イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

食品にまつわるトラブルから学ぶ(6)

公益社団法人 日本食品衛生協会 技術参与・ 一般社団法人 関東学校給食サービス協会 顧問 谷口力夫

自宅で保管中に退色した赤ワイン?

 ある消費者が、約1年前にスーパーで購入したボトル入り赤ワインを開封しようとして、ワインの退色に気づきました。ワインメーカーに連絡すると苦情品の送付を依頼されましたが、現品を送ることで異常の原因が曖昧になることを危惧した消費者は保健所に届け出ました。
 苦情品の入った緑色のガラス瓶にはネジ式の蓋がむき出しの状態で使用されていましたが、当該スーパー取扱品の蓋部分はすべてシュリンク包装※ になっていました。また、苦情品の内容液は明らかに赤ワインとは異なる琥珀色で果実臭があり、糖度50%以上の粘性のある液体でした。
 これらの調査結果を届出者に伝えるとともに、ワインの空き瓶の再利用の有無について問い直しました。すると、同居の家族が1年前の夏に自宅の庭で取れた梅でジュースをつくり、ワインの空き瓶に詰め替えてほかのワインと同じ場所に保管していたことがわかりました。
 本事例は、消費者の一方的な思い込みが原因でした。ただし、その背景には、商品異常について販売店あるいはメーカーに相談しにくいという意識があったようです。コロナ禍では、オンラインによる食料品の購入需要が増えています。食品取扱者と消費者のお互いの顔が見えない状態で商品取引が成立する状況においては、消費者の心理や行動を十分に理解し、より信頼度を高めるための取組みの実施が求められます。
(2021年7月号掲載)

※ 商品を熱収縮性プラスチックフィルムで覆い、加熱収縮することにより、フィルムを商品の形状に収縮して密着させる包装技術。
包装部分への汚れを防ぎ、いたずら防止対策にも効果がある

ペットボトルのミネラルウォーターに白い浮遊物

 ある消費者がコンビニエンスストアでボトル入りミネラルウォーターを購入し、深夜にその水で薬を飲んだところ、強い苦味を感じました。明かりをつけてペットボトルの中を見ると白い物が浮いており、しばらくして吐き気を感じた消費者は保健所の夜間受付に届け出ました。
 保健所の担当者が製品の販売会社に確認したところ、当該品は3万本以上ある輸入品で、同ロット品に苦情などの発生はありませんでした。
 苦情品のボトル内には、板状の白色浮遊物と細かい粉末状の沈殿物が認められました。浮遊異物の分析検査の結果から、主成分はゼラチンであることが判明しました。また浮遊物の表面には印刷された記号の一部が確認できたことから、徐放性※ のゼラチンカプセル製剤がボトル内に混入し、膨潤、溶解したものと推定されました。
 異物の混入経路の確定には至りませんでしたが、消費者が薬を飲用した状況が真夜中の暗い室内だったこと、飲用時の記憶が曖昧なことなどから、カプセル剤を服用時にボトルの注ぎ口から直接水を飲み、その際に薬が逆流してペットボトル内に混入したことが考えられました。
 ボトルの注ぎ口に直接口をつけて飲む際には、多少なりとも口腔からボトルへの逆流が起こります。雑菌などの増殖を防ぐという面からも、一度開封したボトルの内容物は早く飲み切りましょう。
(2021年8月号掲載)

※ 徐放性の製剤とは、薬の成分が少しずつ長時間放出され続けるように加工された製剤

食品衛生責任者の役割と責任者プレート

 令和3年6月1日、食品衛生法の改正により「HACCPに沿った衛生管理」が制度化され、食品事業者が共通して行うべき一般衛生管理基準14項目が示されました。その中には、現場の衛生管理を直接担う「食品衛生責任者」の選任とその責務についても記されています。
 「ある店舗内に自分の名前が食品衛生責任者として掲示されているので、1日も早くその掲示を外してほしい」と保健所に相談がありました。相談者は食品衛生責任者として勤務していた飲食店を退職しましたが、後日、その店舗に行ってみると自分の氏名が記載された食品衛生責任者プレートが掲示※ されたままでした。相談者は自分の氏名掲示を外すことを店側に申し出られない事情があり、また、食品衛生責任者は兼任できないことを知っているため、次の職場の責任者として勤務することができずに困っているとのことでした。
 食品衛生責任者は、営業許可を受けるための単なる条件のひとつではなく、現場スタッフのリーダーです。最新の食品衛生の知見を習得して、必要な衛生措置については営業者にも意見を述べるという役割があり、今回の法改正「HACCPに沿った衛生管理」の重要な推進役ということができます。消費者に一層信頼される食品提供のために、食品衛生責任者の皆さんのさらなる自覚と活躍に期待いたします。
(2021年9月号掲載)

