イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

沖縄のいきもの事情(6)

特定非営利活動法人バイオメディカルサイエンス研究会 常任理事 前川秀彰

オオシママドボタル

 季節は秋だったと思いますが、西表島(いりおもてじま)へ行った時に、暗くなると道路ぎわの草の中に光るものを見て驚きました。ホタルかと思いましたが、動きがありません。飛ばないのです。懐中電灯で照らして見ましたが、グロテスクな細長い多節の虫がうごめいているだけでした。
 あとで聞きましたが、これが陸生ホタルのオオシママドボタルの幼虫だったのです。採集して、たしかにこの幼虫が光っていることを確認しました。しげしげと見ると、最初に思ったほどグロテスクではなく、愛嬌がある形をしています。沖縄でホタルといえば、幼虫が陸生であるホタルを指します。餌はマイマイ(カタツムリ)だそうで、肉食です。水生でも陸生でも、餌は、軟体動物なのですね。ちなみに、水生ホタルの幼虫の餌は主にカワニナです。
 結局、オオシママドボタルの成虫を見ることはできませんでしたが、名前の「マドボタル」の由来は、目と頭部を覆うように透明な部分があり、それが窓のように見えるからだそうです。オスの成虫は、蛹から脱皮すると、完全変態した羽のある普通の甲虫です。しかし、メスは蛹のあと脱皮しても、羽が痕跡程度で飛べません。体は大きく、卵を持っています。西表島、石垣島、竹富島、黒島に分布しています。オキナワマドボタルは、本島に生息する別種です。
(2020年4月号掲載)

沖縄アリ事情

 ツヤオオズアリという、小さなアフリカ原産のアリがいます。私のラボにいた川西祐一博士が研究をされていましたが、その後、研究は中断しています。
 アフリカ大陸のそばのマダガスカル島東側の太平洋上にあるレユニオン島にも、同じ種がいることがわかっています。同じ種であれば、遺伝子の配列の差から進化の違いを見つけることができます。しかし、それほど時間が経過していない場合は、区別が難しくなります。アフリカのふたつの場所から採集されたアリの違いを見つけるのに、「動く遺伝子」のマリナー様配列※ を比較してみました。結果は、南西諸島の個体はアフリカ大陸ではなく、レユニオン島の個体の配列と同じグループに分かれました。
 ここから、想像の世界に入ってみましょう。東インド会社がインドに設立され、海のシルクロードを通して世界の貿易が活発に行われていた大航海時代。フランスの軍艦が、フランス領のレユニオン島を中継地として中国や台湾を経て、日本を含むアジアへ偵察に向かっていました。その当時の日本は鎖国真っ盛りです。フランス以外の国の艦船も本島へは行けませんので、那覇などで情報収集をしていました。フランスの艦船に乗船したアリさんは、気候的にマッチした南西諸島に降り立ち、なんとか生活を始めました。その数百年後が、現在です。
(2020年5月号掲載)

※ 親から子へ伝わるゲノムの情報とは別に、外から生殖系列に挿入された配列の総称が
「動く遺伝子」(転移因子ともいう)であり、そのなかでもマリナー様配列が大きなグループを構成している

沖縄のバッタ事情

 昨年の12月か今年(2020年)の1月だったと思うのですが、トノサマバッタのような大きなバッタを、神奈川県にある自宅マンション(6階)のベランダのプランター近くで発見しました。その後どこかに行ってしまったと思い忘れていたのですが、3月になってプランターに水をやっていると、そのバッタが現れました。バッタは成虫で越冬はしないはずですが、今冬は暖かかったので冬を越したのかと調べてみたところ、垂れ目に見える模様から、ツチイナゴであることがわかりました。この大型バッタは、日本では唯一成虫で越冬する種類でした。4月に入ってもまだ我が家のベランダのプランターにいました。
 ツチイナゴは沖縄にもいるはずですが、お目にかかったことはありません。似た種でタイワンツチイナゴも生息しているようですが(メスは8cmにもなる)、これも実際に見たことはありません。沖縄は冬も暖かいので、ツチイナゴも成虫で越冬し元気に生活していると思われます。
 大きさは、「タイワン」とつくと大型が多いようです。クツワムシは体長約5cmで、南西諸島には生息していませんが、タイワンクツワムシは沖縄に生息していて、これは約7cmと大型です。クツワムシはガチャガチャと鳴きますが、タイワンクツワムシはギー、ギー、ギュルルルルルと大きな音で鳴くのですぐにわかります。
(2020年10月号掲載)

