イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

沖縄のいきもの事情(3)

特定非営利活動法人バイオメディカルサイエンス研究会 常任理事 前川秀彰

キオビエダシャク

 キオビエダシャクというガがいます。留まるときも翅を広げているので、一見、チョウのようです。濃い青のところに鮮やかな黄色の帯がある見栄えのするガで、昼間に飛びます。この幼虫が、曲者(くせもの) です。高級建築材(琉球王朝時代に首里城や高級官僚の家などに使われていた)のイヌマキの葉を好んで食べ、幼虫の数が多いと木そのものを枯らせてしまうほどです。木の名前は知らなくても、幼虫が枝から何匹も糸でぶら下がっている光景は、沖縄のほとんどの人は見たことのある風物詩のようです。
 タイワンキドクガの幼虫は、その名が示すように毒針を持っており触れると発疹が出ます。沖縄では、ときどき大量に発生することがあります。ガジュマルに付いていた卵をイチジクカサンの卵だと思い込んでしまい、孵化(ふか) 後、実験室で私が飼育していました。2~3回脱皮した頃からおかしいと気づき、直ちに廃棄しました。学生さんが素手で触らなくてよかったと胸をなでおろしました。
 ところでイチジクカサンは、カイコガの仲間で糸を吐いて小さな繭を作ります。沖縄へは台湾、中国、インドから伝播してきたようです。食草はアコウやガジュマルです。本土で販売しているガジュマルの盆栽は殺虫剤が散布してあるようで、飼育には適さないそうです。
(2016年11月号掲載)

毒チョウ

 日本最大のチョウであるオオゴマダラは、幼虫がキョウチクトウ科のホウライカガミやガガイモ科のホウライイケマの葉を食べます。このことにより、植物に含まれているアルカロイドを体内に取り込み、他の動物から捕食されることを防いでいます。そのためか、幼虫も蛹も、とても派手な模様や色彩をしています。分布は東南アジア、日本国内では与論島以南の南西諸島です。
 同じくアルカロイドを含むウマノスズクサ科のコウシュンウマノスズクサ(宮古島)、リュウキュウウマノスズクサ(八重山列島)を食草とするのが、インドから東南アジア、国内では宮古島、沖縄本島、奄美諸島に生息するベニモンアゲハです。カバマダラも、アフリカ、インド、オーストラリア、国内では奄美大島以南の南西諸島に生息し、ガガイモ科のトウワタ・フウセントウワタなどのアルカロイドを取り込む毒チョウです。同じ科のリュウキュウガシワを食草とするスジグロカバマダラは、インド、オーストラリア、国内では宮古島以南の南西諸島に生息しています。
 これらのチョウは、温暖化に伴って日本の亜熱帯気候である沖縄に生息範囲を広げてきました。食草が限定されていることと、アルカロイドを蓄えていて捕食されないように防護していることが共通しています。
(2016年12月号掲載)

虫による代表的な花々の被害

 沖縄の名花のひとつであるホウオウボクが、昨年(2016)大発生したホウオウボククチバというガの幼虫に食べられ、一部の木が丸坊主になっています。私が大学の仕事で沖縄に住んだ最初の年にはホウオウボクは咲いていませんでした。2年後ぐらいに見事な花を咲かせましたが、それ以前に、今回と同じようなホウオウボククチバの発生があったのかもしれません。
 また当時、メイガの1種が大量発生し、大学構内で幼虫が木から歩く人の上に落ちたり、寮では近くの木から部屋に入りこんで苦情がでました。大学の施設係が、木ごとに殺虫剤を散布することで駆除をしていました。
 沖縄の県花であるデイゴは2005年以降、デイゴヒメコバチの発生により、花が咲かず弱り果てていました。デイゴヒメコバチはアフリカ原産といわれており、世界各国の熱帯・亜熱帯地域のデイゴ属植物に被害を与えています。那覇市では、すべてではないものの街路樹のデイゴに大掛かりな害虫駆除がされていますが、私は沖縄にいた間、一度もまともに咲いたデイゴを見ることはできませんでした。
 このように沖縄では、何年かごとに昆虫の大量発生が起こっています。私たち人間にとっては害虫被害なので懸命に退治しますが、大自然にとってはそれも、ささやかな抵抗に過ぎないのかもしれません。
(2017年3月号掲載)

