Kanbunken 環境文化創造研究所

COLUMN

- コラム

弊所発行の「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

イルカが教えてくれること(1)

イルカ研究家・日本ウエルネススポーツ大学 特任教授 岩重慶一

イルカってどんな生きもの?

 イルカの赤ちゃんは尾ビレから逆子のかたちで生まれ、大きさは母親の3分の1程度です。赤ちゃんイルカが生まれてすぐにする仕事は、背中にある呼吸孔を海面に出して空気を吸うことです。海で生きる哺乳類としての最初の試練といえます。体力が弱いと自力で浮き上がるのは困難です。こんなとき、群れのイルカは祝福してみんなで手助けします。イルカの潜水時間は長く、血液中に酸素を取り込むほか、筋肉にも酸素を貯蔵できます。血流調整と潜水徐脈※1 の能力が高く、酸素の量を調節することも可能です。
 イルカの祖先であるメソニクスが再び海に戻った6,500万年前、海の中で、魚のようなエラ呼吸ではなく肺呼吸で暮らすようになりました。けれど海水は塩分濃度が高く、飲み水にはなりません。そこで、イルカは餌や体の中にある脂肪を分解して水分を得るようになったのです。こうしてみると、ラクダもイルカも飲み水が乏しい砂漠や海という環境に適応しているといえます。
 イルカは発達した視覚と聴覚のほかに超音波を持っており、それは身体を貫通して内部まで透視してしまいます。そのほか、大きな脳に人間と同じ新皮質※2 があり、感情を制御でき、鏡に映る姿を楽しむ自意識があるといわれます。
(2016年3月号掲載)

※1 水中で心拍数を減らすことで酸素をゆっくり使うこと
※2 大脳皮質の一部で、進化的に新しい部分

イルカと人間のコミュニケーション

 私が主宰するイルカの学校の活動の中で、毎年、夏に楽しみにしているもののひとつに東京都御蔵島(みくらじま)で泳ぐツアーがあります。
 御蔵島の周囲には多くのイルカが棲み、すばらしい自然が残る楽園です。黒潮の中で、親子のイルカが超音波を出し、跳ね返った音を受信して周囲の物を判断しています。
 近くで泳いでいると、イルカの仲間同士でさえずる「ホイッスル」と呼ばれる会話音をよく聞きます。そして、群れの中の数頭が僕らに興味をもって向かってくるときがあります。そのとき、遠くからガラスをこすりつけるようなギリギリという音を浴びて体が震え、なんともいえない気分になります。
 ある夏、浮き袋とライフジャケットをつけて障害のある男の子B君をイルカの群れの中に案内しました。すると、そのうちの1頭のイルカが、浮き袋の周りをぐるぐると回りながら鳴き声を出して、大きな目で彼を見つめていました。
 たとえ、たったひとつのイルカの名前すら知らなくとも、子どもたちと一緒に果てしない海の中に心を解き放って漂わせるといった体験を共有し、今見ているものが持つ意味に思いをめぐらせ、驚嘆することもできるのです。
(2016年4月号掲載)

イルカ先生の子育て

 イルカの赤ちゃんは、生まれたらすぐに母親のマネをして生きる術を覚えます。仲間が餌を採るのに困っていたら手助けもします。
 人間の赤ちゃんにはいつ頃、他者を助ける動作が芽生えるのでしょうか。ある実験では、1歳半の赤ちゃんが母親の落とした洗濯バサミを拾い上げて手渡したそうです。チンパンジーより早く渡したそうです。しかも、赤ちゃんは知らない人のことも優しく助けました。
 これらのことから、赤ちゃんが他人を助けるという行動は、持って生まれた特性のひとつで、18か月で完成されると報告されました。遠い昔から進化してきた大きな脳に新皮質を持つ人間やイルカは、他者を助けるために何をすればよいか、どうすれば喜んでもらえるかという感情をコントロールできるようです。これを利他主義的ともいいます。
 私たち大人は生きている社会が論理の世界なので、理屈を優先します。ですから、人が進化の過程で先祖から善く生きようとして得た生得性も論理で説明したくなります。子どもたちは単純に、大人の論理に従いさえすれば「いい子」になれると錯覚するのです。
 幼児教育には、自分から他を捉えて自分で行動するという自主性と、自尊心を出しやすいように環境を整えて、感性を引き出してあげることが必要です。
(2016年5月号掲載)

