Kanbunken 環境文化創造研究所

COLUMN

- コラム

弊所発行の「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

目黒寄生虫館に展示されている寄生虫(3)

公益財団法人 目黒寄生虫館

ギロコチレ

 ギロコチレが寄生するギンザメは、軟骨魚類のなかの全頭類に属します。「サメ」という名前はついているものの、同じ軟骨魚類のサメやエイが属する板鰓(ばんさい)類とは別の仲間です。飼育が難しく、水族館でも目にすることはほとんどありません。英語で「ラットフィッシュ」というのは、尾がネズミのように長いためです。
 ギロコチレは条虫の仲間ですが、無数の体節を持ついわゆるサナダムシとは異なり、体節構造は持っていません。体長5cmほどで、目黒寄生虫館1階の展示室で小さな標本瓶に収まっています。体の側面にフリル状の飾りが付いていて、ちょっとおしゃれな感じがするので、人気があります。消化管はなく、このフリル構造を通して栄養を吸収します。後端はラッパ状に広がり、先がひだ状に複雑に入り組んだ構造になっていて、ギンザメの腸に吸着します。雌雄同体ですが、1尾のギンザメにたいてい2虫が寄生しています。お互いに精子を交換し合っていると思われます。
 ほかの条虫類では、卵から孵化すると幼生は中間宿主に寄生して、その中で発育・変態する必要がありますが、ギロコチレの幼生はそのままギンザメの口から入り、腸に達して成長すると考えられています。ギロコチレは、形態も生態も条虫らしくない寄生虫です。
(2020年8月号掲載)

広東住血線虫

 一昨(2018)年、8年前のパーティーでふざけてナメクジを食べたオーストラリアの男性が、長い闘病の末に亡くなった、というニュースが話題になりました。この原因は、広東(かんとん)住血線虫という寄生虫でした。
 この線虫の成虫は、ドブネズミやクマネズミの肺動脈の中に寄生します。メスの体には、血液が充満した赤黒い腸管と、卵が充満した白い子宮が絡み合った特徴的ならせん模様が見られます。
 ナメクジやカタツムリなどに寄生した幼虫がネズミ類に食べられると、幼虫は脳を経由して、肺動脈で成虫になります。生野菜に付いたナメクジを誤って食べるなどして人間が感染した場合には、幼虫は脳に留まって髄膜脳炎を起こし、激しい頭痛、発熱、運動失調などを発症することがあります。
 日本では1969年以降、75症例(死亡1例)の報告があり、約7割は沖縄の症例です。しかし宿主動物の調査では、この線虫は北海道から沖縄まで広く検出されています。最近の目黒寄生虫館の調査でも、都内のドブネズミから成虫が検出されました。ハワイでは最近5年間に、旅行者を含めて年に6~19人の患者が発生して問題になっています。ナメクジやカタツムリを触った後は手をよく洗う、生野菜にナメクジなどが付いていないか気をつける、などの心がけが大切です。
(2020年12月号掲載)

白点虫

 白点虫は、淡水魚の皮膚やエラなどに寄生する繊毛虫です。単細胞ですが、直径1mmに達し、肉眼で白い点として見えるので、その名があります。
 目黒寄生虫館1階には、白点虫が寄生したアユカケという魚が展示されています。魚の外側にくっついているように見えますが、魚の表皮やそのすぐ下に入り込む、れっきとした内部寄生虫です。魚の細胞を食べて成長すると魚を離れ、シスト※ を作って水底で分裂し、数千の幼生になります。1日後には孵化(ふか)して繊毛で泳ぎ、新しい魚に感染します。狭い水槽などで魚が飼育されると大量に寄生することがありますが、野生の魚にはまれです。大量寄生すると、表皮がはがれ、魚が死んでしまうので、養殖魚や観賞魚の大敵として知られています。しかも、白点虫は淡水魚なら種類を選びません。感染した魚を水槽に持ち込むと、別の種類の魚にも容易に感染するので要注意です。
 飼っている魚に白点虫を見つけたら、どうしたらよいでしょうか。小型の水槽なら、0.5%の濃度になるように食塩を加えるという方法があります。水温20℃なら、少なくとも1週間はそのままにしておきます。その間に魚を離れた白点虫やシストから孵化した幼生は、塩水に触れて死にます。この程度の塩分濃度なら、魚には影響ありません。
(2021年8月号掲載)

