Kanbunken 環境文化創造研究所

COLUMN

- コラム

弊所発行の「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。

自然災害と感染症対策

元東京都健康安全研究センター 微生物部 部長 矢野一好

基本は「手洗い」

 近年は、地震や台風などによる自然災害が多発しています。そこで、本シリーズでは、災害によってもたらされる可能性のある感染症の予防に焦点をあてて、被災地や避難所でとるべき身近な行動について解説します。
 感染症予防の基本は、平常時や被災時にかかわらず「手洗い」です。「手洗い」の具体的な手順については、関係機関からも多くの情報が提供されていますのでここでは省略し、被災地における手洗いの必要性と十分な水の量を確保できない場合の手指の清浄方法を整理します。
 被災地における手洗いの必要性は、手に付着した病原体などが含まれた「汚れ」を除去することにあります。汚れの除去には、石鹸と流水による手洗いが効果的です。しかし、被災地では十分な量の水が確保できるとは限りません。このような場所では、「擦り込み式の手指清浄剤」※ が有効です。手指清浄剤は、避難場所等にも設置されることが多いと思われますので、水での手洗いができないときの「トイレの後」や「食事の前」には積極的に活用しましょう。しかし、清浄剤が入手できないことも多々あります。このような場合に食事の準備をするときは、清浄な「使い捨て手袋」を着用しましょう。そのためにも、平時から避難用品の中に「使い捨て手袋」を多めに入れておくことをお勧めします。
(2019年2月号掲載)

※ 消毒用アルコール等で調製された市販の速乾消毒剤。ジェルと液体があり、容器はスプレー式とポンプ式がある

避難所では「土足厳禁!」

 平時は、土壌の表面よりも少し深いところで人知れず生息している病原菌がいます。その代表格は、「レジオネラ属菌」と「破傷風菌」です。
 レジオネラ属菌は、管理の悪い循環式浴槽水を介して人に感染し、肺炎や発熱をもたらす病原菌として知られていますが、もとは土壌に生息しています。麻布大学の調査によりますと、全国各地で採取した土壌の約6%からこの菌が検出されています。しかも、表面よりも少し深いところからの検出率が10%と高くなっています。先の東日本大震災でも土壌に生息していたレジオネラ属菌が津波によって巻き上げられ、これを誤嚥(ごえん)した人が感染したと考えられる事例が確認されています。
 破傷風菌も土壌中に生息しており、この菌に感染した人は、顔面筋の緊張や頚部の硬直をきたし、最悪の場合、死に至ることがあります。被災地においては、津波等によって土壌から剥離(はくり)した破傷風菌が、負傷した人の傷口から侵入する可能性が高くなります。東日本大震災の被災地でも、数名の患者さんが確認されています。
 このように災害によって剥離した土壌にはレジオネラ属菌や破傷風菌などの病原菌が混入している可能性があります。これらの病原菌による感染症を予防するための策のひとつは、避難所室内を「土足禁止」として、屋外の土壌を室内に持ち込まないようにすることです。
(2019年4月号掲載)

ボトル水は「口飲みしない」

 日頃の水分補給はもとより、避難場所での飲料水としてもペットボトルに詰められた「ミネラルウォーター」などが提供されることは多いと思います。このようなボトル水の容量は、500ミリリットルから2リットル程度です。容量が少なめのボトル水は、ボトルに直接口をつけて飲む「口飲み」をすることが多いのではないでしょうか。しかし、飲み残したボトル水の中では細菌類が増えることがありますので、早めに「飲み切る」か「コップに移して飲む」ことをお勧めします。
 細菌が増えるためには、「水分と栄養分と温度」が必要ですが、ボトル水を「口飲み」するとこの条件が整い、細菌が増える恐れがあります。
 ボトル水に大腸菌を添加して室温に放置した場合の菌数変動について実験した結果を紹介します。1時間経過までは目立った菌数変動はありませんでした。ひと晩置くと、ボトル水の種類によっても差がありましたが、10倍から100倍に増えたボトル水がありました。この実験結果から推測すると、「口飲み」したボトル水では、口の中の栄養分が追加されるために、さらに増殖しやすくなることが想定されます。
 このような可能性を考えると、開封したボトル水は「一度に飲み切る」か、冷蔵庫等に保存してその日のうちに飲み切るほうが安全です。また、容量の大きなボトル水は、コップに移して飲むとよいでしょう。
(2019年6月号掲載)

