Kanbunken 環境文化創造研究所

COLUMN

- コラム

弊所発行の「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

食品にまつわるトラブルから学ぶ(2)

元東京都杉並保健所 食品衛生監視員 谷口力夫

ミニパック入り醤油に固形物

 お客様から信頼を得るためには、「お店における食品取扱いの基本遵守」はいつの時代でも変わることのない重要なポイントです。
 寿司店で持ち帰り用寿司を購入したお客様が、自宅で食べようとした際に添えられていたパック入り醤油の中に硬い異物があることに気がつき、保健所に届け出がありました。
 苦情品はプラスチック製(ポリエチレン)の5mlミニパックに醤油が個包装されたもので、異物は未開封のパックの外から触れて確認できる固形物でした。検査の結果、異物成分の99%が塩化ナトリウム(食塩)の結晶でした。苦情品と参考品の比較分析を行ったところ、苦情品の総重量は参考品の約3分の2に減少し、苦情品の溶液中食塩濃度が高くなっていることが確認できました。この結果から、固形異物はミニパック内の醤油の水分が蒸発し、塩分が結晶化したものと推定されました。
 寿司店では醤油ミニパックを一時保管用の器の中に継ぎ足しながら使用しており、古い醤油パックが器の底に残ったまま長期間保管されたために水分が蒸発して固形異物が発生したものと考えられました。
 本事例は商品(醤油ミニパック)の先入れ先出し、使用期限確認の基本が守られていないために発生したもので、鮮度を売り物とする寿司店としてはイメージダウンを招く結果となってしまいました。
(2019年8月号掲載)

シンナー臭のするパック入り鶏肉

 東京都内の保健所には、食品に関する苦情が毎年5000件以上寄せられます。そのうち、異味・異臭に関するものは約5%を占めています※ 。
 スーパーで鶏のもも肉を購入した消費者が、当日の夕食に水炊きをつくって家族で食べました。ひと口目の鶏肉に違和感があり、「加熱が不十分なのかもしれない」と再度加熱して食べてみましたが、肉を噛むときにシンナー臭のような異常を感じて食べるのをやめました。
 このスーパーには拠点となる食肉加工工場でトレイパック包装された肉が納品されており、店舗における取扱いに問題点は確認できませんでした。スーパー本部に同様の事例について確認したところ、「異臭がする」との消費者からの苦情相談が同時期に複数件入っていました。
 食肉加工工場の調査の結果、苦情品のパック包装加工の前日夜中から当日未明にかけて、床の塗り替え作業が行われていたことがわかりました。鶏肉の異臭原因は、工場内に残っていた床用塗料のにおいが移行したものと考えられました。スーパー本部では当該品を直ちに店頭から撤去し、販売済みの商品については返金対応することとしました。
 包装食品であっても、外部環境からの移り香が原因となって商品価値を落とすことがあります。工場製造時のみならず、流通、保管、販売の各過程においても食品の取扱い環境には十分に注意する必要があります。
(2019年9月号掲載)

※ 東京都 食品衛生の窓「食品の苦情統計」https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/kujou/index.html

カツオのたたきから包丁の刃

 食品に混入する異物の種類はさまざまで、その混入も、原料、製造、流通、販売などの各工程で発生する危険性があります。特に、食品の製造・加工段階における異物の混入防止対策は重要です。
 スーパーで「カツオのたたき」を購入した消費者が、自宅で食べようとしたところ金属片の混入に気がつき、届け出がありました。異物は、大きさ約20ミリ×5ミリの薄く鋭利な金属片でした。
 スーパーの水産物厨房内の包丁を調べたところ、刃の一部が欠損している刺身用包丁1本が確認され、この包丁の破損部分と異物の形状がピタリと一致しました。原料のカツオは刺身用の凍結品で、本来は冷蔵庫内で解凍してから身さばきを行うことになっていました。しかし、苦情品のカツオは凍結状態のままで仕込み作業が行われたために、包丁の刃が欠けて商品に混入したものと推察されました。
 担当者は仕込み作業終了時に包丁の刃の破損に気がついていましたが、作業台周辺に包丁の破損部分が見当たらなかったことから、水産物の責任者への報告も行わずに用意した商品を販売してしまいました。
 本事例は、作業者個人の不注意と状況に対する判断の甘さが直接的な原因でした。しかし、再発防止のためには、個人のミスを食品事故に結びつけずにすむような組織体制、作業環境作りも必要だと考えられます。
(2019年10月号掲載)

長期保存可能なパック餅から黒い虫?

