イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

ネズミ豆知識(1)

イカリ消毒株式会社 取締役・一般財団法人環境文化創造研究所 理事 谷川力

ねずみの名の由来

 ねずみの名の由来は、いくつかの説が知られています。
(1)根(ね)の国に棲む動物、つまり「根に棲む」からねずみへと転じた説。根の国とは、地底のかなたにあると考えられた古代の他界のひとつです。あらゆる災いや罪、汚れが流しやられる所と考えられていました。ですから、地中に棲み、災いの多い所に棲んでいる動物という意味です。
(2)盗みをする動物、「盗み」からねずみに転じた説。これは人の食べ物を盗むようにして食べているからです。
(3)穴棲み、「穴に棲む」がねずみに転じたという説。その名のとおり、ねずみが地中に棲んでいるからです。
(4)屋根棲み、「屋根に棲む」がねずみに転じたという説。地中に棲むのと同じく、ねずみが屋根裏に棲んでいるからです。
(5)寝ずに見る、「寝ずに見ている」がねずみに転じたという説。ねずみが人の寝静まった夜間に活動し、その様子を見ているからです。
(6)狙い盗む、つまり「狙い盗む」がねずみに転じたという説。(2)と似ていますが、狙ったものを盗む動物だからです。
 いずれにしても、古来よりねずみが人の食物を盗み食い、人の寝静まった夜間に活動するずる賢い動物である様子が、観察されていたことがよくわかります。
(2020年8月号掲載)

ネズミとネコの関係

 ネズミとネコの関係は、人気のアニメーションでも広く知られています。この関係は、人類が穀物を貯蔵するようになった時代に遡(さかのぼ)ります。
 穀物を貯蔵すると、それを狙ったネズミの被害が増えました。ネズミが増えると、それを食べるネコが居着きました。今ではネコは人間のペットとして可愛がられていますが、本来はこのように定着したといわれています。
 ネズミの被害は、船の中でも同様です。ネズミは船の中で人間の食物を狙っていましたが、大切な経典など書物が齧(かじ)られる被害も発生していました。そこでまた、ネコの登場です。長期間航海する船では、ネコを乗せることが多くなりました。ネコのなかでも、三毛猫の雄を船に乗せると福を呼び、船が遭難しないという言い伝えがあります。「ネコが騒げばシケになり、眠れば天気平穏」とも信じられていましたが、三毛猫の雄を船に乗せることにも、ネズミの存在が関係していたかもしれません。弥生時代に食物を貯蔵していた高床式倉庫には、「ネズミ返し」が四方の柱に付いていました。これもその時代の人々がネズミに悩まされていた証拠です。
 一方、ペットとしてのイヌはそれより歴史が古く、人間の狩猟のパートナーとして活躍していました。
(2020年9月号掲載)

高齢者とネズミ

 人間にとって快適な空間である戸建住宅は、ネズミにとっても快適な空間といえます。住宅内は温湿度が快適に保たれて外敵からも守られていますが、住人の中にはネズミに食物を盗まれている人もいます。東京都池袋保健所の矢口昇氏によると、ある高齢者は寂しさのためネズミに餌を与え、同居しているそうです。
 超高齢社会の現在は、ネズミに占拠されている住宅が深刻な社会問題となっています。高齢者の家には次のような特徴があり、いくつかの類似した点が目につきます。
(1)高齢者は動線が小さく、居間での滞在時間が長いのですが、そのほかの部屋にあまり行かないため、ネズミの住処になりやすくなってしまいます。
(2)「もったいない」世代で、それ自体は悪いことではありませんが、ものを大切にするあまり捨てられず、押入れに入れたままの保存食(素麺など)がネズミの餌となります。
(3)仏壇の供えものや花がネズミの餌となります。
(4)古い木造住宅ではネズミの侵入経路が多く見つかります。
(5)すべてが当てはまるわけではありませんが、殺鼠剤や粘着トラップを何度配置してもネズミが減らないことがあります。
 いずれにしても、ネズミはこのような住みやすい家を狙っているため、注意が必要です。
(2021年1月号掲載)

海外からのネズミの密航

 ネズミ類のうち、特にドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミは国内だけではなく海外にも広く分布しています。これらのイエネズミは、飛行機や船に乗って日本にやってきます。最近でも、飛行機内でクマネズミやハツカネズミの仲間が生きたまま捕獲された事例がありました。
 一方、国際航行する船のコンテナ、また特異な例ですが、天候不良などで緊急避難的に海外から入港する漁船でも生きたネズミが発見されています。検疫所では空港港湾部でのネズミのサーベイランス※1 を実施し、捕獲されたネズミからペストやHFRS(腎症候性出血熱 hemorrhagic fever with renal syndrome)の抗体価※2 などを調べていますが、散発的にHFRSの抗体価が高いネズミが捕獲されます。あくまでも推測ですが、散発的・点在的に抗体価が高いネズミが発見されるということは、日本国内でHFRSが広がっているというより国外から迷入したと考えるほうが理解しやすいと思います。
 ある調査で輸入原料を関東地方から別の地方まで運び加工する工場内で捕獲されたネズミの種類を調べたところ、アメリカ産のネズミと判明しました。
 このように流通が盛んになれば、ネズミの移動も頻繁になる可能性が高いと思われます。
(2021年2月号掲載)

※1 継続した調査により事態を見守ること。調査監視
※2 体内に侵入してきたウイルスに対して、対抗する物質(抗体)の量や強さ

天然記念物のネズミ

 日本には、天然記念物のネズミが2種います。ひとつは沖縄島北部、奄美大島、徳之島にのみ生息する日本固有種のケナガネズミです。日本のネズミの仲間では最も大きく、頭胴長20~30cm、体重は700g前後とドブネズミより大きくなります。5~7cmと長い体毛を持ち、和名の由来になっています。性質はおとなしく、警戒心がありません。食性は雑食性のようですが、野外ではシイやカシの実を食べています。冬に、一度の出産で2~5匹の仔ネズミを出産するようです。
 もう一種のトゲネズミもケナガネズミと同様、沖縄島北部、奄美大島、徳之島に生息している日本固有種のネズミです。しかし、ケナガネズミが種として同一(どの島でも同じ種類)であるのに対し、トゲネズミはオキナワトゲネズミ、アマミトゲネズミ、トクノシマトゲネズミと別種として扱われます。当然、染色体数なども異なり、分類学上でも貴重な存在となっています。大きさは頭胴長12~18cmと、クマネズミほどです。その名が示すように、体毛がトゲ状になっているのが特徴です。やはり雑食性で種実やイモ類、昆虫類を食べています。
 両種ともに夜行性なので、あまり姿を見られることがなく、生息数もそれほど多くはありません。さらに人間の影響でノネコが増え、襲われる機会も増加しているようです。
(2021年12月号掲載)

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