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COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

デング熱と蚊

イカリ消毒株式会社 取締役・一般財団法人環境文化創造研究所 理事 谷川力

2019年に日本で発生したデング熱

 昨年、2014年以来5年ぶりに国内発生のデング熱が2件報告されました。
 1件目は、9月18日に沖縄県那覇市在住の70代女性Aさんが診断された事例です。Aさんは、同居家族とともに8月16日~26日にネパールへ渡航し、帰国後4日目に、同行した同居家族がデング熱を発症し、その後回復していました。疫学調査の結果、海外での滞在歴とデングウイルスの最長潜伏期間(14日間)などから、自宅周辺の蚊を媒介とした市内感染(2次感染)の可能性が高いと考えられました。
 2件目は、海外からの観光客増加が原因ではないかと考えられている事例です。10月10日、都内の医療機関から海外渡航歴のないデング熱患者2名の発生届がありました。2名は同じ学校の生徒で、京都、奈良での修学旅行中にデングウイルスを保有する蚊に刺されて感染したと推定されました。両名は別の医院を受診していましたが、発症日から感染は同時期と考えられました。両名が行動をともにしたのは学校と修学旅行のみでしたが、修学旅行では同じ班で行動していました。2名以外の学校関係者には、デング熱の患者は確認されていません。両名とも判定までに3つの医療機関を受診し、デング熱と診断され入院しましたが、すぐに回復しました。
(2020年10月号掲載)

デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症

 デング熱やチクングニア熱、ジカウイルス感染症(ジカ熱)に共通するのは、媒介蚊がヒトスジシマカやネッタイシマカだということです。
 デング熱には突然の高熱、発疹、頭痛、骨関節痛、嘔気・嘔吐などの症状が見られます。通常、発症後2~7日で解熱し、発疹は解熱時期に出現します。デング熱患者の一部は、まれに重症化してデング出血熱やデングショック症候群※ を発症する場合があり、早期に適切な治療が行われなければ死に至ることもあります。チクングニア熱の主な症状は、突然の発熱、発疹、頭痛などですが、特に関節痛は激しく、解熱しても数か月から1年以上にわたって痛みが続き、仕事や通常の生活が困難になる症例や、まれに死亡例も報告されています。ジカウイルス感染症は症状がないことも多く、発症するとかゆみを伴う発疹、関節痛、結膜炎などの症状が出現しますが、多くの場合は数日から1週間ほどで治癒します。妊婦が感染すると、胎児に小頭症などの先天性障害をきたす恐れがあるため、この病気が広く知られるようになりました。
 いずれの疾病も、日本では一般的にみられるヒトスジシマカにより媒介されることに注意を払わねばなりません。2020年9月現在、日本での大きな流行の報告はありません。しかし国際化が進む現代において、将来これらの疾病が国内に持ち込まれる可能性は否定できません。
(2020年11月号掲載)

※ デング熱のうち、出血とショック症状を伴う病気。重症型デングともよばれる

デング熱媒介蚊対策

 蚊の防除には大きく分けて発生を予防する対策と、成虫を駆除する対策があります。
 発生を予防する対策としては、幼虫(ボウフラ)が発生する水域をなくすことや発生水域に幼虫の生育を阻害するためのIGR(Insect Growth Regulator)剤を投入することが主になります。また、成虫の休息場所となる植栽の茂みなどを刈り取ることで生息数を減らすことができます。いずれも、きわめて高い予防効果があります。
 一方、成虫を駆除する際、2014年デング熱国内発生時の媒介蚊の対応の事例では、防護服と忌避剤を利用しています。デング熱発生時には周囲の成虫駆除を行いますが、駆除する私たちが感染してしまったり感染を広げることがあってはなりません。「感染を防ぐ目的」から防護服、ゴーグル、マスク、ゴム手袋、長靴を装着して露出部をできる限り少なくします。顔の露出された部分には忌避剤(成分はディート)を利用します。忌避剤の塗布時には目や口の中に入らないよう注意し、耳にも忘れずに塗布します。時間がたつと忌避剤が汗で流れ効力が低下するので、継続した塗布が必要です。
 また、防護服を着用するとかなり暑くなるので、熱中症防止のためにこまめな水分補給と適度な休憩を入れる必要があります。
(2021年7月号掲載)

デング熱を媒介する蚊の屋外での対策

 デング熱を媒介する蚊は、日本では主にヒトスジシマカです。ヒトスジシマカは、朝から夕方にかけて主に屋外で激しく人の血を求めます。一方、夜間寝ている時に耳元でブーンという羽音が聞こえ、睡眠を邪魔するのはアカイエカの仲間です。
 屋外での蚊の防除方法には、ボウフラと呼ばれる幼虫の発生源をなくす対策と成虫への対策があります。成虫では、物理的対策と化学的対策が重要です。物理的対策とは、蚊の侵入を防ぐ網戸などを利用することです。化学的対策は、殺虫剤を利用します。家庭では薬剤を揮散させる電気蚊取り器などを利用しますが、私たちは散布に優れた蓄圧式のハンドスプレヤー、炭酸ガス製剤および圧力の強い動力噴霧機を使います。人が入れないような大きな植栽に対しては炭酸ガス製剤や動力噴霧機、ULV※1 が有効ですが、住居周辺の植栽や物陰ではハンドスプレヤーが効率的です。いずれも成虫の留まりやすい葉の裏、植栽の中に噴霧します。
 利用する薬剤は、ハンドスプレヤーや動力噴霧機では魚毒性※2 の低いエトフェンプロックスで、炭酸ガス製剤やULVではフェノトリンを利用します。立入禁止区域を設けるなど、屋外では住民、植物や他の生物への影響も配慮しながら散布し、近隣住民に対しては殺虫剤散布を事前に周知徹底することが重要です。
(2021年8月号掲載)

※1 Ultra Low Volume。高濃度の薬液を少量、空間に噴霧する
※2 化学物質の魚介類(水産動物)に対する毒性

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