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COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

ヤマビルってどんな生きもの?

一般財団法人 環境文化創造研究所 主席研究員 谷重和

なぜ、ヤマビルの吸血被害が増えているのか

 その昔、ヤマビルは奥山でシカなどを吸血して、ほそぼそと生きていました。しかし現在では、全国的に増加したニホンジカやイノシシなどを吸血源として、ヤマビルも増えています。
 山間地域の過疎化が進み、これらの野生動物が里山や人家周辺にまで現れるようになったことで、ヤマビルも動物に付着して移動・拡散していったのです。また、奥山や里山の荒廃とともに耕作放棄地も拡大し、草刈りや落葉掻(か)きなどの環境整備がおろそかになり、日の当たらないジメジメとした環境に変わってしまったことも、ヤマビルが定着・繁殖しやすくなった理由のひとつです。
 最近は冬の降雪期間も短くなり、積雪量も少なくなって、冬季のニホンジカやイノシシなどの死亡率が低下しています。また、過去に長く続いたメスジカ猟の規制、狩猟者の減少などの影響により、中~大型哺乳動物は急激に増加しています。その結果として、農作物への被害も多くなりました。環境省によると、2011年のニホンジカの農作物への被害は83億円にもなり、木の樹皮がかじられて樹木が枯れたり下草が食べ尽くされて、雨が降ると土壌が流失する現象が全国で生じています。尾瀬国立公園ではミズバショウや高山植物が食い荒らされ、生態系への影響が危惧されています。
(2018年8月号掲載)

ヤマビルってどんな生きもの?

 ヤマビルはミミズと同じ環形動物です。赤褐色~茶褐色をし、大きさは3~4cm、伸びると5~7cmにもなります。背中に3本の黒い線が縦に走っています。陸生(りくせい)※ で、特に山地の杉林などに多く生息しており、強い吸血能力を持った生きものです。
 5月には活動を始め、特に6月の梅雨時にはよく吸血します。とはいえ秋の行楽シーズンも油断できず、注意が必要です。体の前端(前吸盤)と後端(後吸盤)に吸盤があり、後吸盤で体を支えながら尺取虫のように歩きます。ヤマビルは乾燥には弱く、暗くて湿気の多いジメジメとした場所を好みます。枯葉の裏や枯木・石の下などでじっとしていますが、動物が近づくと彼らの体温や呼気に含まれる炭酸ガス、歩いてくる振動などを検知して、1分間に1mという、かなり速いスピードで動物に近づき吸血します。吸血するときは前吸盤の中にある顎歯(がくし)と呼ばれる小さな歯で動物の皮膚を切り裂き、吸血します(吸血量は、約1cc)。
 たっぷりと吸血したヤマビルは動物から離れて、地面に落ち、そのまま1か月ほど経過すると卵塊を産みます。卵塊の中には5~10個の卵が入っています。さらに、1か月後には卵塊の中から、仔ビルが生まれてきます。仔ビルは、吸血するごとに脱皮して大きくなります。寿命は3~4年といわれています。
(2018年9月号掲載)

※ 陸上で生息すること

ヤマビルに吸血されたら

 ヤマビルに吸血されていても、痛みやかゆみ、腫れることもほとんどないために、すぐに気づくことは、あまりありません。靴下や下着などに血がついて汚れたり、足首や首筋に血が流れているのを見て初めて気づく場合が多いようです。特に足から吸血されることが多く、それも靴下の中に入り込んでしまっているので注意が必要です。
 身体に付着したり、吸血しているヤマビルを見つけたときには、塩をかけたり親指の爪先でヤマビルの吸盤をはがすなどして、ヒルを取り除きましょう。吸盤の吸着力が強いので、注意してください。マダニに吸血されたときにはマダニの一部(口下片(こうかへん)といいます)が折れて体に残る場合がありますが、ヤマビルではそのようなことはなく、ヒルを引っ張って取り除いても大丈夫です。
 吸血されたときには、しばらく血が止まりません。ヤマビルは吸血するときに、痛みを少なくしたり血液を凝固させないようにするヒルジンという物質を出しますので、傷口からヒルを取り除いた後は、傷口を指でつまんでヒルジンを絞り出してから、傷口を水や消毒用エタノールで洗うと治りが早くなります。抗ヒスタミン剤の軟膏を塗って、かゆみを抑えて、絆創膏(ばんそうこう)を貼って血が流れ出るのを止めることが大切です。
 しっかりとヤマビル対策をして、秋の山々を楽しんでください。
(2018年10月号掲載)

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