特集

弊所発行の「月刊クリンネス」に掲載された過去の連載コラムの中から、テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。

ぶらぶら歩きの極意(1)

ノンフィクションライター 眞鍋じゅんこ

娯楽 ぶらぶら歩きの極意(1)自分の町の観光案内を見つけよう

 私の仕事は「ぶらぶら歩くこと」。楽しそうでしょう。写真家の夫と「人の生活」を記録するために、国内外を歩き回って雑誌や書籍などに発表するのが20数年間の生業で、カルチャー教室の「散歩講座」も担当しています。そこで私が長年歩いて身につけた「コツ」を書くことにします。
 ぶらぶら歩きに先立って、私が必ずするのは情報収集です。
 まずはインターネット。現代では市町村ごとにホームページが作られ、そこに「観光案内」が紹介されて観光協会にリンクする場合もあります。登場するのは町の概要や歴史、見どころに祭りやグルメに産物。この中から興味深い事柄や観光マップをダウンロードして旅立つのです。
 パソコンが扱えない、という方もご安心を。現地の中心駅や役所、道の駅などには、きっと観光案内所があります。私は日本中を旅していますが、これまで訪れた観光地ではない地方都市から過疎村・離島にいたるまで、どんな自治体でも必ず無料の観光パンフレットがもらえることに心から感心しています。そして窓口の方は当然ながら地元通。時間に余裕があれば美味しい店や見どころなども説明してくれますよ。
 まずは手始めに、地元や隣町の情報収集をしてみましょう。私自身、へえ、ここはこんな町だったのかとびっくりしたものです。調べてみて興味深い目的ができると、散歩の足取りもいっそう軽やかになりますね。
(2013年11月掲載)

娯楽 ぶらぶら歩きの極意(1)「案内マップ」片手に商店街を歩く

 いわゆる「観光地」でなくても、日本中に見どころはたくさんあります。それを気づかせてくれるのが、役所や道の駅などで無料配布している観光パンフレット類です。
 自分の町も、よそゆきに書かれた説明によれば「へぇ」と驚くことが満載。近所の神社が文化財を所蔵していたり、見慣れた大木が歴史的にも由緒正しいものだったりして、地元を見直してしまいますよ。中でも面白いパンフレットは「観光マップ」です。「歴史めぐり」や「文学の道」などと、さまざまな分野別に描かれたものも少なくありません。
 そしてこの時期に面白いのは、なんといっても「商店街マップ」。各商店街振興組合が発行していて、よく商店街の店先に置かれています。「特売日」の新聞折り込みチラシから、周辺観光案内まで描かれたカラー地図にいたるまで、商店街と買い物にまつわる情報がぎっしり詰め込まれています。各店舗の営業時間やおすすめ商品など、読むだけでも楽しくてつい立ち寄ってみたくなります。普段は行かない商店街をぶらりと歩くと、まるで旅に来たような非日常感を味わえるのも魅力です。
 そろそろ歳末大売り出しの季節。福引き券をお目当てに、少し遠くの商店街まで連日通ってみるのも、散歩をより楽しくするスパイスのひとつ。目指せ、ぶらぶら歩いて「特等ハワイ旅行!」ですね。
(2013年12月掲載)

娯楽 ぶらぶら歩きの極意(1)神社仏閣は古地図探検の目安

 お正月には初詣。私も近所の氏神様をお参りします。古いお札のお焚き上げの炎や喧噪(けんそう)、真夜中の参拝は特別な気持ちになります。明治神宮や浅草寺といった有名どころは街中が大賑わい、門前歩きもまた楽しみです。受験生なら学業の神様天満宮など特別にお参りしたい神社仏閣もありますね。でも、いくつもの神社やお寺にお参りしてもいいの?
 「どうぞ。日本の神さまは大らかですから」とは、神社関係の方。むしろ江戸の昔から「大山阿夫利(おおやまあふり)神社の帰りに江の島神社参り」など、江戸っ子たちはハシゴ旅を楽しみました。当時からもっとお気軽なハシゴとして人気なのが「七福神めぐり」。これなど恵比寿様や大黒天など、元をたどれば神様や仏様、インドのヒンズー教に中国と盛りだくさんです。
 ところで神社仏閣は、もうひとつおもしろい活用法があります。古地図と現代地図比較の目印です。これらは大抵、江戸から昭和時代などの地図にもほぼ同じ場所に描かれています。すると「海の神様住吉神社が鎮座する佃島は、埋立て前には江戸湾に浮かぶ小島だった」ことや、「江戸城の東北に神田明神と上野の寛永寺、西南には芝増上寺と赤坂の日枝神社が、それぞれ江戸の鬼門・裏鬼門を守るために建立された」ことなどが、浮かび上がってきます。神社仏閣を起点に昔に思いをはせると、普段はビルに埋もれた町並みの散歩や参拝が、一層面白くなりますよ。
(2014年1月号掲載)

