Kanbunken 環境文化創造研究所

COLUMN

- コラム

弊所発行の「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。

安富和男先生の面白むし話(20)

日本衛生動物学会・日本昆虫学会 名誉会員 安富和男

花粉媒介昆虫を誘う色

 今から約6500万年前の中生代の終わり頃、美しい花の咲く顕花植物が現われて昆虫との間に相互扶助の関係が生まれ、共進化が始まりました。虫媒花(ちゅうばいか)は受粉して実を結ぶために昆虫が不可欠であり、美しい花びらと甘い蜜を備えて昆虫を誘う工夫をこらしています。一方、花粉媒介昆虫にとっても蜜や花粉が生殖活動のエネルギー源として必須です。
 人の色覚(色の感じ方)と昆虫の色覚には、ずれがあります。人に見える色は赤、橙、黄、緑、青緑、青、紫の七色、花粉媒介昆虫の代表ミツバチに見える色は黄、青緑、青と人には見えない紫外色(紫外線の色)の4つです。ミツバチは波長の短い紫外色に強く誘われるので紫外色を出す花が多く、「蜜の標識(目じるし)」になっています。
 花の色は人に見せるためではなく、虫を誘うためのものです。人間は自分の見ている花の色を本当の色と思いがちですが、昆虫の見ている色こそ「真実の色」かもしれません。紫外色の波長は300~400ナノメートル(1ナノメートルは百万分の1mm)という短波です。色覚が弱いといわれている夜間活動性の昆虫にも、紫外線に対しては強く反応する種類がたくさんいます。ミツバチは赤を感じませんが、チョウは赤い色も識別できます。ヒガンバナの赤い花にアゲハの仲間が群れているのは、春ではなく秋の風物詩です。
(2013年3月号掲載)

広食性(こうしょくせい)カイコの利用

 養蚕(ようさん)は始皇帝時代の古代中国で始まって日本に伝えられ、弥生時代にはすでにカイコの生産する絹が用いられていました。野生の桑児(クワゴ)(カイコの先祖)以来、カイコの餌はクワの葉であり、聖徳太子の十七条憲法にもクワの栽培を重んじた条文が見られます。
 カイコがクワを認識するのはまず触角の感覚毛で匂いを知り、口器の小あごのひげに生えている感覚毛で摂食行動を起こします。しかし、その識別機能が本来のものとは違う広食性のカイコが登場し、キャベツ、リンゴからカステラまで食べる系統が生まれたのです。そのカイコは小さな繭しか作らないという欠点の持ち主でしたが、広食性を支配する遺伝子を大きな繭を作る品種に導入することに成功しました。
 従来、カイコの人工飼料は高価であり、クワの葉の粉末を混ぜる必要がありました。ところが、改良カイコ用の人工飼料は安価でしかもクワの葉の粉末を配合しなくてもよい長所を持っています。科学の進歩による異変です。「カイコの餌はクワに限る」。4千年間続いてきた常識が変わりました。さらに、最近になって「カイコはシルクを生産してくれる益虫」という常識にも変化が起こり始めています。それはカイコを医療用に使う試みです。カイコに人の軟骨細胞を生産してもらう技術が開発されつつあります。
(2013年3月号掲載)

植物の毒を利用するチョウ

 近年、草原の環境破壊が進み姿を消しつつあるチョウのひとつに、オオルリシジミという可憐なチョウがいます。昔ながらの草原がひろがり多数の牛が放牧されている九州の阿蘇山の草千里では、オオルリシジミの食草マメ科のクララは有毒なアルカロイドを含むため牛に食べられずによく茂り、オオルリシジミとの共存関係が保たれています。オオルリシジミはクララを食べて育ち、中毒を起こしません。
 植物の中には、動物による食害を避けるために有毒物質を備えているものがあります。しかし、昆虫も中毒しない仕組みを編み出したり、さらに植物の毒を体に蓄えて天敵からの護身に使うものまで登場しました。
 マダラチョウ科に属するカバマダラやオオカバマダラなどの幼虫は、アルカロイド毒のカルデノライド配糖体を含むガガイモ科植物を食べ、この毒成分が蛹から成虫にまで継承されます。成虫のチョウは有毒なことを誇示するために派手で目立つ警戒色を装っています。
 上には上があるもので、タテハチョウ科に属するメスアカムラサキのメスは無毒でありながら、カバマダラそっくりに擬態して鳥の攻撃をのがれている知恵者です。オスは黒紫の翅に白い紋を持ち、擬態していません。メスだけが擬態しているのはなぜでしょう。メスには卵を産むという大切な役目があるためと解釈されます。
(2013年4月号掲載)

