Kanbunken 環境文化創造研究所

COLUMN

- コラム

弊所発行の「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

食品にまつわるトラブルから学ぶ(5)

公益社団法人 日本食品衛生協会 技術参与・ 一般社団法人 関東学校給食サービス協会 顧問 谷口力夫

特製コーヒーは墨の味?

 社会情勢の変化に伴い人々の働き方は多様化し、食品事業の就業環境も変化しています。しかし、人の健康に大きくかかわる食品安全への取組みは、変わることのない重要事項です。
 ある消費者が、コーヒー専門店でペットボトル入りの特製コーヒーを購入して帰宅しました。翌朝、開封したコーヒーは、色が黒く、香りもせず、一口飲んだ際には口の中が真っ黒になったとして保健所に届け出がありました。
 コーヒーの販売店を調査したところ、展示用サンプル品が間違って販売されていたことがわかりました。このサンプル品の中身はコーヒーではなく墨汁を薄めただけのものでした。店の繁忙時に、販売に不慣れな店員がサンプル品と気づかずに客に販売したことによる苦情でした。
 本事例は、店員の商品販売時における不注意が直接的な原因でした。しかしながら、その背景には店員の取り扱い品についての経験や知識の不足、営業者による販売方法の指導不足、忙しさや業務量に合わせた適切な人員配置の不備などの要因がありました。
 重大な食品事故を発生させないためには、小さなミスでもその背景要因までを十分に検討し、それぞれの就業環境に即した対策を改善しながら実施していくことが大切です。
(2021年1月号掲載)

にぎりずしにプラスチックの異物

 スーパー内のすし販売店で購入したにぎりずしに、硬いプラスチック片が入っていたと保健所に届け出がありました。異物は透明で1.5cm×0.5cmほどの大きさの両端が尖(とが)った硬いものでしたが、届け出者はすしを口に含んだ時に異物に気づいたため、ケガをせずにすみました。
 すし製造施設では魚介類をすし種に調製した後、アルミ製のバットに並べ、合成樹脂製のフタをして冷蔵庫内に保管していました。施設調査時はこのフタの多くにひびが入り、角が欠損している状態でした。異物の外観、厚み、材質などがすし種保管用バットのフタと一致したため、このフタの欠損部分がすしに混入して販売されたと判断されました。異物が透明であったことに加えて、作業者が大きめの使い捨て手袋を使用していたことが、異物混入に気づかなかった原因と考えられました。
 当該施設では異物混入の再発防止のために、すべてのすし種保管用バットのフタを、破損しやすいポリスチレン製の硬質プラスチックから耐屈曲性の高いポリプロピレン製に取り替えることとしました。
 食品取扱者が行うべき一般衛生管理は食品衛生法でも定められていますが、食品に使用する機械器具類が原因の異物混入を防止し、安全かつ衛生的に取り扱うことは最も基本的な項目のひとつです。日々の作業において、「小さな異常も見逃さない目」を大切にしたいものです。
(2021年2月号掲載)

脱酸素剤の混入したパウンドケーキ

 ある消費者が菓子店で容器入りの小豆パウンドケーキを購入し、自宅で開封して食べたところ、異様な歯ごたえを感じました。ケーキの中を見てみると「食べられません」と書かれた異物が目に留まりました。異物を乾燥剤の包装だと思った消費者は、健康被害が心配になって保健所に届け出ました。
 ケーキの中の異物は鉄が主成分の脱酸素剤とその包装の一部で、ケーキの生地に練りこまれた状態で焼き上げられていました。当該ケーキは、生地に原料である「調味済み小豆」を手作業で混合し、ケーキ型に分注した後に自走式オーブンで焼成(しょうせい)、放冷、包装して製造されていました。この「調味済み小豆」の包装内に使用されていた脱酸素剤が手順通りに除去されず、誤ってケーキ生地の中に混入したことが原因と考えられました。
 また、この工場では製造工程内に金属探知機を配置していましたが、使用目的はケーキ包装内への脱酸素剤の同封漏れがないことを逆検知するためで、製品内の金属異物確認には活用されていませんでした。
 食品製造現場においては、人的ミスをいかに少なくするかが常に重要な課題ですが、便利なはずの機械や装置をどのように有効活用していくのかについても見直しを行うことが大切です。
(2021年3月号掲載)

菓子パンに生きたイモムシ?