娯楽 ぶらぶら歩きの極意(1)近場で泊まって旅気分

 冬本番、遠くに出歩くのがおっくうになる季節です。これを逆手に取って、いっそ気になる近場の街で泊まりがけの散策はいかがですか。
 ビジネスホテルなら1人でも夜でも、気軽にチェックインできます。近頃は朝食無料やバイキング、週末にはさらにお値打ちプランの宿などもあります。電車の時刻を気にせずに、お酒も堪能できますよ。
 実は先日、私も横浜に泊まってみました。電車で数十分の距離ですが、のんびり夜景を眺めての食事、翌日は朝食をたっぷり食べて散策。なんだかぐんと街が身近になるから不思議です。「旅に出る」気負いもなく、旅費はほんの数千円。ターミナル駅に泊まって観光地に足を延ばすのも一考ですし、地方では大浴場や温泉付きビジネスホテルもあります。
 もっと上級編の遊びは「地元に泊まる」。月刊誌連載のために数年間、家族で東京の駅前旅館を泊まり歩いたことがあります。これが面白い。普段よく訪れる街も朝や夜の顔を垣間見ると、まるで見知らぬ土地を訪れたかのような旅情を楽しめます。泊まるのはいわゆる商人宿。本郷界隈の修学旅行生相手の旅館では、土産物売り場に並ぶ東京タワー文鎮がご愛嬌です。商店街で総菜やお菓子を買い込んで夜食に、なんなら近所の銭湯に、翌朝は喫茶店のモーニングサービスでのんびり。いつしか地元民になったような錯覚さえ覚える、中身の濃いぶらぶら歩きです。
(2014年2月号掲載)

娯楽 ぶらぶら歩きの極意(1)桜を求めて1日乗車券

 春になると驚かされるのが桜です。咲き誇って初めて「えっここに桜の樹があったの?」と目を見張ることもしばしばです。今年は自分なりに、お花見の場所を新規開拓しに出かけませんか。
 まず近場の駅で、1日乗車券を購入して電車やバスに乗ります。車窓を眺めるうちに見事な桜の姿を見つけたら隣駅で下車して、花を求めて見知らぬ町をさまよう。なかなか風流ではありませんか。実は私自身も以前、東京でバスに乗っていて赤いボンボリと夜桜がふと視界に飛び込み、思わず次のバス停で飛び降りたことがあります。普段は静かな神田川沿いにある文京区の江戸川公園が、この季節ばかりは大賑わいだったのです。以来、毎年のように川べりの桜散歩を楽しんでいます。
 神田川沿いに桜並木をしばらくさかのぼると、やがて面影橋(おもかげばし)に出ます。
 ここから都電荒川線に乗れば、江戸時代以来の桜の名所めぐりが始まります。新庚申塚(しんこうしんづか)駅から東南の一帯はソメイヨシノ発祥の地である旧染井村、徳川八代将軍吉宗が造らせた花見の名勝飛鳥山(あすかやま)、あらかわ遊園はなんと都内唯一の区立遊園地。隅田川に隣接して一帯は桜が満開です。
 1日乗車券があれば、こんな花見のハシゴも楽しいものです。そして最後は庚申塚駅で降りて、巣鴨のとげ抜き地蔵をお参りします。名物は塩大福、締めくくりはことわざに習い「花より団子」ということで。
(2014年3月号掲載)

娯楽 ぶらぶら歩きの極意(1)懐かしの通学路を散歩する

 春らんまんの町を、大きなランドセルを背負った新入生が胸ときめかせて歩く季節です。私も久しぶりに往年の通学路を歩いてみました。小学校は最寄り駅とは反対方向なので、本当に久しぶりの道筋です。
 遅刻との戦いだった開かずの踏切を越え、床屋さんの時計で時間をチェックするのが日課でした。見覚えのある店々のいくつかは、同窓生が跡を継いでいるはずです。いつも遊んだ公園は「こんなに小さかったかしら?」と感じます。「歩道橋から富士山が見えたらラッキーな日」と密かに占ったものですが、この日はあいにく花曇り※ 。でも懐かしい町並みが見晴らせます。当時のワクワクが蘇りながら小学校に到着すると、桜に囲まれた校庭には子どもたちの元気な声が響き渡り、思わずにっこり。帰り道はたまに通学路をはずれて、ドキドキ探検気分を味わったものです。学区は子どもたちにとって、小宇宙そのものでした。
 中学校にも足を延ばしました。懐かしい町並みの突き当たりが母校です。鉄門の向こうには広さに圧倒された校庭と校舎。けれどそこは静まり返っていました。統廃合の話は聞いてはいましたが、さみしいものです。
 帰りがけに、喫茶店でひと息。寄り道も今なら許されますよね。今度は高校や大学に遠出と、密かにプランを練っています。これに名所旧跡や気になる美味しそうな店を加えれば、散歩コースの出来上がりです。
(2014年4月号掲載)

※ 桜の花の咲く頃の、薄くぼんやり曇った空模様

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