Kanbunken 環境文化創造研究所

COLUMN

- コラム

弊所発行の「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。

安富和男先生の面白むし話(21)

日本衛生動物学会・日本昆虫学会 名誉会員 安富和男

労働をしない昆虫たちの暮らし

 労働をしない昆虫の代表はミツバチのオスでしょう。巣の掃除、巣づくり、幼虫の哺育、門衛、蜜集めなどの仕事に携わる働きバチは中性化したメスであり、オスはまったく働きません。オスにとってのただひとつの仕事は新女王に精子を与えることだけで、餌の蜜まで食べさせてもらう不精者です。
 体調2mmたらずのノミバエは後脚の腿節(たいせつ)で跳ぶ習性を持ち、コバエと俗称されるハエの一員です。ミツバチとは逆にメスの方が怠け者であり、土中に造られたオオズアカアリの巣で居候暮らしをします。翅(はね)を持たないメスは、移動するときに交尾したまま有翅(ゆうし)のオスにぶら下がって新しいアリの巣に運ばれます。オスは小まめに動きまわり、アズマオオズアカアリが地面に付けた道しるべフェロモンの匂いを嗅ぎとってカイロモンという情報化学物質に利用し、新しい巣を発見するのです。
 青森県南八甲田山中、標高480mの蔦(つた)温泉付近で1926年の夏、故・古川晴男博士によって珍しい甲虫ハナバチヤドリキスイが発見されました。体長約5mmの成虫は雌雄ともセリ科植物エゾニュウの花に化けて潜み、訪花して蜜を吸っているマルハナバチの脚や触角に取り付き、ヒッチハイクで巣に運ばれ、蜜や花粉を食べて性的に成熟し、卵を産んで生息圏を拡げる要領のよい虫です。
(2013年5月号掲載)

カメムシの臭気成分

 悪臭を出すカメムシは不快害虫として嫌われていますが、この臭気はカメムシにとって敵からの「防御」、仲間に危険を知らせる「警報フェロモン」、仲間を呼び集める「集合フェロモン」の三役を果たす大切なものです。臭(にお)い物質の主成分はヘキサナールなどの揮発性アルデヒド類であり、体内にある臭腺で作られ、幼虫では背中、成虫では中脚の根もとから放出されます。防御や警報に使うときには臭いの濃度が高く、低濃度では集合フェロモンとして働くという使い分けをカメムシは巧妙に演じています。芸の細かい昆虫といえましょう。
 不思議なことにカメムシそっくりの匂いを発する植物があります。
 それはセリ科のコリアンダーです。命名者は分類学の祖といわれるリンネであり、この名前はギリシャ語のコリアス(カメムシ)に由来し、匂いの化学構造がカメムシ臭に酷似しています。タイなどではパクチーと呼ばれ、料理の必需品です。
 筆者はかつて国際協力事業団※ からタイに派遣され、蚊の有機燐(リン)剤抵抗性検査法を指導したことがあります。現地で活躍中の長谷川恩(めぐみ)博士のお力添えで任務を果たせましたが、御馳走になった料理のパクチーが絶妙なアクセント役をつとめていたのを思い出します。
(2013年5月号掲載)

※ 現在の国際協力機構(JICA)

都市のサクラを好むアメリカシロヒトリ

 花見の頃になると、樹皮の隙間でアメリカシロヒトリの蛹(さなぎ)が羽化を待っています。葉桜の季節には第1世代の蛾が交尾・産卵して第2世代のケムシが現れ、蛹で冬を越す生活環です。終戦直後の昭和20年11月、東京大森・森ヶ崎にあったアメリカの荷物置場に蛹が潜んでいたのが日本に侵入した始まりといわれています。
 大正時代に日本のマメコガネ(コガネムシ科の甲虫)がユリの根に付いてアメリカに持ち込まれ大害虫となってジャパニーズ・ビートルと呼ばれた経緯(いきさつ)があり、そのお返しでアメリカから渡来した白いヒトリガ(火取蛾)と命名され、これが和名「アメリカシロヒトリ」の由来です。
 アメリカシロヒトリの幼虫は「刺しそうで刺さないケムシ」であり、密生している長い毛は見かけ倒しにすぎず、自分の体を保護するためです。毒針毛を持たないので皮膚炎を起こすことはありません。
 アメリカシロヒトリの幼虫は広食性ですが、特にサクラを好み、街路樹、公園、庭のサクラの葉が食べつくされて、夏なのに冬景色のようになる異変さえ起こります。分布域は東京から北九州方面の大都市部に広がって「都市害虫」になりました。山地に侵入していない理由は鳥などの天敵が多く、鬱蒼とした「森林環境」を嫌う習性によると考えられています。
(2014年4月号掲載)

