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COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

知っておきたい介護のこと

介護問題研究家 中村和彦

誰にでも起こりうる介護問題

 厚生労働省によると、2009年6月時点で要介護者(介護される人)の総数は472.3万人で、65歳以上の人口の15.5%が介護されていることになるそうです。このままいくと2025年には要介護者は700万人にもなると予測されています。この数字が示すのは、介護が誰にでも起こりうるということです。介護する側になるのか、あるいは介護される側となるのか。どちらの可能性も決して低くはありません。アルツハイマー症や脳梗塞など、さまざまな要因で介護が必要になりますが、最近は若年性(65歳以下)の認知症患者も増えているようです。
 40歳以上になると誰もが介護保険料を支払うことになりましたが、いざ介護が必要になってもサービスを利用しない人もいます。すべて自分一人で親や夫の面倒を看ようと頑張ってしまう人たちです。
 いろいろな介護サービスがあることを知りながら、一人で頑張る人もいれば、知らないままの人もいます。一人で24時間付きっきりの介護は共倒れになりやすく、最悪の場合、暴力や介護放棄といった事態に陥ることもあります。では、一人で困っている方はどうすればいいのでしょうか。
 最も気軽に相談できるのは地域包括支援センターです。市区町村が運営しており、介護のことならどんな些細な相談にものってくれますので、一度訪ねてみるとよいでしょう。
(2011年5月号掲載)

はじめての介護サービス

 親や夫の介護が必要になったら、まず、役所や地域包括支援センターに出向いて介護保険の要介護認定の申請をします。申請後、調査員が自宅や病院に来て聞き取りや観察を行い、1か月ほどで認定結果を伝えてくれます。要介護1~5、または要支援1、2(要支援1が最も低く、要介護5が最も高い)に認定されて始めて、介護保険のさまざまなサービスが利用できるようになります。
 在宅で利用できるサービスには、食事や入浴を提供するデイサービス(居宅介護支援事業所)や、ショートステイ(短期宿泊)、ホームヘルパー(家事や介護を支援してくれる人)、訪問入浴サービスなどがあります。
 要介護や要支援に認定されると、こうしたサービスが1割の自己負担で利用でき、重度の要介護ほど利用限度額は大きくなります。限度額を超えてしまうと、超過した金額は全額自己負担となります。
 ちなみに介護保険で在宅サービスを利用する場合に適用される限度額は、最も高い要介護5で約36万円、自己負担は約3万6千円です。
 さまざまな介護保険サービスを使うことで介護する側の負担を減らすことができますが、どんなサービスを利用するかは、ケアマネージャーと家族が話し合ってプランを作成します。ケアマネージャーはデイサービスや地域包括支援センターで紹介してくれます。
(2011年6月号掲載)

介護サービスは誰のため

 かつては、介護は嫁がするもの、と当然のように思われていましたが、現在は夫や兄弟が協力して負担を分担する家庭が増えてきました。それでも中心となる介護者は嫁や妻が多いのも事実です。介護者の年齢は50代以上が多く、更年期障害などを抱えている人も少なくありません。徘徊や排便などで夜中に何度も起こされ、頭痛やめまいに悩まされ、ついには入院といった話もよく聞きます。
 在宅介護者の負担を軽くしてくれるのが、デイサービスとショートステイというサービスです。デイサービスは要介護者である認知症患者などに、リハビリや娯楽、入浴、食事などのサービスを提供してくれるものですが、同時に介護者を一時的に解放させるためのサービスでもあります。ショートステイは要介護者に数日間、施設に滞在させ、より長く介護者を解放するサービスです。
 そのほかに、掃除や洗濯、通院などを代行してくれるヘルパーも利用できます。ヘルパーが来てくれる間は介護から解放されますので、趣味や買物などに時間を費やすことができます。
 これらのサービスを利用することに、後ろめたさを感じる人もいますが、体調不良となり介護できなくなれば主客転倒(しゅかくてんとう)と言わざるを得ません。サービスを利用することは介護を続けるためだと考えましょう。
(2011年7月号掲載)

