イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

食品衛生に取り組むあなたへ(1)

リテールHACCP研究所 山森純子

被害者も加害者も生まないために

 「なぜ、あなたは、食品衛生が大切だと思うのですか」という問いかけに、皆さんならどのように答えますか。私自身はといえば、長年、「当たり前のことだから」や「法律で定められているから」というような言葉しか出てきませんでした。
 けれどもある時、「これは大きな問題かもしれない」と感じて、考え直してみました。亡くなられた野村克也さんも、「問題意識こそが成長につながる」という名言を残されています。過去の私のような考えでは、そこで思考がストップしてしまって、「少しでも現状を良くするために、知恵を出して挑戦してみよう」という気持ちになれません。また、食品衛生は全員の力をあわせて取り組まなければならないことですから、あなたから発する言葉に共感して一緒に取り組んでくれる仲間が増えていけば、ますます良い活動ができるようになります。
 私が食品衛生を大切だと思う理由は、もし食中毒などの事故が起きてしまったら、昨日まで笑顔を見せてくださっていたお客様が被害者になり、一緒に働いていた大切な仲間が加害者になってしまうからです。こんなに悲しい未来は、自分たちの力で遠ざけることができます。ぜひ、私たち自身の言葉で、食品衛生の大切さや日々実行していくためのちょっとしたコツを、お互いに伝えあっていきませんか。
(2020年5月号掲載)

メッセージは肯定文で

 事故防止のための原理原則はいつも共通でも、どんなメンバーで、どんな食品を、どこで、どのくらい、どのように作るのかによって、実際に事故が起きてしまいそうなウィークポイントや、その予防策はそれぞれ異なるはずです。それらすべての場合に共通する一般的な約束事を作ろうとすると、「〇〇しないようにしましょう」というような否定文になっている場合がとても多いです。
 あらゆる場面で使える言葉は便利ですが、否定文でのお願いは、それでは何をすればよいのかが各人の視点に委ねられるので、実際の行動に繋がりにくいものです。たとえば「体調が悪いときには、出勤しないでください」というお願いの場合、もう症状は治まったから大丈夫だと出勤する方が必ずいらっしゃるでしょう。それよりも、「このような症状になってしまったら、ひとことでいいですから、すぐに知らせてください」とお願いしたほうが、何をしてほしいのかがはっきりと伝えられます。
 また、否定文で強いメッセージを送り続けようとすると、送り手であるあなた自身に大きな負荷がかかることも問題です。否定文で作った約束事が守られなかったことに心が波立ちそうになったら、肯定文の約束事に作り直してみませんか。そのほうが、食品衛生のための自分たちの習慣をひとつずつ増やしていくことができるはずです。
(2020年6月号掲載)

忘れられないエピソード

 私たちは、同じ場面に遭遇したとしても、とっさに口をついて出てくる言葉は一人ひとり少しずつ異なります。これは、「食中毒のハイリスクグループの方への情報提供」の場面で経験させていただいた、ある工場長との忘れられないエピソードです。
 私は、あるお客様から「妊娠中は避けるべき食品※ を、病院で教えてもらうまで知らずに食べてしまっていたので、詳しいことをおうかがいしたい」というご相談をいただき、工場へ問い合わせの電話をすることになりました。その時にお客様が心配していたのは、日本国内では食中毒として記録されている事例はわずかですが、アメリカなどでは毎年感染者が多く、特に妊婦さんや高齢者の致死率が著しく高いことが問題になっているリステリア食中毒でした。身体に新しい命を宿しているお客様は、とても不安になってしまったのだと思います。
 工場長は、一度も会ったことのない私からの突然の電話にもかかわらず、丁寧にその食品の管理体制を教えてくださいました。そして最後に、「なによりも大切な、これからお母様になられる方のご体調は大丈夫ですか?」と穏やかな優しい声で心配してくださったのです。今でも私はハイリスクの方への情報提供の場面で、この言葉を自分の心のなかに受け継いでいます。
(2020年7月号掲載)

