イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

子どもたちへの環境教育

NPO法人 自然文化誌研究会 / 植物と人々の博物館 研究員(執筆当時) 木俣美樹男

冒険の日々

 私が小学校5年生の頃には、創刊されたばかりの『少年サンデー』、『少年マガジン』、『冒険王』を読みふけっていました。さらに長ずると、『海底二万哩(マイル)』や『十五少年漂流記』などの冒険小説や地底探検などのノンフィクションへと、読書傾向は拡大していきました。幼少の頃は、病弱で泣き虫であったにもかかわらず、冒険と探検に憧れ、八事(やごと)(名古屋)の雑木林や山崎川を探索しているうちに健康になり、学校もまったく休むことがなくなりました。その後、大人になってからは職業として探検する民族植物学者になりました。
 冒険や探検は厳しい活動を伴い、耐え難い緊張感があります。しかし、そこにはまさに生きている充実感があるので、達成感にもつながるのです。このような体験を、環境学習として子どもたちに伝えたくて、子どものための冒険学校を秩父多摩甲斐(ちちぶたまかい)国立公園周辺の山村で始めました。すべての責任をとると啖呵(たんか)を切れたのは、大学探検部の学生たちの支えがあったからです。親を寄せつけずに真っ暗闇な洞窟でちょっとだけ食に飢える野宿、川での飛込みといった自然体験、あるいは本物の炭焼き、紙漉(す)きなどといった文化体験をしました。子どもたちは日がな一日、昼寝をしてもよいという選択自由な冒険活動によって、今までとは違う隠れていた自分を、キャンプ集団の中に見つけ出すのです。
(2014年9月号掲載)

農学校の今日

 農作業は、面白いものです。輪中(わじゅう)※1 稲作農家出身の祖父からの隔世遺伝か、私は子どもの頃から植物を育てることが好きでした。高校では園芸部長もしました。大学に就職してからは約2ha※2 の彩色園(農園)の経営を任されましたし、講義や実習で播種(はしゅ)から収穫、加工から調理まで、季節と郷土の伝統食づくりを学生たちと実践しました。
 子どもたち向けには「ぬくい少年少女農学校」を開催し、1年間を通じて、自分たちが農園で栽培した野菜などを料理して昼食を作りました。稲作もしたので、餅つきやわら細工もしました。数年して、この活動は学生たちのサークル「ちえのわ農学校」として定着しました。
 田植え前の代掻(しろか)き※3 は、泥んこ遊びです。若い親たちは、自分たちが子どもの頃にはしなかった体験を羨(うらや)ましそうに遠巻きにして見ています。彩色園には、「森の幼稚園クスクス」の乳幼児10人ほども群れています。自然農法とやらで、まれにトマトは少しなりますが、ほとんど育たない不思議なトウモロコシを育てています。失敗することが面白いのです。冬には、可愛いクリスマス飾りを大きな木につけたり、学生たちが作った雪のかまくらに入ったり、いたずらに駆け回っています。
 彩色園を訪れる人々は、子どもたちからシニアの方々まで、いつも誰もが幸せそうな満面の笑みです。
(2014年10月号掲載)

※1 岐阜県の長良川、木曽川、揖斐川の下流平野において堤防に囲まれた地域社会
※2 ヘクタール。1ha=10,000平方m
※3 水田に水を引き入れて、土塊を砕く作業

彩色園の生物文化多様性

 「彩色園」(東京学芸大学内の農園)が農業高校の教員養成を求められていたころは、生産を高める農業技術を中心に講義や実習を行っていました。環境に関わる職業人養成に目標を変えてからは、人々と自然との基層的関係であるたねから胃袋までの農耕文化基本複合を主な柱として、生物文化多様性の保全に中心を移した講義や実習をするようになりました。大学生たちの幼少期の暮らしには、自然体験が年毎に減少していると直感したからです。
 しかし当人たちは自分の時代は十分に自然体験があったが、その後の世代は少ないから可哀そうだと、決まって言うのです。多くの学生たちは自分を中心に考えて過去と比較せず、未来にも思いを馳せないので、どうしても自分はよいが、他人は気の毒だと考えるようです。
 自ら植物のたねを播いて、栽培し、料理して共に食べるという体験が、学生たちの仲間意識を強めます。子どもたちが素足で走り回れるように、木になっている実を採ったままでかじれるように、彩色園では30年間以上にわたって、実験区以外には除草剤などの農薬を与えませんでした。その結果、ギンヤンマ、イナゴ、アマガエル、アオダイショウ、カナヘビ、カルガモ、タヌキなど数多くの野生生物種も生息するようになり、生物多様性は再生して豊かに維持されています。
(2014年12月号掲載)

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