 食品製造現場では、機械の故障や従事者の作業ミスを完全になくすことは困難ですが、事故に直結しないための不断の取組みは重要です。
 自宅保管の丸餅(合成樹脂製袋詰)を食べようとした消費者が、餅の中に黒い虫のようなものがあることに気がつきました。
 異物を拡大観察したところ、虫ではなく黒い油のようなものが餅に練り込まれた状態でした。丸餅の製造工程と異物の成分分析などの結果から、黒い異物は餅つき機に使用された潤滑油にステンレスなどの微量金属成分を含んだものと推定されました。
 事故品発生時の製造工場では、餅つき機の杵のシャフト部分に作動不良があり、潤滑油の注油が行われました。作業手順書では製造ラインを一旦停止して対処することになっていましたが、当日は担当者が不在だったために別工程の作業者が作業を停止せずに注油を行っていました。したがって、餅への黒い異物混入は餅つき機への注油作業時、あるいは注油後の余分な潤滑油が垂れ落ちたことで発生したと推察されました。
 製造機械の可動部分は、摩耗、金属疲労、ネジの落下などによる異物混入の危険性が高い箇所です。製造機械の日常的な点検が最も重要ですが、製造ラインの異常発生時に全従業員が適切に行動するためには平常時の訓練で体験しておくことも有効です。
(2019年11月号掲載)

ひき肉パック包装内に生きた小バエ

 東京都内の保健所に寄せられる食品関連の苦情相談件数は毎年5000件を超えますが、異物混入は17%以上を占める関心の高い項目です※ 。
 スーパーでラップ包装された豚ひき肉を購入した消費者が、包装内に生きた小バエがいるのを見つけました。同じ店で同様の事例を続けて経験した消費者は、保健所に届け出ました。
 店舗にて肉の販売状況を確認したところ、包装表面にハエの死骸が付着したままの商品も見つかりました。バックヤードの食肉作業施設内では、シンク、排水溝、壁面などに多数の生きたハエが確認されました。食肉の包装作業は開放状態の出入り口扉近くの虫誘引ランプ直下で行われており、商品への虫の混入を予防できる状態ではありませんでした。
 その後の調査で異物となった小バエはショウジョウバエで、発生源は食肉作業施設内の汚れの溜まったグリストラップ(油阻集器)であることが判明しました。店舗にはハエの早急な駆除とともに、作業施設内の日常的な清掃と商品の衛生的な取扱いについての改善を求めました。
 この店舗では作業場内に多量のハエが発生している状況にもかかわらず、衛生上の異常事態だとの認識がなかったのが大きな問題でした。作業者一人ひとりが大切な食品を扱っているという自覚を持ち、感性を鈍らせないようにしたいものです。
(2019年12月号掲載)

※ 東京都 食品衛生の窓「食品の苦情統計」https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/kujou/index.html

異様な味のするかけ蕎麦

 ある日の深夜、蕎麦店でかけ蕎麦を食べていたお客様が異様な味を感じて店員に申し出ました。しかし、店員の説明は「丼を漂白剤で消毒したために臭いが取れていなかったのだろう」ということだけでした。このかけ蕎麦による健康への影響を心配した利用客が、保健所に届け出ました。
 翌朝の保健所担当者による店舗調査時に勤務中だった店員3人は、かけ蕎麦の苦情については何も把握していませんでした。この店は3交代制勤務で、前日の夜を担当した店員がかけ蕎麦の件を苦情とは認識せず、引き継ぎ連絡もしなかったのです。しかし、この店には今回と同様の苦情が過去1年間に2度あったことが判明しました。
 かけ蕎麦の異様な味の原因は、食器に付着した漂白剤の塩素臭と考えられました。苦情発生当日の食器取扱い手順を確認したところ、漂白剤への食器の漬け込みに目分量による高濃度の漂白剤が使用され、浸漬時間も曖昧で、すすぎ洗いも不十分だったことがわかりました。
 この店舗では、業務内容の引き継ぎや連絡体制が不十分で、定められた作業手順も形骸化し、苦情発生の兆候にも十分な対策がなされておらず、今回の苦情も起こるべくして起こった事例といえます。
 食品衛生にかかわる決めごとは必ずしも厳しいことが良いのではなく、食品取扱い現場に即した実施可能で効果的なものであることが大切です。
(2020年1月号掲載)

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