Kanbunken 環境文化創造研究所

COLUMN

- コラム

弊所発行の「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

食品企業改革ものがたり

遠山技術士事務所 技術士(農芸化学) 遠山茂雄

当たり前ではなかった「週休2日制」

 現在、週休2日制は多くの企業で採用されています。皆さんはそれが当たり前だと思っているかもしれませんが、昔はそうではありませんでした。
 実はこの週休2日制は、ある大手食品企業(以下、A食品)が、今から約50年前の1971年に採用したことから広く普及したといわれています。今では当たり前とされていることでも、そこに至るまでにはさまざまな人たちの工夫や苦労がありました。
 私は長年A食品に勤務し、「週休2日制導入プロジェクトチーム」のメンバーの1人でした。そこで本シリーズでは、私の経験を皆さんにお伝えし、企業を改革するとはどういうことなのかを一緒に考えていきたいと思います。
 当時、A食品の休日は週1日で年間約52日でした。これを週休2日制にすると、年間休日が104日に倍増することになります。もちろんこれらは簡単に受け入れられるものではなく、解決すべき課題が多数ありました。私たちプロジェクトチームが中心となり週休2日制が導入されることになるまでには、多くの試行錯誤と交渉がありました。
 次回から、A食品が抱えていた課題とその解決方法について具体的に紹介していきたいと思います。
(2020年11月号掲載)

工場での新しい取り組み

 本シリーズは、ある大手食品企業(以下、A食品)が、今から約50年前に導入した週休2日制を、企業改革という視点から考えるものです。前回ご紹介したように、今では当たり前の週休2日制も、その導入までの道のりは平坦ではありませんでした。
 A食品は労働組合から週休2日制の導入を要請されたものの、実現するためには大きな2つの課題がありました。1つ目は、「従業員を増やさないこと」です。年間休日を倍増させるために従業員を増やすと労務費が増えて経営を圧迫するため、増員せずに制度を導入しなければなりませんでした。
 2つ目は、「これまでの慣行を見直すこと」です。週休2日制導入だけではなく、同時に新しい職場風土を確立してやっていかなければ、実現して定着させることは難しかったからです。
 そこで私たちプロジェクトチームは、まず、社内で最も歴史があり従業員数の多かったK工場を取り上げて、どうすれば従業員を増やさずに週休2日制を導入できるかという課題に着手しました。この課題解決に必要なのは、職場における作業量を正確に見積り、その作業量に見合う要員を設定することでした。次回は、どのような手法でこの課題を解決したのかをご紹介します。
(2020年12月号掲載)

作業量を測定する

 本シリーズは、ある大手食品企業(以下、A食品)が、今から約50年前に導入した週休2日制を、企業改革という視点から考えるものです。
 A食品はまず、K工場で週休2日制導入のための取組みを始めました。ひとつ目の課題であった「従業員を増やさずに週休2日制を導入する」ために、「職場における作業量を正確に見積り、その作業量に見合う要員を設定」したのです。その際に活用したのは、当時トヨタ自動車で採用されていたIE(インダストリアル・エンジニアリング)です。
 IEとは、あらゆる産業分野の生産性を高める総合的管理技術です。そのひとつに、作業量算出のための時間測定手法があり、作業量を作業時間によって数値化します。作業時間を正確に測定するための方法としては、実際の作業時間をストップウォッチで測定する方法、作業をビデオで撮影して各作業の時間を割り出す方法、作業者を連続的に観測し記録して作業時間を求める方法などがありましたが、私たちは「PTS法※ 」を採用しました。そしてA食品独自の「APTS法」を確立し、作業量測定の軸として位置付けました。
 K工場には30を超える部門があり、プロジェクトメンバーだけですべての部門の作業量を算定するのは困難であったため、APTS法が使えるチームを部門ごとに編成し、即戦力となるよう教育を行いました。
(2021年2月号掲載)

※ Predetermined Time Standard system。既定時間標準法ともいう。
作業の内容を基本動作に分解し、動作と条件により定めた「動作時間標準表」から公平かつ客観的な作業時間が求められるという方法

