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COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

異物混入問題を考える

公益社団法人 日本食品衛生協会 技術参与 佐藤邦裕

異物ってどんなもの??

 最近、テレビや新聞で目にすることの多い異物混入問題ですが、異物とはそもそもどのようなものをいうのでしょうか。報道された事件では、ゴキブリやハエなどの昆虫類、縫い針や針金などの危険異物などが問題になっています。食品衛生法では、人の健康を損なうおそれのあるものを混入または添加した商品を製造・販売することを禁じています※ 。流通業界がまとめた調査結果では、異物混入苦情受付件数では、毛髪(人毛や獣毛)類が第1位となっています。
 ところで、毛髪は「人の健康を損なうおそれのあるもの」に該当するのでしょうか。誤食することで具合の悪くなる人はいるかもしれませんが、ほとんどは精神的なものであり、人それぞれ反応はさまざまでしょう。ゴボウやニンジンなどの基部(きぶ)の木化(もくか)した部分は、消費者にとっては異物ですが、製造者や販売者としては原材料の一部と考えたくなります。このように、製造者や販売者が考える異物と、消費者が考える異物の間には認識の違いがあるようです。そしてこのことが、苦情を訴えている消費者に対しての不適切な対応の原因になっていると思われます。
 法律上の定義や考え方がどうであれ、消費者が苦情として申告してきたものは「異物」として捉え、早急に再発防止対策を考えていくことが大切です。
(2017年9月号掲載)

※ 食品衛生法第2章 食品及び添加物第6条4項:不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの

苦情の現状と課題

 異物混入苦情の集計には、保健所や消費生活センターに寄せられたものを集計した公的なもののほかに、個々の製造者や流通販売者がまとめた民間のものがあります。混入事件や事故の際に引用されるのは行政がまとめた公的な集計がほとんどで、民間が自主的にまとめた集計が公開されることはありません。
 公的な集計では、ハエやゴキブリなどの衛生害虫や金属、たばこなど重篤な危害につながる異物の件数が多数を占めています。一方、流通や製造業者が自主的にまとめた集計では、ゴキブリやハエ、金属やたばこはごくわずかで、原料の一部などの苦情件数が多くなっています。
 では私たちは、どちらを信じればよいのでしょうか。片方が正解で、片方が誤りなのでしょうか。結論からいうと、「どちらも正解」です。公的なデータは保健所や消費生活センターに寄せられた苦情をもとに集計していますが、民間のデータは直接消費者から寄せられた苦情を集計しています。この結果の違いは、消費者がインパクトや危害度の高い異物を見つけた場合には、販売店や製造者よりも保健所などの公的機関に持ち込むことが多いことを表わしています。
 異物混入苦情を減らすためには、重篤危害につながる異物だけでなく、原材料の一部など幅広いものを対象に考えていく必要があります。
(2017年10月号掲載)

本当の怖さとは

 商品に不満を感じた消費者は、苦情を言う人と言わない人に分かれます。苦情処理と再購入率について調査した「グッドマンの法則※ 」によると、苦情を申し出た結果、相手側の対応に満足出来れば8割以上の人がその商品を再購入しますが、相手の対応に不満を感じた場合には再購入率はほとんどゼロです。では、苦情を申し出なかった消費者は、その商品の不備を許してくれているのでしょうか。結果はまったく逆で、再購入してくれる消費者は1割程度です。ところで皆さんは、異物が混入した商品に気がついたとき、どのくらい苦情を申し出ていますか。異物の種類や発見時の状況にもよりますが、申し出の頻度そのものはそう高くはありません。製造者や販売者の記録から、こうした傾向は特に年配の男性に顕著です。しかしたとえ苦情を申し出なくても、次回からは他社製品を購入している人がほとんどではないでしょうか。
 作り手や売り手が気づかないまま、売り上げだけがどんどん減っていく。異物混入の本当の怖さが実はここにあるのですが、このことに気づいている企業はまだまだ少数派です。異物が混入した商品を手にして苦情を申し立てている消費者1人の陰に、同じ思いをしながら苦情を言わない消費者は何人いるのでしょう。サイレントマジョリテイの怖さを、真剣に考えたいものです。
(2017年12月号掲載)