※ 内部に多数の幼生を含む袋状の構造物

東洋眼虫

 寄生虫といえば「腹の虫」、すなわち回虫やサナダムシのように腸に寄生するものを思い浮かべることが多いですが、中には眼に寄生する種類もいます。
 東洋眼虫は体長約1cmの細長い小さな線虫で、主な終宿主であるイヌやネコの眼に寄生して、涙の中に幼虫を産みます。イヌやネコの涙や眼脂をなめるために飛んできたメマトイと呼ばれるハエの仲間が、涙と一緒にこの幼虫を摂取します。摂取された幼虫はハエの体内で発育し、このハエが次にイヌやネコの涙を舐めるときに媒介して感染させます。
 「東洋」の名のとおり東南アジアや東アジアに分布しますが、最近はヨーロッパでも報告されています。日本では気温の高い西日本や南日本に多く見つかっていましたが、関東や東北にも生息することがわかってきました。東京都内のイヌとネコを調査したところ、それぞれ4%、2%に寄生がみられました。
 ヒトの眼にも寄生し、異物感や結膜炎などの症状を起こします。国内では、これまでに約180の人体寄生例があります。ある大学の先生は、この東洋眼虫をしばらく自分の眼で飼っていて、ときどき学生に見せていました。ご本人いわく、特に症状はなかったとのことでしたが、皆さんは真似をなさらないようにお願いいたします。
(2021年12月号掲載)

シュードテラノバ

 シュードテラノバは、アニサキスに近い寄生性の線虫の仲間です。中間宿主である魚に寄生している幼虫を摂食すると人間にも一時的に寄生し、激しい痛みを伴う胃腸炎を起こすことから、アニサキスとともにアニサキス症の原因虫とされています。アニサキス同様、しっかりと加熱あるいは冷凍することにより、食中毒を避けることができます。
 シュードテラノバとアニサキスは、生態や形で区別されます。シュードテラノバの幼虫はホッケやカレイによく見つかり、成虫はアザラシやオットセイなどの鰭脚(ききゃく)類に寄生します。一方、アニサキスの幼虫はサバやサンマ、サケ、カツオなどに多く、成虫はクジラやイルカ類に寄生します。シュードテラノバの幼虫はアニサキスの幼虫よりもやや大きく、黄色または赤っぽい色をしています。また、両者は消化管の形態も異なり、シュードテラノバは腸の前端から前方へ伸びる腸盲嚢(ちょうもうのう)という構造をもっています。
 シュードテラノバには複数種が知られていますが、日本人が命名したものに、「シュードテラノバ・アザラシ」という種があります。「アザラシ」は成虫の宿主にちなんだものですが、これは日本だけの呼び名ではなく、世界中の研究者が使う名前(学名)です。日本語が入っていることで、少し親近感が湧くでしょうか。
(2022年5月号掲載)

ヒダビル

 昨(2022)年、水揚げされたブリの体表に大型の黒い虫が付着していると連絡を受けました。目黒寄生虫館に送っていただいたところ、ヒダビルというヒルであることがわかりました。多くの汽水魚※ や海水魚に寄生する普通種ですが、生態はよくわかっていません。体はやや扁平で、両端に吸盤を持ちます。後端の吸盤はかなり強力で、ヒルを魚から引き離す際に出血することもあります。魚に寄生するヒルは前端の吸盤で吸い付いて、突出させた吻(ふん)を使って宿主から体液を吸引します。ちなみに人間に寄生するヒルには吻はなく、吸血の際は顎にある歯を使います。体側面に呼吸嚢(のう)と呼ばれる小突起を13対備えているのが特徴です。
 当館に到着時、ヒダビルはまだ生きていたので標本にすることにしました。ヒダビルを固定液にいきなり投入すると縮んで丸くなってしまうので、海水の入ったバットに移し、エタノールを少しずつ加えて弛緩させました。エタノールが日本酒くらいの濃度になってヒダビルが「泥酔状態」になったところで、液をホルマリン水に置換し、体がまっすぐに固定されるまで両端を押さえていました。出来上がった標本は20cmを優に超えていましたが、文献では最大15cmと書かれているので、このヒダビル標本は特大です。当館の1階展示室中央の棚に設置されていますので、ご覧ください。
(2023年1月号掲載)

※ 淡水と海水が混じり合う河口などに生息する魚

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