イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

展覧会に出かけると(3)

放送大学 客員教授・九州国立博物館 名誉館員・一般財団法人 環境文化創造研究所 顧問 本田光子

おうちでミュージアム

 梅雨明けが待ち遠しい日、おうちでミュージアムはいかがでしょうか。
 ウィズコロナの美術館や博物館も二度目の夏となり、オンラインで展覧会を楽しむことのほかにも、特色溢れた活動が充実してきました。
 『おうちミュージアム』は昨年、北海道博物館の呼びかけでオープン。ステイホーム中の子どもたちが、オンラインで楽しく学べるアイデアを発信する200以上の館が全国から参加しています。北海道博物館からは、工作やゲームなど工夫しながら楽しむプログラムが次々と登場。今年は神奈川県立生命の星・地球博物館発で、参加館が月毎に同じテーマでツイートする「#全国SNSミュージアム巡り」も始まり、大人も一緒にSNSやウェブサイトで各地の館を訪ねる機会が広がります。
 「おうち」を冠したインターネットミュージアムは、続々と公開されています。国立科学博物館『おうちで体験!かはくVR』は、まるで展示室にいるような映像。フタバスズキリュウの骨格標本もグーっと迫ってきます。東京国立博物館『おうちで楽しむ博物館』の「オンラインギャラリーツアー」は作品の見どころを語る研究員の想いが伝わってきます。
 家族で話しながら楽しく遊び学んだり驚いたり、お茶しながらほっこり鑑賞したり、お一人様でじっくり堪能したり。おうちでミュージアムは、展覧会で得られる感動とは別の魅力で身近な存在になってきました。
(2021年7月号掲載)

8月の開館日は5日間だけですが

 岐阜県飛騨市宮川町にある「飛騨みやがわ考古民俗館」は、積雪期の11月から4月までは閉館し、春、夏、秋に30日程度開館する資料館です。今年の8月は7~9、14、15日の5日間だけが開館日です。
 同館は、国重要有形民俗文化財の積雪期用具をはじめ、3万点の民俗資料や県重要文化財を含む旧石器時代~縄文時代の考古資料5万点を収蔵・展示しています。地域の歴史の証を守り継ぐ市民の学びの場ですが、不便なアクセスや開館日の少なさで集客が困難。そこで、オンラインツアーやインスタグラムへの投稿などと現地対面のイベントやボランティア活動を組み合わせたハイブリッドな「石棒クラブ※ 」を開設し、全国からの参加者多数で大好評となりました。コロナ禍の今、開館日・来館者の減少、入館料収入減などで苦境の各地博物館からも注目されています。
 飛騨市は面積の90%以上が森林、3000m級の山々に囲まれ、市域の大半は特別豪雪地帯で高齢化率4割弱の「人口減少先進地」です。市では、移住による定住人口や観光による交流人口のほかに、市の魅力を感じ応援するファンとしての関係人口増加による活性化を積極的に進めており、同館の取組みもその一環です。「石棒クラブ」はさまざまな人々で構成され、市や市の文化財の認知度向上に貢献しています。ハイブリッドで楽しむ展覧会や博物館の力に元気づけられるこの夏です。
(2021年8月号掲載)

※ 石棒クラブホームページ: https://www.sekiboclub.com/

快適な鑑賞のための「ドレスコード」

 9月の日中は蒸し暑さが続きます。展覧会場に入ると涼しくホッとしますが、次第に寒くなります。夏日開始の4、5月から9月の彼岸頃まで、快適な鑑賞のための「ドレスコード」は「羽織物必携」です。
 展示品の種類にもよりますが、美術館や博物館内の湿度は作品保護のために適切な50~60%程度が維持されていて、人にも快適な湿度です。一方、温度については、作品の材質劣化や虫菌害の防止には低温の環境が望ましいものの、寒さの中で心地よく鑑賞するのは難しいため、人の快適性を重視し、世界的に約20℃で設定されています。国内外を問わず多くの美術館が、年間を通してこの温度前後で管理しています。
 30℃を超える外気から20℃程度の会場に入り、薄着で長時間滞在すると、身体は芯から冷えてしまうでしょう。美術館や博物館のHPには「作品保護のために設定された館内の温度が寒く感じられることもありますので、ご自身で調節可能な上着やストールなど羽織物のご用意をお願いいたします」といった案内もあります。
 近年、作品保護のための環境保全については、人の快適性との調和と同時に省エネにも配慮した持続可能な方法が目指されています。季節にあわせた幅のある変温設定に取り組む館も増えてきましたが、まずは「ドレスコード」で快適な鑑賞を楽しみ、作品保護に協力したいものです。
(2021年9月号掲載)