必要な要員数を決定する

 本シリーズは、ある大手食品企業(以下、A食品)が今から約50年前に導入した週休2日制を、企業改革という視点から考えるものです。
 前回ご紹介したように、A食品では週休2日制を導入するためにプロジェクトチームをつくり、まずは従業員の作業時間を正確に測定することから始めました。そして、すべての作業量を算出後、次のような方法で必要な要員数の算定を行いました。
 まず初めに、工場の生産スジュール表上に作業量を積み重ねて記し、作業量が最も高い箇所を見つけました。次にそのピークを下げるために「山崩し法」を実施しました。山崩し法とは、作業方法の改善やムダな作業のカット、生産スケジュールの見直し・変更などを行いピークを下げる方法です。この「どうすればピークを下げられるか」を徹底的に思考することが非常に重要です。山崩しを重ね、作業量のピークがわかったら、そのピーク時の要員を職場にとって必要な人数と見なします。そして、決定した要員で作業がスムーズに実施できるかどうか、生産に支障がないかどうかをテストランで確認し、問題がなければ、その職場の要員数として決定します。以上の取組みにより減少した要員は、別の部門の作業を担当します。こうして、生産性を維持しながらも増員せずに週休2日制の導入が可能となりました。
(2021年6月号掲載)

タイムカードの廃止

 本シリーズは、ある大手食品企業(以下、A食品)が、今から約50年前に導入した週休2日制を、企業改革という視点から考えるものです。前回ご紹介したように、A食品では工場に必要な要員数を導き出したことで、増員せずに週休2日制の導入が可能となりました。今回ご紹介するのは、ふたつ目の課題である「慣行の見直し」についてです。歴史のあるK工場には、長く続く悪しき慣習があり、週休2日制を実現するためには、そのような慣習の見直しや職場開発が求められました。
 K工場では正門を入った場所にタイムカード室があり、従業員はそこで打刻してからロッカー室で作業着に着替え、それぞれの職場に向かっていました。始業時間は午前8時でしたが、「8時数分前」や、「8時ギリギリ」の打刻であっても業務を開始したと見なされており、職場の場所がロッカー室から離れている従業員は移動に時間がかかって仕事を始める時間もばらばらという状態でした。そこで、正門から遠い職場であっても「定時に業務を開始する」こととしました。タイムカードさえ打刻していれば、働いた気持ちになるというのでは困ります。目先の時間だけにとらわれて仕事をするのではなく、仕事の質や働く意識を高めてもらうためにタイムカードを廃止しました。この大胆な決定に、従業員がとても驚いたことを今でも覚えています。
(2021年8月号掲載)

「改革」が企業と従業員を強くする

 本シリーズは、ある大手食品企業(以下、A食品)が、今から約50年前に導入した週休2日制を、企業改革という視点から考えるものです。前回までにご紹介したように、A食品では週休2日制という大きな課題のために業務量やそれに関わる人員を見直し、増員することなく週休2日制を実現し、タイムカードも廃止しました。最終回でご紹介するのは、「実践教育」についてです。
 当時A食品では、生産部門の従業員への製造技術教育の時間が少ない状況でした。その理由を、ある管理職は「定年や中途で退職したとき、教えていた企業秘密を洩らされる恐れがあるからだ」と話していました。一方でA食品では「生産性運動三原則」を掲げており、私たちはこの運動を推進するためにも企業を強くするためにも、生産部門への教育が必要だと働きかけ、製造技術の実践教育が始まりました。カリキュラムは数学、理科、化学、文章作成などで、生産職全員が製造技術マニュアルを理解できるようになることを目標とし、教育を重ねました。
 「週休2日制のための取組み」は、やがてA食品の職場風土として定着し、その後やってきたオイルショックで経営危機に見舞われた際にも社を挙げてエネルギー削減に努める源にもなりました。ひとつのミッションが、企業に大きな改革と団結をもたらしたのです。
(2021年11月号掲載)

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