イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

食品にまつわるトラブルから学ぶ(7)

公益社団法人 日本食品衛生協会 技術参与・ 一般社団法人 関東学校給食サービス協会 顧問 谷口力夫

ショートケーキのカビと衛生管理

 食品取扱い事業者の多くは営業の「許可」または「届出」の対象となり、どちらもHACCPに沿った衛生管理の実施が求められます。
 ある消費者が近所の洋菓子店で購入した苺ショートケーキを食べている時に、苺のまわりに緑色のカビが生えていることに気がつきました。箱の日付けシールには、前日の印字がされていました。消費者に体調不良はありませんでしたが、この店舗の商品では以前にも同様の経験があったため、保健所に届け出がありました。
 当該店は、本部工場製造の仕入れ品販売のみを行う店舗でした。調査の結果、苦情品は販売日の10日前に納品されており、本部指定の「冷蔵で2日間」の消費期限はすでに切れた品物であったことが判明しました。
 店舗調査時の冷蔵ショーケース内には販売品と廃棄予定品が混在して置かれ、店舗内には書類、段ボール、紙くず、タバコの吸殻などが散乱し、ゴキブリの糞も認められ、とても衛生的とはいえない状態でした。営業者は取扱い商品について、納品、販売、廃棄等の商品管理を行っておらず、商品の先入れ先出しの記録もしていませんでした。
 温度管理が必要な食品を販売する届出対象事業者は、一般的衛生管理項目の「販売」における、適切な仕入れ量と品質確認、販売時の適切な温度管理と販売方法、消費期限表示などの確実な実施がとても重要です。
(2022年1月号掲載)

ノロウイルスと消毒剤の効果的な使用法

 消毒剤は使用目的に合わせて選択し、特徴を理解して適切に使用することが、期待する効果を得るための重要なポイントです。
 ある小学校のクラスで、同時期に複数の生徒が嘔吐や下痢などのノロウイルス感染の症状を起こしました。最初の発症者がトイレで嘔吐した直後に養護教諭によって施設の消毒作業が行われましたが、その後にトイレを利用した別の生徒たちが発症していたことから、消毒不十分なトイレが集団感染の原因になったと推察されました。
 養護教諭は冬期のノロウイルス感染症の発生に備えて、次亜塩素酸ナトリウムの希釈液を事前に用意・保管し、これを消毒剤として使用していました。しかし、保管されていた希釈液からは有効塩素がまったく検出されませんでした。希釈液の入った容器は透明なペットボトルで、窓際の棚に保管されていましたが、その調製時期などは不明でした。
 希釈した塩素系消毒剤は、光によって有効塩素濃度が低下することがわかっています※ 。使用直前の調製が望ましいのですが、希釈液を一時的に保管する場合には、容器に消毒剤名・調製日を記載し、遮光して冷暗所に保管することが肝心です。新型コロナウイルスの感染拡大により、エタノール系消毒剤が広く活用されていますが、これはノロウイルスに対する消毒効果はあまり期待できませんので、注意する必要があります。
(2022年2月号掲載)

※ 東京都健康安全研究センター: 「ノロウイルス対策緊急タスクフォース」最終報告(平成22年9月)

たこ焼きから、黒くて硬い異物

 ある利用者が、たこ焼き専門店でお土産1パックを購入し、自宅で小学生の子どもと一緒に食べ始めました。すると子どもが、口から黒くて硬い異物を吐き出しました。幸いにも子どもにケガや体調不良はありませんでしたが、金属片のように見える異物に不安を覚えた利用者は、たこ焼きの残りを保健所に届け出ました。
 異物は厚さ2mm、大きさ8mm×5mm程度の不定形で、錆びた鉄のような黒色のものでしたが、磁石には吸着しませんでした。
 当該店舗に赴いて、実際のたこ焼きの製造・販売方法を確認したところ、異物混入の原因はすぐに判明しました。たこ焼き台の銅製の天板は全体が焦げて黒ずみ、無数の引っかき傷も認められました。特に天板の縁部分には蓄積された焼け焦げが塊となって付着し、その一部はひび割れて剥がれ落ちており、これが製品中に混入したものと考えられました。
 銅製の調理器具は、熱伝導性に優れており、食材をムラなく加熱できる特性があります。しかし、銅は柔らかい素材なので、硬い調理器具や金属タワシなどで傷がつくと、焼きムラや焦げ付き、緑青発生の原因にもなります。また、ソースなど酸性の液体が銅板と触れて食品中に銅が溶出すると、急性銅中毒を発症する場合もあります。日々使用する調理器具の素材や特性をよく理解して、清潔かつ安全に活用したいものです。
(2022年4月号掲載)

