イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

今さら聞けない?食品衛生のウソホント(2)

イカリ消毒株式会社

エアシャワーと粘着ローラーがけは、どちらが先?

 現在の日本の食品工場では、製造現場に入場するときに粘着ローラーを使ってユニフォームについている毛髪やゴミを除去することが当たり前になっています。これに加えて、入場口にエアシャワーを設置している工場も増えてきました。では、エアシャワーと粘着ローラーがけは、どちらを先にやるべきなのでしょうか。
 エアシャワーと粘着ローラーがけは、「ユニフォームについている異物になりそうなものを除去する」のが大きな目的ですので、どちらも「正しく使用する」ことがとても大切です。「エアシャワーの中で2回転して、体をはたきましょう」や「粘着ローラーは帽子からズボンの裾まで丁寧にかけましょう」などルールが決められていると思いますが、まずはこのルールをしっかりと守ることが重要なのです。
 では、どちらが先がよいのでしょうか。答えは、「ルールを守りやすい順番が望ましい」ということです。ポイントは「粘着ローラーがけをやりやすいスペースは、エアシャワーの前か後か」です。粘着ローラーがけのルールを守るためには、ある程度のスペースが必要で、あまり狭い場所では他の人にぶつかるなどしてかけにくいでしょう。エアシャワーの前後どちらに粘着ローラーがけのスペースが取れるのかは工場によって異なりますので、どちらが先でないとダメということはないのです。
(2015年7月号掲載)

金属検出機があれば、金属異物対策は必要ない?

 食品工場では、異物混入は解決すべき課題のひとつです。その異物混入の中でも特に健康被害を引き起こす異物が金属片です。このため、多くの工場では、金属異物が混入してしまった製品を製造工程から除去するために金属検出機を設置しています。
 しかし、本当にそれだけで安心してよいのでしょうか。実は、金属検出機は完全に金属異物が混入した製品を除去できるわけではないのです。
 その理由のひとつは、金属検出機が探知できる金属の大きさに限界があるということです。製品自体が塩分や金属成分を多く含んでいたり、缶などの金属容器に入っていたりすると、探知できる金属の大きさはさらに大きくなってしまいます。また、すべての種類の金属を探知できるわけでもありません。金属異物が入った製品の取扱い不備も問題になります。金属検出機で除去した製品が、正常な製品と間違って出荷してしまわないように管理することも重要です。
 以上のことから、金属検出機を設置するだけでは、金属異物が混入した製品が出荷されることを完全には防ぎきれないことがおわかりいただけたと思います。金属検出機の性能と限界を正しく理解し有効に活用するとともに、金属検出機だけに頼らず、製品に金属異物が混入しないようにする対策も併せて実施することが重要なのです。
(2015年8月号掲載)

手袋をするのに手洗いをする意味はある?

 多くの食品製造現場では、食品を扱う際にゴムやビニール製の手袋を装着します。素手で食品に触れないなら、手洗いをしなくてもよいのではと思う人はいませんか。たしかに食品に直接触れるのは手袋です。しかし手袋を付ける手が汚れていると、新しい手袋を汚染してしまいます。では、手袋が破れたときや手袋を交換するときはどうでしょうか。
 作業をしていると、手袋の中は汗と体温で蒸れてきます。体温の36℃付近は菌が最も増えやすい温度帯であり、そこに汗の水分が加わることで、菌が繁殖するには絶好の環境となります。手洗い前の手指には非常に多くの菌が付着しています。手洗いせずに手袋をしていたら、手袋の中で膨大な数の菌が増えることになるでしょう。また、食品の製造作業をしていると手袋が破れるということがあります。しかも本人はそのことになかなか気づきにくいものです。手洗いをせずに手袋を装着していたら、破れたときに食品を大量の菌で汚染することになります。
 手袋を交換する際も、同じように考えることができます。手袋の交換は汚れたものに触れた後や休憩のときなどに、頻繁に行われます。最初に手洗いをせずに手袋を装着すると、次の交換の際に新しい手袋を汚染してしまうことになるでしょう。手袋をする場合でも、あらかじめしっかり手洗いを行い、できるだけ菌を少なくしておくことが重要なのです。
(2015年9月号掲載)

「まゆ毛・まつ毛対策」は、どうするの?

