました。小説への志や情熱を探られたくない——そんな父の思いが、言葉にならないまま家中に浸透していて、それが我が家の暗黙のルールでした。
ある日、母が言いました。「大きな賞に応募したから、編集者から電話があるかもしれない」。胸が高鳴り、誇らしくも緊張した一日でした。どうしてそんな秘密を知っているのかを尋ねると、「郵便を頼まれた」とのこと。それなら間違いありません。しかし、期待に反して電話が鳴ることはありませんでした。こんなことは幾度となくありましたが、それでも私は信じていました。だって私は、賢い父の一番のファンだったのですから。
そんな中、私が心底あきれたのが「知りたがりの母」、別名おさるのジョージです。引き出しの原稿をこっそり盗み読んでは、父にひどく叱られていました。「なんでそんなことするの?」「なんちゅうデリカシーのない嫁や」「父さん傷つくやん」。そう言いたい気持ちをぐっと抑えながら、私は変わらず何も知らないふりをしていました。
ローカルフードサイクリング株式会社 代表たいら由以子
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