※ 厚生労働省「これからママになるあなたへ」
https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/dl/ninpu.pdf

食物アレルギーのご案内

 食物アレルギーをお持ちのお客様は年々増加しており、食品事業者の私たちもいろいろなお問い合わせを受ける場面が増えています。そのなかでも特に難しいのが、ご贈答などの用途で、お問い合わせをしてくださっている方と実際にお召し上がりになる方が別の場合です。
 たとえば、「〇〇アレルギーの方が食べられる商品を教えてください」というようなご質問を受けることがあります。アレルギーの症状は人それぞれで、その食品そのものに使用していなくても、調理器具などに付着しているわずかな量でも避けなければならないお客様もいらっしゃいます。しかし、「ご本人に詳細を確認いただかないとお答えできません」という言い方は、正しいのですが、ちょっと角が立つようで申し上げにくいものです。そんなときには、次のような伝え方をすることもできます。「実は以前、私どもの商品ではご要望に沿えなかったことがありました。『症状が重篤で、極めてわずかな量でも避けたいので、共通の調理器具を使っている商品は食べられない』というお客様もいらっしゃいましたが、いかがでしょうか」。
 このように、別のお客様の例としてお話しすることで、リスクを的確に伝え、判断のバトンをお渡しすることができますので、「本人に確認してみます」とお客様ご自身からおっしゃっていただけるでしょう。
(2020年8月号掲載)

効率よりも「心に届ける」こと

 皆さんは、「相手が自分だけに向けて発信したメッセージを受け取るとき」と、「多数に向けたなかの一人としてメッセージを受け取るとき」の、ご自分の気持ちに違いを感じたことはありますか。
 私には食品衛生に関する情報を発信する場面と受け取る場面の両方がありますが、人間は誰でも、受け手一人当たりの責任が小さくなるにつれて、悪意なく無意識下で手抜きをしてしまう生きものであることがわかっています。心理学用語で「社会的手抜き」や「リンゲルマン効果」といわれるものです。
 多数のメンバーに向けてメッセージを発信する場合には、この心理的効果を踏まえたほうが良い結果を得やすいことがあります。効率だけを重視して一斉送信するのではなく、あえて愚直にメンバー一人ひとりに呼びかけるのです。
 逆に、自分が大人数のなかの一人として情報を受け取る場面では、「自分はこの後どうすれば良いか」というようにメッセージを「自分ごと」として考えて実際の行動に繋げられる人は、発信者にとっては特別な存在だということです。
 「社会的手抜き」を上手にコントロールして、あなたの活動をより良いものにしていきましょう。
(2020年9月号掲載)

マイナスから信頼関係を築く

 皆さんは、販売した商品になんらかの不具合があったとき、会社の代表としてお客様にお詫びや報告をすることは得意ですか。それとも、どちらかというと苦手でしょうか。もし苦手意識を持っているとしたら、どのようにすれば信頼される対応ができるでしょうか。
 すでにお客様にご迷惑をおかけしている状況ですから、科学的・論理的に説明したからといって、必ずしもご理解いただけるわけではありません。けれどこのような大変厳しい場面であったとしても、お客様とマイナスから対話を始めて、毎回短い時間で信頼関係を築くことができる人がいます。そのような人に共通している点が、ふたつあります。ひとつは「私たちの会社は、あなたのことを大切に思っています」という気持ちを表現し、お客様に伝えていることです。もうひとつは「あなたの声を私たちの会社は受け止め、あなたの声が私たちの会社を動かしています」ということをお客様に伝わるように表現していることです。これらを、「お客様に自己重要感を感じていただける対応」といいます。
 なんらかの不具合があったとき、お客様にどのような内容をお伝えするのかと併せて、あなたの気持ちのあり方も整えておけば、お詫びや報告の後に「また利用します」という有難いお言葉をいただける可能性をグッと高めることができます。
(2020年10月号掲載)

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