※ 改正食品衛生法による厚生労働省令の参酌基準には、食品衛生責任者氏名の掲示義務は含まれていない

検食(保存食)とその取扱い

 食品取扱い施設では、一度決められたマニュアルをそのまま継続して実施することが重要なのではなく、現状のやり方について検証(見直し)を行うことで、現場に即した衛生管理体制を整えていくことが大切です。
 ある給食施設を訪問した際に、当日調理した食品の「検食※ 」について細菌検査を行いました。すると、食品の腐敗を示すほど大量の細菌数と食中毒菌の黄色ブドウ球菌が検出されました。幸い、当日の食品による体調不良者はいませんでしたが、検査結果不良の原因を探るために検食の取扱い方法を含めた施設調査を行いました。
 調理従事者からの聴き取りにより、検査に供した検食は陳列されていた当日の料理サンプルであることがわかりました。常温で長時間陳列されていたために、細菌の増殖機会があったと考えられました。調理従事者は検食用として料理1食分を別に確保することがもったいないと考え、サンプルの陳列品を検食としていました。
 万が一食品事故が発生した際には、検食は原因調査の重要な手がかりや判断の決め手となるものです。調理従事者は検食を採取する際には、その意義をよく理解し、衛生的な取扱いにも十分に注意する必要があります。
(2021年10月号掲載)

※ 食品衛生法では、大量調理を行う営業者は「検食」を一定期間保存することが定められている。
  学校給食衛生管理基準では、「保存食」として同様の規定がある

ラーメン店の異臭とグリース阻集器(そしゅうき)

 食品を扱う業務用施設には衛生を担保するための設備が必須ですが、お客様に快適な時間を過ごしていただくためには、厨房や客席を含めて清潔感のある施設環境を維持することがとても重要です。
 「近所のラーメン店が生ゴミ臭く、店内には虫も飛んでいて不潔なので、改善指導してほしい」と、利用客から保健所に連絡がありました。
 当該店舗は地下にあり、階段を降りる途中から下水のような異臭を感じ、店内には小バエの発生も認められました。店舗従業員も異臭や虫の発生については自覚していましたが、苦情の原因になるほどのものとの認識はありませんでした。厨房内の床に設置されたグリース阻集器※ を確認したところ、内部には大量の食品残渣(ざんさ)や油脂分が溜まり、清掃が不十分なことは明らかでした。阻集器が機能を果たしていないため、接続した排水管も目詰まりを起こし、十分な排水ができない状態でした。店舗内の異臭と小バエ発生は、排水溝、グリース阻集器、排水管などに溜まったその食品残渣や汚れが直接的な原因でした。
 飲食物を扱う施設を常に衛生的で快適な状態に保つためには、食品取扱者は厨房施設内の床、排水溝、グリース阻集器、レンジフード、給排気口、ダクトなどが特に汚れやすい箇所であることを自覚し、計画的な清掃作業が必要です。
(2021年11月号掲載)

※ 排水中の油分が下水道などに流出することを防止する装置。一般的には下水道法などにより、業務用の厨房施設への設置が求められている

廃棄食品の不正転売と食品の安全性

 2015年、自社店舗用に製造した冷凍ビーフカツ(半製品)に異物混入の疑いがあったため、製造会社が出荷前の製品を廃棄処理しました。しかし、この製品が市場に出回るという事件がありました。
 製造会社系列の従業員がスーパーで買い物中に、販売されるはずのない自社製品を発見しました。会社が廃棄委託処理した製品が、産業廃棄物処理業者から食品卸業者を通じてスーパーに転売されていたのです。
 一旦、廃棄物として扱われた食品が市場に流通するということは、食品の温度管理や保存方法などの不適切な取扱いによる危険だけでなく、市販食品に対する消費者の不安を招く極めて深刻な事件でした。現在、食品ロスの削減が社会的に大きな課題となっていますが、どのような状況でも消費者が口にする食品の安全性が疎かになることは許されません。
 この事件の後、廃棄物処理法※1 によるマニフェスト※2 の適正運用、食品リサイクル法※3 による食用と誤認されないための措置などが示されました。本年(2021年)6月1日施行の食品衛生法では、廃棄物の適切な取扱いに加え、食品などの自主回収(リコール)を行った事業者はリコール情報を速やかに保健所に届け出ることも義務化されました。衛生管理計画において、万が一、自社製品回収の必要が生じた際の消費者への注意喚起や回収・保管・廃棄などの具体的な実施体制を整えておく必要があります。
(2021年12月号掲載)

※ 1 廃棄物の処理及び清掃に関する法律
※ 2 産業廃棄物管理票
※ 3 食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律

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