秋の日のひととき

 日本の秋は人の暮らしに快適な季節です。実りの秋、食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋、美術の秋、ほかにもたくさんある「〇〇の秋」は、心身ともに楽しみの多い豊かな季節であることを物語るものでしょう。
 全国各地の美術館・博物館では、毎年、文化・芸術の秋にふさわしい魅力的な展覧会が開催されています。澄んだ空のもと涼やかな風に触れつつ公園や館の庭の色づく樹々を通り抜け、館内では選りすぐりの作品や資料の美や技や知に感動し堪能する、こころ豊かな秋のひとときです。
 秋には多くの社寺で曝涼(ばくりょう)が行われ、日頃は宝庫で保管されている宝物が公開されます。曝涼は虫干しともいわれ、宝物の湿気や虫カビなどを払い、人の目と手で点検します。高温多湿な夏を過ぎて到来する冷涼な秋の気候を活用して行われることが多いのです。秋は宝物にも快適な季節といえましょう。奈良の秋の風物詩として知られる「正倉院展」は、毎年10月に始まる正倉院宝物の曝涼にあわせて、奈良国立博物館で開催される展覧会。多くの人々が歴史に思いを馳せる秋のひとときです。
 コロナ禍の今、人のこころに果たす文化・芸術の役割が再認識されています。高く青い空から届く透き通った日差しに心地よい風の10月、密を避けつつ道中の風景や自然の移ろいを楽しみながらお近くの美術館・博物館や社寺で、こころの栄養補給の秋の日を過ごしませんか。
(2021年10月号掲載)

81年前の行列

 昭和15年(1940)11月5日から24日まで、東京の上野公園は長蛇の列で溢れていました。帝室博物館(現東京国立博物館)開催の「正倉院御物特別展観」へ向かう人々が西郷さんの銅像の辺りから続き、20日間の会期中の入場者数は41万人以上の盛況でした。
 81年前のこの展覧会の様子を伝える絵巻※1 があり、観覧者の行列が蛇(くちなわ)のようであることから『くちなわ物語』と命名されています。正倉院での宝物の点検・梱包、輸送、展覧会に押し寄せる人々、群衆に混乱しつつも対応の術を体得していく職員、神妙に拝観する人々、終了後の輸送と返納までが描かれています。1940年は神武天皇即位紀元2600年であり、展覧会はその記念として奈良以外で初めて一般公開されたものでした。蛇の姿から、時代の大きな波が見えるようです。
 毎年、奈良国立博物館で開催される「正倉院展」は、第2次世界大戦後まもなく行われるようになったもので、コロナ禍以前の近年の入場者は毎年10万人以上でした。同館のピロティ※2 に敷かれた赤いカーペットに静かに並ぶ人々の行列が思い出されます。
 大規模な展覧会から行列が消えて2年目になりました。展覧会は時代を映します。今、行列のない展覧会へ出かけると、パンデミックによるこうした変化の今後についても考えさせられます。
(2021年11月号掲載)

※1 『正倉院御物展観絵巻 くちなわ物語』野間清六筆、東京国立博物館所蔵。
  『よみがえる国宝』九州国立博物館展覧会図録(2011)202〜209 頁に掲載
※2 柱だけで建物を支えることで、1階部分を自由に通り抜けられるようにする建築形式、またはその部分。
  フランス語で「杭(くい)」を意味する言葉から派生した建築用語

たからを守り継ぐいとなみ

 一昨年から全国各地を巡回している展覧会、『よみがえる正倉院宝物―再現模造にみる天平の技―』は、宮内庁正倉院事務所製作の再現模造作品の中から選りすぐりの逸品を一堂に集めた展覧会です。先月、北海道会場が閉会し、来年1月下旬からは東京六本木会場で開催されます。
 正倉院宝物の模造製作は、明治時代に博覧会を契機に始まり、当初は宝物の修理のために材料や技法を調べる目的で行われていました。昭和47年からは宝物の材料や技法、構造の忠実な再現に重点をおいて製作されるようになり、詳細な調査研究に基づき、人間国宝ら伝統技術保持者の熟練の技により再現された作品となりました。模造というとプラスティックのレプリカが思い浮かぶかもしれませんが、外観だけを似せたそれらとは区別するため、再現模造と呼ばれているのです。
 再現模造は、経年劣化により脆弱な宝物に代わって展示に用いられるため、また、不慮の被災への対策として宝物に万が一のことがあればその代わりとなるものとして製作されていますが、同時にその製作を通して伝統技術そのものの伝承が行われるものでもあります。文化財の再現模造製作は、有形無形のたからを守り継ぐいとなみに他ならないのです。
 そして、美や技に対する観覧者の感動や共感も、展覧会の存在自体もまた、たからを守り継ぐいとなみの輪につながっていることに気づきます。
(2021年12月号掲載)

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