脳の優しさを育てる

 人はイルカと違い生理的に早産で生まれてきて、すぐに歩けるわけでもなく、自らの意志で判断して何かができるわけでもありません。つまり人は、他者の助けがないと生きていけません。したがって、赤ん坊の脳には「優しくする」という神経回路がもともと組み込まれていて、生まれた瞬間から他者に対応するようにできているのです。
 イルカも脳に優しさをもっていますが、人もイルカも相手の気持ちがわからないと、優しい行為や他者を助けるという行動はできません。ともすると人は、現代社会の中で優しさの回路が阻害され閉じられ、相手の気持ちもわからなくなってしまいます。その結果が、残忍極まりない悲しい事件となって報道されています。この主な原因は、相手の気持ちを理解する体験の積み重ねや訓練が乏しいことだと思います。そうならないためにも、大切な幼児期にゲーム機器と闘いごっこをして遊ぶのではなく、人や動物とたくさん遊べる時間と環境を作り出す努力をしていくことが大切です。イルカたちが遊びを通して仲間作りをしているように、生身の人間と触れ合い「優しさの回路」を張りめぐらせて繋ぐ努力をしてみませんか。
 思うぞんぶん遊べる環境の中で、思いを伝えあい、真剣にケンカをして仲直りを繰り返すことの重要性を知ってほしいと思います。
(2016年11月号掲載)

イルカの感染症対策?

 御蔵島(みくらじま)は東京の屋久島と呼ばれるほど、多くの植物を育む大量の水が湧き出る島です。イルカ観察ボートで断崖絶壁の島肌を背にしばらく進むと、島の南端にある白ひげの滝に着きます。ボートの先端や後方に、親子のイルカがゆっくりと泳いでいるのがよく見えます。
 ボートのエンジンを止めると、イルカたちが周囲をぐるぐると回りはじめました。僕たちは水着のまま入水して、プカプカと5分間ほどイルカと遊んでいましたが、急にイルカたちは滝のほうへ行ってしまいました。しばらく浮いていると、イルカの親子たちがまた目の前に現れました。急いで消え去ったときよりも、どこかゆったりとして、肌が美しく磨かれて輝いているようです。さて、滝の中で彼らはいったいなにをしてきたのでしょか。
 僕は、みんなに次のように説明しています。まず、外洋で体の表面に付いた寄生虫や雑菌などを、山から流れ落ちる水で洗って表皮をクリーニングします。次に、滝の水でも取れない付着物は、島に多い大小の玉石にこすり付けて落とします。まるで僕たち人間が玉石を敷いた岩盤浴施設で、汚れた汗を流すように。御蔵島のイルカたちの感染症への予防策は、自然を利用した先祖代々の知恵だと思います。いつもきれいなイルカさんの「体のケア方法」かもしれません。
(2016年12月号掲載)

イルカのことば

 「イルカの声音(こわね)」を聴くことは、実に優雅な楽しみをもたらしてくれます。ただし、少しだけ意識的な訓練が必要です。
 イルカのいる水族館に行くと、彼らがとてもおしゃべりな生きものであることを実感するでしょう。特に、海のカナリヤと呼ばれるベルーガというシロイルカのおしゃべりに気づくことでしょう。水の中から顔を出して鳴く、澄んだ声はカン高く、とても大きいです。よく見ると、メロン(おでこ)のところがやわらかく震えて、音を出しているのがわかります。
 イルカたちの賑やかな合唱が始まると、天使のように穢(けが)れのない歌声をひびかせ、夢のような、忘れることのない喜びをもたらしてくれます。ベルーガが多く棲息する北極海に接するロシアでは、賑やかにおしゃべりする人のことを「シロイルカのような人」とたとえるそうです。
 少し離れたプールでは、バンドウイルカが鳴き続けています。リズムに特徴のあるその声音は、聞こえてくるというより、感じるといってもよいようなものです。やがてショーが終わると、イルカたちは自由に泳ぎながらお互いに共通する言葉を話して遊びます。
 いつの日か、人間にもイルカの言葉がわかるようになれば、イルカからいろいろなことを学ぶことができるでしょう。
(2017年1月号掲載)

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