 ある消費者が自然食品店で袋入りの菓子パンを購入して食べたところ、パンの中から生きたイモムシが出てきました。驚いた消費者はすぐに店に連絡しましたが、その対応に不安を覚え、保健所による指導を求めて届け出ました。
 パンの中の虫は3cmほどの大きさで、野菜に付く蝶類の幼虫と思われました。調査の結果、パンの製造工場内、運送途中および届出者宅で虫がパンに入り込む可能性は低いと考えられました。
 当該店は、有機野菜、弁当、惣菜、パン、肉、魚、乳などの仕入れ販売専門店でした。パンは製造工場から未包装のまま番重(薄型の運搬容器)に入れられて店舗に配送された後、店内通路などの空きスペースを使って店舗従業員により簡易な個包装がされていました。当該菓子パンは生野菜のすぐ隣に置かれていたことから、野菜に付着していた虫が、一時保管中あるいは陳列中の菓子パンに移行する機会は十分にあったと推察されました。
 食品を製造する際に食材や工程ごとに区域や調理器具類を使い分けることは、二次汚染や交差汚染を防ぐための衛生管理の基本です。食品の流通、保管、陳列、販売する際にも、食品相互が衛生上の影響がない状態を保つことが重要です。
(2021年4月号掲載)

カシスケーキに緑色のカビ?

 端午の節句の伝統的な食べものといえば柏餅やちまきですが、子どもたちが大好きなケーキを用意するご家庭も多いのではないでしょうか。
 ある消費者が洋菓子店で購入したカシスケーキを食べようとした際、スポンジ部分に緑色のカビのようなものを見つけました。さっそく購入店に申し出ましたが、店側は「ケーキは製造したばかりなので、カビの発生はありえない」の一点張りでした。納得のいく説明を受けられなかった消費者は、苦情品を持って保健所に届け出ました。
 苦情品を確認すると、ケーキのスポンジ部分に青緑色の斑点が認められましたが、カビの発生は確認できませんでした。その後の検査で、青緑色の斑点はカシスジャムに含まれる紫色素アントシアニン※ が変色したものと判明しました。膨張剤が使用されたスポンジケーキはアルカリ性になっていたため、菓子店でケーキをカットした際に、ナイフに付着したカシスジャムの一部がケーキのスポンジ部分と接触したことで変色を起こしたのです。
 この事例の変色部分は、原料ジャムの植物由来成分によるものでしたので、喫食しても体には害のないものでした。食品の取扱い者は、消費者への正確な製品情報の提供が求められます。そのためにも、日頃から製品原材料の特徴についての理解を深めておくことが有用です。
(2021年5月号掲載)

※ 酸性側では赤系統の色、中性では紫色、アルカリ性側では青系統の色になる。
アジサイ、アサガオ、パンジー、ムラサキキャベツ、ブルーベリー、ナス、ブドウなどの植物の色の成分

シンナー臭のするすし弁当とその原因

 ある消費者がデパートの催事場で、すし弁当を購入して自宅に持ち帰りました。2日後に食べようとしたところ、弁当からの異常な臭い(シンナー臭)に気づき、薬品の使用を疑って保健所に届け出ました。弁当の消費期限は販売当日中でしたが、届け出者は冬の室内の涼しい場所に保管していたので問題ないはずと思い込んでいました。
 デパート催事場で同じ日に製造・販売されたすし弁当に同様の苦情はありませんでした。苦情品の分析検査の結果では、高濃度のエタノールと酢酸エチルが検出され、酵母数(主にピキア・アノマーラ※1 )は弁当食材1g当たり約1億個でした。
 一般的に、酵母は細菌より低い温度帯や弱酸性域でよく生育します。消費者宅に保管されたすし弁当は2日間で酵母が増殖し、その過程でエタノールや酢酸エチル(シンナー臭の主因)が産生されてしまいました。
 新型コロナウイルス感染予防のための消毒剤として注目度の高いエタノールですが、食品製造の現場では以前からその殺菌効果と利便性から広く使用されてきました。しかし、本事例の原因酵母のようにエタノールによる殺菌効果が期待できないだけではなく、エタノールを資化※2 して異臭の原因となる酢酸エチルを産生する酵母(微生物)が存在するということを知っておくことも、食品事故の未然防止のためには大切です。
(2021年6月号掲載)

※1 Pichia anomala:酵母の一種で、ケーキ、パン、いなり寿司などで増殖すると酢酸エチルを産生し、シンナー臭の原因となる
※2 微生物が何かを栄養源として利用すること

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