クチナシ事情

 クチナシの葉を食べるのは、オオスカシバの幼虫です。分布は本州以南で、近縁種にリュウキュウオオスカシバ(四国・九州・南西諸島に分布)がいます。オオスカシバの翅(はね)は透明で、飛ぶときに羽音が大きいので蜂が飛んで来たのかと思って身を引いてしまいます。羽化後、鱗粉は羽を震わせて落とし、飛び立つときには透明になっているようです。スキバホウジャクは、鱗粉がある程度残っている種です。ホウジャクは鱗粉が落ちない種です。2種とも、南西諸島に生息しています。
 クチナシの実に潜り込んで中身を食べるのは、イワカワシジミの幼虫です。イワカワシジミの生息域は奄美大島以南の南西諸島だそうですが、幼虫にはまだお目にかかっていません。穴が空いている実を見つけたことがあるのですが、幼虫はいませんでした。インターネットで検索するとイシカワシジミの名前で出てくる記事がありますが、おそらくイワカワの間違いだと思います。私も最初は、イシカワだと思っていました。
 本土のクチナシはほとんど園芸品種で、花びらが8重になっています。沖縄のものは、原種だと思われます。花弁が細く6枚しかないので(六方手裏剣に似ている)、一見したところではクチナシとはわかりませんでした。林で咲いている姿は園芸品種に比べ清楚な趣で、景色に溶け込んでいます。
(2020年11月号掲載)

沖縄のクワコ(桑蚕)事情

 クワコはカイコの野生型で、中国、台湾、朝鮮半島、日本列島およびロシア極東部に生息します。カイコの起源は、中国で約6000年前に養蚕(ようさん)が始まった記録があることから、この時代にカイコがクワコから家畜化されたと考えられています。中国の論文では、ゲノムの解析から、複数の地域で同時多発的に創出された可能性が高いと報告されています。
 沖縄ではクワコの生存は確認されていません。もともと北方系のクワコは、気候的に湿潤亜熱帯の環境では生存が困難だと考えられています。台湾の低地は亜熱帯の気候なので沖縄と変わりませんが、標高1000mm以上の高地があるため、クワコはそこに生息しています。沖縄の最高峰は石垣島の於茂登岳(おもとだけ)で526m、本島では与那覇岳(よなはだけ)の503mで、台湾のような温帯域がないため、クワコの生息は困難と考えられます。
 日本のクワコは染色体数27本で、中国の28本※ と異なります。朝鮮半島のクワコは27本と28本の系統が混在しており、両種から構成される55本の雑種個体も生息しています。日本クワコの大きなM染色体は、中国クワコの2本の染色体の融合でできたと考えられています。これらの中から27本の系統が日本に移動したか、日本独自の27本の系統が朝鮮半島に移動したかのどちらかと推測されます。台湾は28本なので、中国のクワコの系統から派生したと思われます。
(2020年12月号掲載)

参考文献: カイコはどこから来たのか?クワコとの関係解明を目指したマリナー様転移因子からのアプローチ.
川西ら,化学と生物 48.( 2) 85―87, 2010.
※ カイコも28本

沖縄の蝶類の食草事情

 インドから東南アジアの熱帯域に生息するベニモンアゲハや、日本、台湾、中国東部、朝鮮半島、ロシア沿海地方を含む東アジアに生息するジャコウアゲハは、有毒※1 植物のウマノスズクサ※2 類を食草としています。
 沖縄に生息する蝶類は、ウマノスズクサ(本州以南)、リュウキュウウマノスズクサ(奄美以南・八重山列島)、コウシュンウマノスズクサ(宮古島)を食しています。ジャコウアゲハは、山林の林縁部に生えるオオバウマノスズクサも食します。ほかのアゲハ類が柑橘類、山椒、カキツバタなどを食すのとは大きく異なります。ベニモンアゲハは、1968年ごろから八重山諸島に土着を始め、現在では沖縄本島から奄美諸島まで分布を広げています。
 本土にも、ウマノスズクサを食する蝶がいます。東アジア一帯、ロシア沿海州、中国、朝鮮半島に生息するホソオチョウです。1970年代以降、日本各地に局地的に発生している外来種です。同じ食草のベニモンアゲハも、温暖化に伴い北上しています。ジャコウアゲハは、沖縄へ南下していましたが、南からはベニモンアゲハにより、北からはホソオチョウにより食草を邪魔され、山林へ追い立てられているように見え、踏んだり蹴ったりという状況のようです。毒蝶同士で食べ物を介して勢力争いが起こり、新たな棲み分けが進むのも面白いですね。

※1 腎毒性のあるフェナントレン骨格を持つ芳香族カルボン酸のアリストロキア酸
※2 ウマノスズクサ(馬の鈴草)の名の由来には「葉が馬の顔の形に、
花の丸い部分が馬の首に掛ける鈴に似ていることから命名された」など諸説ある

  • 全て
  • 感染症
  • 健康
  • いきもの
  • 食品
  • 暮らし