蝶と蛾の違い

 松尾芭蕉の句に「入りかかる 日に蝶々の 急ぐなり」があります。蝶は眠り、蛾の世界が訪れます。しかし、内藤丈草(じょうそう)は「大原や 蝶の出て舞う 朧月(おぼろつき)」と詠みました。朧月夜に舞う蝶とはどんなものかと疑問がわいてきます。そこで、蝶と蛾の違いや区別点を考えてみましょう。
 「蝶は昼間に、蛾は夜に活動する」。常識のようですが、イカリモンガやベニモンマダラなどの蛾は昼間飛びまわって訪花・吸蜜します。次に、蝶は翅をたたんでとまり、蛾は翅を開いてとまるといわれますが、オオムラサキやスミナガシなどのタテハ類は翅を開いて吸汁したり縄張りを守ることが多く、蝶と蛾の決定的な違いにはなりません。蛾は胴(胸と腹)が太く、蝶はほっそりしているといわれます。たしかにスズメガ類などの胴は太さが目立ちます。しかし、シャクガ(尺取虫の成虫)などは胴が細く、それも区別の決め手にはならないでしょう。
 蝶と蛾を見分ける最も重要な特徴は、触角の形です。蝶の触角は先がふくらんだ棍棒(こんぼう)状であるのに対して蛾の触角は先端の細い糸状、あるいは櫛歯(くしば)状です。
 日本語では蝶と蛾、英語ではバタフライとモスに区別していますが、むしろ同じ鱗翅類の仲間と考えた方が良いと思われます。デンマークやフランスなどでは、蝶と蛾を特に区別していません。
(2014年4月号掲載)

温暖化によるヒトスジシマカの分布拡大

 ヒトスジシマカは、黒い体に白い縞(しま)のある代表的なヤブカで、体長約4.5mm、翅の長さは約3mm、胸部背面に1本の白い縦条(たてすじ)を持つのが和名の由来です。幼虫(ボウフラ)は、市街地や里山の用水桶、手洗鉢、空瓶、空缶、詰まった樋(とい)、竹の切株や墓の水で育ちます。
 「ぼうふらの 念仏おどりや 墓の水」
 小林一茶は墓のあか水入れ※ で、くねくねダンスのように泳ぐヒトスジシマカのボウフラを「念仏おどり」と表現しました。
 ボウフラの食べものは水中の微生物やコケの破片などであり、7日たつと蛹(オニボウフラ)になり、さらに2日後に羽化を迎えます。メス成虫の吸血活動は昼間や夕方です。ヒトスジシマカは、熱帯・亜熱帯圏のネッタイシマカとともに、デング熱のウイルスを媒介します。日本でも媒介蚊の分布拡大とデング熱に注意するように警告されている現状です。
 ヒトスジシマカの分布拡大は世界的な規模になっており、日本での分布北限はかつての北関東から1990年代には仙台市付近、2000年代には東北地方北部まで北上しました。温暖化が進むと津軽海峡を越えて札幌や室蘭までも生息地域になると指摘されています。
 水温(ぬる)む5月は、越冬卵からふ化したヒトスジシマカのボウフラが「念仏おどり」を始める季節です。発生源を除去するなどの対策に努めましょう。
(2014年5月号掲載)

※ 仏前に供える水を入れる器

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