ツマグロヒョウモン

 ツマグロヒョウモンは、アフリカ北東部からインド、インドシナ半島、オーストラリア、中国、朝鮮半島、日本までの熱帯・温帯域に広く分布し、関東北部にも広がって定着しているようです。毒チョウであるカバマダラに、メスが擬態しています(ベイツ型擬態※ )。沖縄では擬態したメスは普通に見られます。幼虫も派手な色模様ですが、毒はなく、ただの脅しです。
 本土では2010年9月、浜松市のフウセントウワタ畑でカバマダラが大発生したと報告されているように、カバマダラが和歌山、静岡、神奈川などにまで生息域を広げてきたために、温帯に棲息するツマグロヒョウモンのメスが毒チョウに擬態している意味があることになります。カバマダラが北に生息域を広げてきたのが先か、本土でのツマグロヒョウモンのメスの擬態が先か、興味があります。毒チョウが既に分布しているために、それに呼応して擬態が生じると考えるのが妥当ですが、実際はどうでしょうか。
 宮古島以南の南西諸島に分布するスジグロカバマダラも、本土でときおり観察されているようです。西表島(いりおもてじま)ではいたるところで飛翔していましたが、沖縄本島では見たことがありませんでした。温暖化が進めば、本土へ定着するのも時間の問題と思われます。
(2017年6月号掲載)

※ 毒を持つ生物には、警戒色などでまわりに危険であることを知らせるものがある。
違う種が、この警戒色などを利用し捕食されないようにする擬態のこと。

オキナワクワゾウムシ

 カイコがクワを食べることができるのは、アルカロイドを分解できる酵素遺伝子を水平伝播で細菌から獲得できたためであり(東京大学農学部嶋田透研究室)、ある意味で、クワを独占する状況を獲得できたということです。家畜化されたカイコの野生型といわれているクワコも当然、クワだけを食べます。逆に、クワがなければ生育できないのです。
 沖縄には、クワコがいないという調査結果があります。シマグワが自生しており、冬に本土でクワがないときには、研究用のカイコの飼育に使われています。オキナワクワゾウムシはクワの葉を食べることのできる虫ですが、カイコと同じ遺伝子があるかどうかはわかっていません。沖縄には台風が多く、クワも含めて台風の通過により葉がほとんど落ちてしまいます。そのため、新芽が出てくるまでクワを食べることができません。クワしか食べない虫は、この時点で餓死することになってしまいます。
 このためオキナワクワゾウムシが生き延びるためには、ほかの植物を食べなければなりません。大きな台風が来た後にオキナワクワゾウムシを観察していると、クワの木に張りついていましたが、葉がまったくないのでどうしようもなく、ついには別の木の葉を食べていました。脚と翅でほかの植物へ移動できることが、カイコとの大きな違いでしょう。
(2017年7月号掲載)

沖縄の風物詩~オカガニ

 オカガニは、その名の通り「丘に住むカニ」です。土手に穴を掘って生活しています。ただし、近くに川や湿地などの水辺がないと住めません。5月から10月の満月の夜、一斉に抱卵(ほうらん)したメスが海へと大移動を行います。海岸沿いの道路は、海での産卵のために移動するカニで覆い尽くされることになり、車の走行が困難になることもあります。特にカニが多い場所では、道路の下にカニ専用の「カニさんトンネル」を造って、カニも車も守る対策をとっています。オカガニは寿命が長く、何回も産卵のために海に向かう個体もあります。那覇高校では、クラブ活動で個体にマーキングして毎年観察調査を行っていました。私も機会があり調査に同行させていただきましたが、カニの数はピークを過ぎていたため、少ししか見ることができなかったのは残念でした。
 三浦半島の先の小網代(こあじろ)には、源流から海(相模湾)までの小さな流れを含む森が保存されています。「小網代の森」です。神奈川県が保護区と指定し、昨年、木道が整備され、観察することができるようになりました。ここでは、アカテガニが8月の満月の夜に、メスが産卵のために海へ下る姿を観察できるそうで、今年は見てみたいと思っています。湾の先には、油壺のマリンパークや東京大学の臨界実験所があり、周りには三浦野菜のダイコンやキャベツ畑が広がっています。
(2017年8月号掲載)

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