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COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

上野動物園のジャイアントパンダ

一般財団法人 環境文化創造研究所 主席研究員 蘇雲山/
中国ジャイアントパンダ保護研究センター 呉凱(上野動物園協力者)

パンダの赤ちゃん誕生

 2017年の6月12日、あるニュースが日本で一斉に報道されました。上野動物園にジャイアントパンダの赤ちゃんが誕生したというこのニュースは、すぐに海を越えて世界の主なメディアで報道されて大きな話題となり、その経済効果は270~300億円にも上るといわれました。
 上野動物園のジャイアントパンダのリーリー(♂)とシンシン(♀)は、2011年2月に来日、翌年7月に赤ちゃんが生まれましたが、1週間で死亡してしまいました。その後、交尾の兆しは見られましたが、結局妊娠には至りませんでした。赤ちゃんパンダの誕生を待っていた人たちはたくさんいますが、私もその1人として、以前から日本におけるパンダの成長を支援する仕事をしています。
 ジャイアントパンダは、希少種の中でも珍しい種で、主に中国四川・陝西(せんせい)・甘粛(かんしゅく)三省の高山地帯に生息しています。生まれたばかりの体重はわずか150gぐらいで、成体パンダの1000分の1に過ぎません。交尾が終わるとオスパンダは去り、出産から育児までをすべてメスパンダが単独で行います。野生状態の場合、母親は赤ちゃんから目が離せないため、出産してから最初の10日間は、飲まず食わずで世話をします。野外繁殖の生存率はとても低いのですが、現在は人工飼育の技術が大きく進歩したために、生存率が90%以上に引き上げられています。
(2017年11月号掲載)

「パンダの産室」からの報告

 2017年6月11日、私が上野動物園の依頼で東京に到着し、産室に入ったのは翌日の午前2時頃でした。約10時間後の11時52分、母親のシンシンが可愛い赤ちゃんを産みました。この瞬間、産室の周囲で見守っていた飼育員たちは目に涙を浮かべていました。私にとってパンダの赤ちゃんの誕生は初めてではないものの、中国以外でパンダの出産を支援するのは初めてです。赤ちゃんの誕生とともに責任の重さを強く感じ、最悪の事態にも対応できるよう心の準備をしました。
 母親のシンシンは出産する前、怒責(どせき)※ の回数と羊水の量が一般のパンダより少なかったのですが、幸いにも出産が比較的速かったために、赤ちゃんにはあまり影響がありませんでした。シンシンは、坐る姿勢で出産しました。この方法が、比較的安全だといわれています。
 分娩してからシンシンは赤ちゃんを口でくわえて懐(ふところ)で抱きしめましたが、くわえる方法や抱く位置などから経験不足が明らかでした。このため赤ちゃんがよく泣き、シンシンもとても緊張しているようで、体力の消耗も大きいのです。生まれてから早めに母乳を飲ませなければ、赤ちゃんの生存に影響してしまいます。分娩してから10時間後に人工補助を通じて授乳が成功し、赤ちゃんは4分間ほど母乳を飲みました。第一歩を踏み出したとはいえ、これからも多くの挑戦が待っています。
(2017年12月号掲載)

翻訳:一般財団法人 環境文化創造研究所 主席研究員 蘇雲山
※ 排便時などに、下腹部に力を入れること

赤ちゃんの名前は香香(シャンシャン)

 上野動物園で2017年6月12日に生まれたパンダの赤ちゃんの名前は、7月28日から8月10日までに上野動物園内に設置した応募台とインターネットで広く募集し、期間中に32万件以上の応募がありました。最も多かった名前は、ルンルン(1万2,154件)で、メイメイ(1万1,191件)、ノンノン(7,854件)が続きました。事務局はまず上位100点に絞りこみ、黒柳徹子日本パンダ保護協会名誉会長等6名の委員から構成された選考委員会に提出し、既存の商標との重複確認や現存のパンダの個体名や特定の商品名・人名等を除外した後、選考委員の投票により8点の候補を選考しました。そしてこの8点の候補を、中国野生動物保護協会との協議を経てさらに絞り込んでから、東京都の小池知事が最終的に決定しました。
 9月25日に小池知事は都庁で記者会見し、シャンシャンの命名を正式に発表しました。小池知事は、「呼びやすく、花が開くような明るいイメージ」と説明しました。たしかに女の子としては、シャンシャンという名前が最もふさわしいと思います。シャンシャンが生まれて120日を迎える直前の10月8日に名前のおひろめ会を開き、生後6か月の12月をめどに一般公開すると発表されました。可愛いらしいシャンシャンの姿は、これからも私たちに元気をくれることでしょう。
(2018年1月号掲載)

一般公開のための訓練と準備

 シャンシャン(香香)には、10日に一度身体検査を行っています。体長や胸囲、体重などを測り、発育状況を確認します。ジャイアントパンダの動物園での繁殖がとても難しい理由のひとつとして、生後の赤ちゃんの体重が約150gとあまりに小さく、母親の体重の1,000分の1しかないことが挙げられます。しかし、その後の成長はとても速いのです。
 シャンシャンの場合、生後2日齢の体重は147gでしたが、100日齢になると体重は6kg、体長は65cmになり、さらに150日齢になると体重が9.1kgになり、平均してなんと1日60.7gほど増えています。また、四肢(しし)の発育も速く、100日齢に後ろ足の力が強くなり、体を支えて数歩前進することもできるようになりました。120日齢になると、四肢で歩き行動範囲はさらに広がるとともに、柵などに前足をかけて二足で立つ姿も見られました。
 生後150日齢になると、シャンシャンと母親(シンシン)は1日中、室内展示場と寝室の間を自由に出入りし、動物園の休園日には見学通路に面した場所で、来園者の姿や声などに慣れるための訓練を始めました。シャンシャンは室内展示場をよく歩きまわり、設置されている丸太の上にまでよじ登る様子が見られました。来園する多くの方々が元気なシャンシャンと対面できるよう、着々と準備が進められていたのです。
(2018年2月号掲載)

シャンシャン(香香)の一般公開始まる

 2017年6月12日に誕生したシャンシャンは、12月19日から一般公開が始まりました。上野動物園で生まれたジャイアントパンダの赤ちゃんの一般公開は、1988年に誕生したユウユウ(雄)以来のことで、29年ぶりです。
 1日も早くシャンシャンの元気な姿を見たいという人は、たくさんいました。そこで上野動物園はパンダ母子の負担を考慮して、1日に2時間半程度と限定し、400組約2000人の観覧希望者を抽選で決める方式を採用しました。19日から28日までの9日間の観覧には、なんと24万7000余件の応募があり、当選倍率は46倍でした。公開初日から、シャンシャンは母のシンシンと共に元気な姿で観覧客の前に現れ、木登りをしたり、おっぱいを飲んだりと活発に動き、その可愛らしい姿に観覧客はとても感動していました。また、上野動物園周辺の商店街では、シャンシャンの公開を祝うために初日から商品セールなどを行い、多くの買い物客でにぎわいました。シャンシャンの公開は、地元の経済にも貢献しているようです。
 現在、世界では上野動物園の3頭を含め、総計520頭のジャイアントパンダが飼育されていますが、シャンシャンのように自然交配で生まれ、すべて母乳で育てられているパンダはそれほど多くありません。
(2018年3月号掲載)

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