偽の光で獲物を騙すホタル

 日本には44種のホタル科の甲虫が生息しており、成虫が光るのは14種です。
 「音もせで 思ひに燃ゆる蛍こそ 鳴く虫よりも あはれなりけれ」
 「恋し恋しと 鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が 身を焦がす」
 蛍は昔から、和歌や俚謡(りよう)に詠まれてきました。コオロギなどの直翅類やセミはオスの鳴き声でメスを誘いますが、ホタルは雌雄ともに光り合い、種類ごとに、また雌雄で違う光り方をして愛のシグナルを交わします。
 ホタルは巻貝類や種類によってはヤスデを食べて育ちますが、成虫になると草の露や花の蜜を吸う暮らしに変わります。ところが、アメリカにすむ大形のベルシカラーボタルは、成虫も肉食をする獰猛(どうもう)なホタルであり、餌にするのはフォティヌス、タニトクス、コンゲネルなど数種類のホタルです。生け贄のオスが飛んでいると、その発光パターン(発光時間と光る周期)から種類を識別し、そのメスの光り方を真似て偽の信号を出します。哀れな犠牲者のオスが騙されて近づくと、愛しの君とはまるで違う大きな鬼につかまり食べられてしまうのです。
 エイプリルフールで騙すユーモラスな嘘とは違い、鬼ボタルが使う嘘の信号は深刻です。しかし、この悪知恵も生存競争に勝つための戦略のひとつでしょう。
(2013年4月号掲載)

昆虫の耳

 3月3日は「耳の日」です。昆虫には私たちのような耳はありませんが、人や哺乳動物とは違う仕組みの器官で音を聴き分けています。多くの昆虫は、体表や触角に生えている毛の中に、音を感じ取る細胞が含まれています。ゴキブリ類の腹部末端には1対2本の尾毛(びもう)があり、その表面に密生している感覚毛は、低周波の音を捕らえて刺激源から遠ざかる行動を引き起こします。ゴキブリの逃げ足の速さは、人間の接近による振動音を感覚毛で素早くキャッチするからです。
 発音して仲間を誘う昆虫は、耳といえる聴覚器官を意外な場所に持っています。オスが鳴き声でメスを呼ぶコオロギやキリギリスの耳は、前脚のすね(脛節)に、セミの耳は腹(第二腹節)にあるのです。
 「牛部屋に 蚊の声闇(くら)き 残暑かな」。元禄4年(1691年8月19日頃)に俳聖(はいせい)松尾芭蕉が詠んだ句です。「蚊の声」とは蚊の羽音、すなわち翅(はね)の振動音で、数多く飛び交うと私たちの耳にもよく聞き取れます。蚊の種類はコガタアカイエカ、あるいはシナハマダラカでしょう。メスは吸血のために、オスはメスを求めて牛舎に侵入して交尾が成立するのです。耳は触角のつけ根「梗節(こうせつ)」の中にあります。
 虫偏に文と書く「蚊」は、”ぶーんと鳴く虫“という羽音に由来した字だそうです。
(2014年3月号掲載)

早春の昆虫

 「モンシロチョウ前線」は、「サクラ前線」に先がけて北上します。蛹(さなぎ)から羽化した蝶が南九州では2月末に、関東地方では3月10日頃に現れ、4月末から5月上旬に津軽海峡を越えます。”春の女神“と呼ばれるギフチョウやヒメギフチョウは、蜜源となるカタクリなどの開花を待っていたかのように登場して、春を告げたあと姿を消してしまう蝶です。成虫で冬を越したルリタテハやキタテハが、春めいてくる頃の日だまりで日向ぼっこをしているのは早春の風物詩といえましょう。
 昭和の俳人高浜虚子は、「啓蟄(けいちつ)の 蟻が早引く 地虫(じむし)かな」と詠みました。啓蟄のころに現われて餌集めに精を出すのはクロヤマアリです。地虫とは地面や土の中にすむ虫を総称したものと思われます。
 牛糞などで育つヒメフンバエは春まだ浅い頃に現れ、夏にはいったん姿をひそめて、秋に再び出現する生活環です。オスの体は橙黄色(とうこうしょく)の毛でおおわれ、メスは毛が少なくて灰褐色を呈しています。小昆虫を食べて暮らす捕食性のハエです。
 早春から訪花、吸蜜するヒラタアブ類は巧みな擬態のためミツバチと間違えられやすく、また和名の「アブ」で吸血を連想しますが、幼虫は蚜虫(あぶらむし)を食べ、成虫は花粉を運ぶ益虫です。英名のホーバー(Hover)フライは、空中停止飛翔の習性がうまく表現されていると思います。
(2014年3月号掲載)

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