※ 米国のジョン・グッドマン氏が1975年から79年、82年に調査した理論を
白鴎大学教授の佐藤知恭氏が「グッドマンの理論」としてまとめ、日本に紹介した

一般的な苦情対応の流れ

 製造者や販売店に混入苦情現品が届けられると、最初に異物の鑑定や同定を行います。混入した異物の氏素性を調べるこの作業は、誤飲や誤食した場合の危害性を確認するために必要不可欠な最優先事項です。
 異物の正体が明らかになったところで一旦報告書にまとめ、被害者や販売店を訪問し、異物や混入経路の推測、今後の改善策などについての説明と謝罪が行われます。謝罪した結果、被害者や販売店が納得したらそれで終了し、一件落着となる場合がほとんどですが、はたしてそれでよいのでしょうか。ことはそれほど簡単ではありません。
 報告した混入経路には、本当に間違いがないでしょうか。二度と同様の事故を起こさないためには、どのような改善や対策が必要でしょうか。これらの調査や検証が行われないままでは、混入事故リスクはそのまま残り、事故を繰り返してしまいます。
 被害者への説明や謝罪は異物混入対策ではなく、ごく当たり前の顧客対応にすぎません。では、本当に必要な対策は何でしょう。もうお分かりですね、再発防止対策です。混入経路の探索が正確なほど再発防止対策の精度は高まりますが、この部分が疎かになると対策が総花的(そうばなてき)※ になりがちです。いつも、「以後、気をつけます」を繰り返すばかりでは、何も解決しないのです。
(2018年2月号掲載)

※ 要点をしぼらずに関連項目を並べただけで、どれも的確に扱えていない様子

「商品回収」は異物対策?

 最近、異物混入が原因で商品が回収される事故の報道を多く目にします。消費者の方もなんとなく、それで納得しているようです。しかしよく考えてみると、これはおかしな現象ではないでしょうか。そもそも商品回収というのは、「もし回収せずに放置した場合には、ある理由により同様の混入事故が高確率で起きてしまうことが予測される場合」の対応です。しかし報道される混入事故のほとんどは、単発の事故です。
 当該企業からいったん回収の方針が出されると、それまでの報道攻勢が嘘のようになくなってしまいます。あとは時間の経過とともに忘れ去られるだけです。異物が混入した原因の究明にはある程度の時間が必要ですが、その間にも混入事故情報がネットなどを介して拡散し、風評被害や企業イメージの悪化につながります。商品回収には多額の費用が必要ですが、それにもかかわらず、大企業が原因究明よりも商品回収を優先してしまう根本原因がここにあります。
 混入事故を起こした企業が同様の事故を防止するために現在はどのような対策を取っているのか、その結果として混入リスクの軽減に成功したのかどうかという、本当に重要な情報が報道されることは、ほとんどありません。商品を回収するだけでは真の混入対策にならないことを、改めて考えてみるべきです。
(2018年3月号掲載)

本来の異物混入対策とは

 異物混入事故を起こさないためには、どうすればよいのでしょうか。製造現場では、防虫機器や金属排除装置の設置、ヘアネット(ヘアキャップ)の装着など、さまざまな対策が実施されています。しかし、どのような対策が取られようとも、その根本にあるのは整理や整頓、清掃、清潔、しつけ(習慣づけ)を基礎とした職場ルールの日常的な管理運用です。それぞれの頭文字から、一般的に「5S」と呼ばれています。
 食に関わる人たちの間では常識となっている「5S」ですが、効果的かつ有効的に実践している企業は、わずかだと言わざるを得ません。たとえば皆さんは、机の引き出しに入っている筆記具の数と色をすぐに答えられますか。もし答えられなければ、一本無くなっても気がつきません。整理や整頓の意味とはそういうことですが、これだけでも製造現場全体で習慣になるまで実践していくのは大変なことです。
 製造現場のルールは、それを守らなければならない人が実態に合わせて決めるのが理想ですが、実際には特定の管理部署が机上で決めている場合がほとんどです。こうしたやり方では、ルールを作ることが目的になってしまいます。人は、自分で作ったルールは守るものです。まずはすぐに実践できる基本のルールを習慣化し、徐々にステップアップしていくことが大切です。「5Sの実践」が、異物混入対策のツボなのです。
(2018年5月号掲載)

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