イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

食品衛生管理におけるヒューマンエラー対策

公益社団法人 日本食品衛生協会 技術参与 佐藤邦裕

リンゲルマン効果(社会的手抜き)

 皆さんの職場の製造日報など、管理帳票類の右上押印欄には、何人の押印が必要ですか。私のこれまでの経験では、たとえ過去にさかのぼって押印が欠けている帳票類があっても、たいしたトラブルもなく商品は出荷されているのが現実でした。基本的に帳票類は、押印されて初めて記録となります。簡潔で無駄のない内容で作成するのが第一であり、よけいな記載欄があれば処理が遅れるだけです。工場長の押印があってもなくても、工場で製造した製品でトラブルが生じた際には最終的に工場長が責任を取るのは当然のことでしょう。
 押印者の数が多くなればなるほど、一人ひとりの負う負担は軽減されるような気になるものです。「自分の後に○○さんがチェックするはずだから」といって早く次に回すことばかりが優先されがちです。ある工場では従来は2人体制で検品していましたが、事故品が出てしまったために、やむなく検品対応者を倍の4人に増やしました。はたして2倍の精度で検品効果が得られたでしょうか。残念ながら、そうはなりませんでした。検品対応者それぞれに「社会的手抜き」と呼ばれるリスク分散が生じ、思ったような効果は上がらなかったのです。フランスの農学者リンゲルマン博士が、集団作業時における一人当たりのパフォーマンスを数値化し、「リンゲルマンの法則」としてまとめています。
(2019年10月号掲載)

整理と整頓のポイント(必要と不要の区別)

 食品をはじめとする製造現場の行動規範として常識となっている「5S」。しかし、私の経験では「5S」がしっかり実践されていると感じた製造現場は、決して多くありません。皆さんの職場はいかがでしょう。
 整理と整頓について、考えてみましょう。「5S」でいう整理と整頓とは、置く場所・置き方・置く数を決め、この状態を維持(管理)することです。当然ですが、必要なものと不要なものの区別がついていることが前提になります。
 たとえば目の前にある工具箱。5人の作業者が使用しているとして、収納されている工具の種類と数を正しくいえるでしょうか。実は、5人の答えが一致していることは滅多にありません。日常の作業に必要なものさえ揃っていれば、それ以外の工具の種類や数などにまで注意がゆき届かない人もいるかもしれません。
 日常の作業に必要なものと必要ではないものとを区別するのが、整理と整頓です。必要ではないものは工具箱から撤収し、「これが整理・整頓された状態」であると決めます。その際、収容工具の数は必要最小限とし、紛失などの異常が起きたときにすぐに気がつくためにも、予備やスペアは持たないようにします。必要なものだけが常に収納されているように管理をすることが、「5S」の基本です。
(2019年11月号掲載)

「見える化」か、「見せる化」か

 食品製造現場で、「整理」や「整頓」を実行するための優れた管理手法として、「見える化」という言葉をよく耳にします。これは本来、ルールや仕組みが守られ実践されているかを視覚的に認識するためのものです。ルールからの逸脱が瞬時に認識できればすぐに是正できることから、最近の現場監査では主要なポイントとなっているようです。
 工具や備品の収納管理などに採用されていることが多く、使用中の工具がひと目でわかるように、用具や備品を目的別や使用工程別に色分けするカラーリングといった工夫も見られます。
 このように、よいことばかりにも思える「見える化」ですが、視覚化や視認性の向上を優先するあまり、工具置き場がまるで展示場のように整理されていたり、実際の作業には使用されないカラフルな備品類が収納されているところもあります。現場の作業従事者に聞いてみると、カラフルで明るい(視認性のよい)工具類の置き場や管理状況を見ただけで(点検ではない)、チェックシートの成績は確実に上がるようです。
 「見える化」の本来の目的はルールを逸脱した際にすぐに気がつき、是正することです。現場従事者の利便性とはかけ離れてしまった「見える化」は、私には監査者への「見せる化」に感じられます。皆さんの職場はいかがでしょうか。
(2019年12月号掲載)

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