給水車の水は「密閉容器で保管できる」

 災害等により断水となった場合は、避難所等において「ボトル水の配布」や「給水車による給水」がなされます。どちらも飲料水として使用できますが、保存性には差があります。ボトル水には、消毒のための塩素が含まれていませんので、開封したら早めに使い切りましょう。
 一方、給水車によって給水される飲料水のほとんどは、平常時の水道水と同じ水質の水が提供されます。つまり、殺菌効果がある塩素が水道水質基準に合致した濃度で含まれています。このような水は、密閉容器等で冷暗所に保管すれば数日間は塩素濃度が保たれます。水道水の保存期間については、東京都をはじめ多くの行政機関からも調査結果が公表されています。それらの報告によれば、保存容器や保存温度等によって保存期間に差はありますが、光を通しにくい密閉容器を使用して、容器の口元まで水を満たした状態で保存すれば、少なくとも3日間は保存できるとされています。気温が低い冬場で条件さえよければ10日間保存できるという結果もあります。いずれにしても、給水車によって給水された水道水には塩素が含まれていますので、数日間は保存ができます。
 私からの提案ですが、平時から清潔なポリタンクの口元まで水道水を満たして保存しておき、1週間程度経過した水は雑用水として使用し、新しい水道水と入れ替えて備蓄することをお勧めします。
(2019年8月号掲載)

炊き出された食事は「すぐに食べる」

 避難所における「炊き出し」は、食中毒防止を念頭において、「加熱していない食品は提供しない」のが原則です。しかし、炊き出しを受けた側が、食中毒防止のポイントを理解して実行しない限り、避難所における食中毒のリスクは低減しません。すなわち、「手洗い」、「温度管理」、「提供された食事はできるだけ早く食べる」の3点が重要です。しかしながら、家族への取り置きや次回の食事への不安感などから、提供された食事をとっておくことも想定されます。
 東日本大震災の避難所では、調理された鶏肉煮込み料理を常温で放置し、提供までに時間を要したことが原因と思われる食中毒が起きています。また、平成24年8月の豪雨では、土砂崩れのために孤立した地区に持ち込まれたおにぎりによる食中毒が発生しました。この事例では、患者の便とおにぎり、そして、おにぎりを作った地元業者の従業員の手から黄色ブドウ球菌が検出されています。しかも、被災者に配布されるまでに時間を要しており、この間に細菌が増殖したとみられています。
 被災地において食事を提供する側は、「早めに食べましょう」だけではなく、「残しておかないようにしましょう」と案内することが重要です。もちろん、提供を受けた側も消費期限を守ることと、炊き出された弁当やおにぎりは「速やかに食べ切ること」が重要です。
(2019年10月号掲載)

がれきの撤去には「手袋の着用」を

 被災地では、がれきの片づけのとき、がれきを素手で触って手を切ったりクギを踏み抜いたりすることがあります。このがれきが泥で汚れていると、土壌由来の病原体に感染する危険が生じます。このような危険性がある病原体の代表格は、ボツリヌス菌と破傷風菌です。
 ボツリヌス菌は土壌に生息しており、深い傷からの感染例が報告されています。感染すると菌の毒素によって進行性の麻痺を起こし、最終的には呼吸筋麻痺によって死亡することがあります。破傷風菌でも強力な毒素によって全身の筋肉に硬直や痙攣(けいれん)が起こり、呼吸困難に陥って死亡することがあります。東日本大震災が起こった翌月の4月13日に発行された河北新報には、「震災で被災した宮城県内沿岸部で破傷風の発生が相次ぎ、県は、がれきの撤去作業時の負傷で感染する恐れがあるとして、各市町村や保健所を通じ注意を呼び掛けた」とあります。
 がれきの撤去作業をするときは、このような感染症にかからないための防御が必要です。防御の基本は、ケガの防止です。そのためには、素肌を露出しない服装で破れにくい丈夫な手袋や長靴などを着用することです。特に手袋は一般的な作業で使用する軍手ではなく、切り傷や刺し傷を防ぐことのできる丈夫な作業用手袋を着用してケガを防止しましょう。そして、作業後は十分な手洗いと手指の消毒を励行しましょう。
(2019年12月号掲載)

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