持ち帰り弁当から、錆びたネジ

 ある日の深夜、消費者が持ち帰り用の弁当を購入し、食べようとした時に米飯の中のネジに気づき、早速、販売店に連絡しました。後日、店舗本部の担当者が異物確認と謝罪のために消費者宅に赴き、事情を説明しました。しかし、世間への事実の公表を強く求める消費者は店舗側の対応に納得できなかったため、弁当容器と異物のネジを保健所に送り届け出ました。
 異物は長さ約20mmの金属製ネジで、ネジ目の部分にはサビが認められました。当該店舗の器具や設備を確認したところ、炊飯釜の取っ手部分のネジが一本欠落しており、異物のネジと合致しました。ネジがどのように弁当の中に混入したかの詳しい経緯はわかりませんでしたが、当該店舗では、調理器具類の破損にかかわる日常点検は行われておらず、従業員はネジが外れていたことにも気がついていない状態でした。
 調理機械・器具に使用されるネジは、緩みによる脱落、腐食や金属疲労による破損などにより食品への混入異物となるだけでなく、部品が欠落した調理機械・器具の使用は労災事故の原因になることもあります。脱落部品のない器具類の採用や、破損・脱落しやすい部分のマーキングと日々の確実な点検など、各職場環境に合わせた事故発生防止策が必要です。
(2022年5月号掲載)

デザートのシャーベットにガラス片

 お客様がレストランでデザートのシャーベットを食べている時に口の中に異常を感じて吐き出したところ、ガラス片でした。驚き、立腹したお客様は直ちに店側に申し出ましたが、謝罪するのみの店長の態度に納得できず、その場で保健所に電話をして原因調査の実施を求めました。
 保健所の検査により、シャーベットの中に複数個混入していたガラス片は、店内のデザート用グラスと同じ成分であることがわかりました。
 苦情発生前日に、従業員が冷凍ショーケースの上部に配置されたグラス保管用冷蔵庫付近でグラスを破損しました。当時は繁忙期でもあり、冷凍ケースの上蓋およびその中に保管されていた業務用シャーベット容器の蓋も開いた状態でした。苦情発生当日、従業員がディッシャーでシャーベット表面をすくい取る際に、シャーベットに付着していた透明なガラス片に気づかないまま、お客様に提供してしまったと推察されました。
 再発防止のために、グラスの保管場所を冷凍ショーケースの上部から横並びの位置に変更し、万が一グラス破損があっても破片落下による商品への混入が発生しにくいレイアウトに変更してもらいました。
 食品取扱現場において、人的なミスをなくすことはとても困難です。それだけに、食品危害が発生しにくい作業環境作りという視点から、設備配置や作業動線についての見直しを行っていくことが重要です。
(2022年6月号掲載)

バイオフィルムと洗浄の重要性

 ある飲食店で、煮物による黄色ブドウ球菌食中毒が発生しました。十分に加熱調理された煮物は専用のステンレス容器に移され、常温で数時間保管されましたが、この間に黄色ブドウ球菌が増殖して毒素を産生してしまいました。
 黄色ブドウ球菌は、作業者の手指からは検出されませんでしたが、洗浄済みのステンレス容器やレードルなどから検出されました。
 調理器具類は、毎日、食器洗浄機で洗浄されていましたが、ステンレス容器表面や縁の部分には黄色ブドウ球菌が「バイオフィルム※ 」状態で存在していて、煮物が容器に保管された際に増殖したと考えられました。
 この飲食店では、食器洗浄機にかける前の容器類の食品残渣除去が不十分で、すすぎ用温水の設定温度も低かったために洗浄後も汚れが落ち切れていない状態が継続していました。さらに、人の手指や食材由来の黄色ブドウ球菌が、食品残渣とともに調理器具や容器表面にバイオフィルムを形成したことが推察されました。
 調理器具類の洗浄・消毒は、食品取扱い現場では毎日繰り返されますが、安全な食品を提供するためには欠かすことのできない重要な作業でもあります。漫然と作業を繰り返していると思わぬ落とし穴がありますので、時には洗浄方法や効果を確認し直すことが必要です。
(2022年7月号掲載)
 
※ 容器表面などに付着して形成されるフィルム状の微生物共同体で、食品残渣(菌体外多糖)などに覆われていて、高い耐性を示す。特に黄色ブドウ球菌は、強固なバイオフィルムを形成することが知られている

  • 全て
  • 感染症
  • 健康
  • いきもの
  • 食品
  • 暮らし