介護者の会

 認知症の親を介護することになれば、食事や入浴、薬、下着、オムツ、排便と、いろいろな問題に直面します。その結果、介護者のストレスは溜まるいっぽうです。真面目な人ほど精神的に追い詰められ、メンタル系の病に見舞われることもあります。
 いくらストレス解消とばかりに遊びに出かけても、家に帰ればまたイライラ。特に男性介護者は何でも自分で抱え込み、他人に相談できない人が多いようです。
 そんなストレスいっぱいの介護者でも、唯一心を開ける場があります。それは、同じ悩みを持つ人が集う「介護者の会」です。他の会員も自分と同じような経験をし、悩みを抱えていることがわかると、それだけで救われる思いがします。介護者として仲間意識が芽生え、やがてアドバイスをしたり、受けたりするようになります。
 そこでは皆が介護の辛さを知っていますので、親は大切にしましょう、といった表面的な言い方はしません。自分はこうしているよ、といったできるだけ具体的なアドバイスをしてくれるはずです。
 「介護者の会」には、男性だけの「オヤジの会」などもあり、介護に悩んだらぜひ一度、足を運んでほしいところです。全国の役所や社会福祉協議会などで紹介してくれます。
(2011年8月号掲載)

家族親戚みんなで介護を

 親を介護するのは長男、そして、実際に介護するのは長男の嫁――という習慣は今でも日本の社会に根強く残っています。このため、「嫁だから仕方がない」とか「これも何かの縁」などと、一人で介護を担う人も少なくありません。
 夫は仕事があるため手伝わず、親戚からの協力も得られず、たった一人で介護に明け暮れる方が数多くいらっしゃるのです。その結果、生活を楽しむこともなく、ひたすら介護を続け、病気になる人もいます。心ない人の中には、「そこまでやらなくてもいいのに」という人も。
 では、どうすればよいのでしょうか。それは、思い切って”いい嫁“をやめることです。夫や義姉たちに、できるだけ手伝ってほしいと言って、役割を分担すれば、随分と気持ちは楽になるでしょう。直接介護はしなくても、炊事、洗濯、掃除、買物など、手伝えることはたくさんあります。今は介護保険制度によってヘルパーも低料金で活用できますので、一人で抱え込まないように制度も積極的に活用しましょう。
 私の知り合いの婦人(姑)は、「嫁が同居してくれただけでも感謝、感謝」と言って、自分の夫の介護を嫁にはさせませんでした。この際、気持ちを切り替えて、同居しているだけで嫁としては十分なのだと、ご自分に言い聞かせてみませんか。
(2011年10月号掲載)

デイサービスの選び方

 在宅介護者の多くが利用しているデイサービスは、日本列島の隅々まで行き渡り、今や最もポピュラーな介護サービスとなっています。では、デイサービスならどの施設を選んでもよいかというと、必ずしもそうではありません。デイサービスを運営する事業者によって、考え方やサービス内容が全く違うからです。ケアの基本は同じでも、送迎、レクリエーション、食事など、それぞれ異なります。
 私の亡くなった父は、生前にデイサービスを利用していましたが、肺機能が衰えたことから、食事をするとき、むせてしまうことが多くなると、「周りの人が嫌がるので、もう来ないでほしい」と、丁重に拒絶されました。どうやらそこは、健康で手間のかからない高齢者しか受け入れたくないようで、重度(要介護度4以上)の方はほとんどいません。仕方なく、別のデイサービスに相談すると、「大声を出したり、暴れたりする方は受け入れないことがある」と言われましたが、むせることに関してはそれほど問題ではないと言われました。
 現在、母が利用している小規模多機能型デイサービスでは、大声をあげる人や周囲と揉めごとばかり起こす人など、手間のかかる利用者が多くいます。どのデイサービスを選ぶかは、やはり事業者とよく話をし、見学してみることが大切だと思います。
(2011年11月号掲載)

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