 食品への異物混入が騒がれる中、毛髪の混入防止に注力している食品工場は多いと思います。「毛髪」は頭髪だけでなく、まゆ毛やまつ毛などの非常に短い毛も異物混入クレームの対象になります。頭髪についてはネットや帽子をかぶるなどの対策がよく知られていますが、まゆ毛やまつ毛対策はどうするべきでしょう。
 まゆ毛は左右合わせて約1300本生えており寿命は4~5か月、まつ毛は両目上下合わせて150~250本ほどで寿命は3~5か月です。1日に抜ける本数はまゆ毛・まつ毛両方で10本前後と推測されます。
 これに比べて、頭髪はどうでしょう。日本の成人では約10万本生えているといわれ、寿命が約5年間ですので、1日当たり約55本抜ける計算となります。しかも頭髪はまゆ毛やまつ毛より長いものが圧倒的に多く、異物として混入すれば目立つのは間違いありません。
 これらの情報から、毛髪の異物混入防止対策として優先すべきは頭髪であることに異論はないでしょう。まゆ毛やまつ毛は頭髪に比べて格段に本数が少なく短いため、混入対策としては、出勤前の自宅での洗顔が有効です。洗顔する際、まゆ毛・まつ毛をよくこすり洗いし、抜け落ちる毛をあらかじめ落としておくことで、まゆ毛・まつ毛による異物混入の可能性は極めて少なくなります。
(2015年10月号掲載)

ノロウイルスに、アルコールは効果がない?

 ノロウイルスにアルコール※1 は効果がないという話が一般的になっていますが、店頭ではウイルス対策用にアルコールが販売されています。では実際、ノロウイルスにアルコールは効果があるのでしょうか。
 ウイルスにはエンペロープを持っている種類と持っていない種類があります。エンペロープとは簡単にいうとウイルスを覆っている膜のようなものです。アルコールはエンペロープを持っているウイルスには効果がありますが、持っていないウイルスには効きにくいのです※2 。ノロウイルスは持っていないために、アルコールが効きにくいのです。
 では、なぜウイルス対策用のアルコールが販売されているのでしょうか。実は市販されているウイルス対策用のアルコールは、使い勝手が良いようにアルコール濃度を抑え、いろいろな酸性物質が添加されています。この酸性物質の種類や酸性の程度(pH)が最適な条件になると、アルコールが効果を発揮します。つまり、エンペロープがないノロウイルスにも効果が出るようにさまざまな工夫がなされているのです。
 ただし、このようなアルコールの効果確認は、ノロウイルスが実験室で培養できないため、ノロウイルスに構造が近いネコカリシウイルスを使用して実験していることから、厳密に言うと”ノロウイルスに効果があると推定されている“ということになります。
(2015年11月号掲載)

※1 ここでいうアルコールとは、一般消毒用アルコールを指す
※2 エンペロープは主に脂質でできているので、アルコールによって容易に破壊される

記録は何のためにとるの?

 食品製造現場では記録をとることが多く、面倒に感じている人もいるかもしれません。では、何のために記録をとるのでしょうか。
[1]問題発生時に原因究明の材料とするため
 商品を購入した消費者から異臭や異物混入などの申し出があった場合、その原因を調べなくてはなりません。その商品を、いつ、どのように作ったのか、その際に異常が発生していなかったのかを確認します。賞味期限が長い食品では1か月以上前の状況を振り返るケースがありますが、そんな昔のことを”記憶“に頼って確認するのは不可能です。
[2]実施している管理の証明とするため
 昨今、農薬混入や異物混入などの事件・事故により食に対する消費者の不安が増しているため、正しい管理をしていることを取引先や消費者に示す必要があるでしょう。口頭で「やっています」というより、証拠として”記録“を示すことで、相手も管理の内容を知ることができ、安心できるでしょう。また、日頃から管理者が記録をチェックすることで問題を速やかに修正することができ、「管理の正しさ」を維持できます。
 記録の目的を知ると、記録に求められることもわかります。状況を適切に反映するように、「実施したときに、ありのままを」記録することが大切です。
(2015年12月号掲載)

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