イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

沖縄のいきもの事情(5)

特定非営利活動法人バイオメディカルサイエンス研究会 常任理事 前川秀彰

沖縄の虫事情~ハチの仲間

 沖縄では、コガタスズメバチとオキナワクマバチがポピュラーです。コガタスズメバチは、見た目はスズメバチに似ていますが、通常は攻撃的ではありません。オキナワクマバチは、真っ黒で羽音が大きいので恐ろしく感じますが、実はおとなしいハチです。オオスズメバチは、沖縄にはいないといわれています。ミツバチは、養蜂家が蜜採りに使っているセイヨウミツバチが飛んでいます。ニホンミツバチは、見つかっていません。
 アオスジコシブトハナバチは、奄美大島以南の南西諸島に棲息していて、ミツバチぐらいの大きさのとてもきれいなハチです。見たことはないのですが、夜は集団で枝などに止まって休むそうです。研究に必要だったので沖縄でハチを採集していましたが、ハチの分類は専門家でも大変難しいことがわかりました。地域や季節により、模様や色が異なる個体が出てくるためです。私は形態の解析が分類の基本で、その判断材料に遺伝子解析が補助的に役立つと思っています。沖縄(主に琉球大学構内)で採集したヤマトアシナガバチと思われるハチは、ゲノムの特殊な繰返し配列の系統解析の結果、すべてタイワンアシナガバチのグループに入りました(山田香織ら、未発表)。今まで知られていなかった知見で、琉球大学のほかの先生も驚いていました。
(2018年9月号掲載)

琉球大学千原池の生きものたち

 琉球大学熱帯生物圏研究センター分子生命科学研究施設のガラス張りの入り口上部に、アカショウビンの死体が見つかった時のことです。勝手に処理できないと思い保健所に問い合わせたところ、こちらで処理するよう言われてしまいました。特に沖縄でウエストナイル熱が発生した情報もなかったので、施設の先生に処置してもらいました。
 死んでいた理由は、分子生命科学研究施設の入り口が天井まで全面透明なガラスなので、夕方、建物の中が明るくなっていたために鳥にはガラスが見えず激突したのではないかと思われます。アカショウビンは北部に生息している鳥なので不思議に思ったのですが、大学の千原(せんばる)池にはカワセミもいると聞いているので棲息していたのかもしれません。
 千原池にはサギの仲間(ダイサギ、アオサギ、ゴイサギ、チュウサギ、コサギと思われる)が巣を作って棲息しています。池には何匹ものテラピアやプレコ(40~50cmくらいの大きさになっている)が泳いでいるのが、池に架かる球陽橋から見えます。池への流入口の細流にはかなりの数の稚魚が泳いでいるので、餌には困らないようです。サギが抜き足差し足で、小魚を捕獲する様子も橋の上から観察できます。沖縄に赴任してしばらくは、池をコイの群れが泳いでいましたが、いつのまにかいなくなりました。産卵した卵が毎年次々に食べられてしまったためかもしれません。
(2018年10月号掲載)

沖縄の虫事情~ヒトスジシマカの思惑

 デング熱は以前、沖縄の先島(さきしま)諸島にも発生していました。媒介蚊は、ネッタイシマカです。その後、発生源の駆除が功を奏し、ネッタイシマカの撲滅とデング熱の発生防護がなされました。ミバエが偏西風に乗って南西諸島に飛来するようにネッタイシマカも飛来していると思われ、船舶や航空機でも入り込めるはずですが、現在(2019年)、分布は確認されていません。これには、ヒトスジシマカの生態が関係しているようです。
 ヒトスジシマカは、他種のシマカのメスと交尾できることが知られています。シマカのメスは、交尾するとオスの精子を貯精嚢(ちょせいのう)に貯め、その後は新たな交尾を行わずに精子と卵を受精させます。しかし、種が異なる卵と精子は本来受精ができません。当然受精卵ができず、新たな発生もないと思われます。交雑種は発生可能の記載もありますが、自然界では起きていないと考えられます。その結果、ネッタイシマカは後代を残すことなく数が減少し、かわってヒトスジシマカが数を増やしていくことになります。これがメキシコ、キューバから南米やナイジェリアに広がった理由かもしれません。1985年にアメリカへ、1990年にヨーロッパ(イタリア)に侵入して生息域がフランス、スイス、ギリシャ、ベルギー、スペインに広がっていったことで、世界的に急激な生息範囲の拡大を起こしていると考えられます※ 。
(2019年3月号掲載)

※ ヒトスジシマカの動向には諸説あり、本文はそのひとつの考えです。
ヒトスジシマカの世界的分布および侵入年度については、国立感染症研究所のホームページを参照ください。

沖縄の魚介事情~オオグチユゴイとコブシメ

 何年か前に、沖縄県の西表島(いりおもてじま)仲間川の河口から渓流域へ入る手前で、クロダイとオオグチユゴイ(琉球列島、インド、西太平洋域に生息。45cmくらい)を見つけました。河口からはほぼ段差がないので、海水が混ざって汽水域※ になっていると思われますが、このあたりはかなり上流なので、ほとんどが淡水と思われる場所です。そこでクロダイが平気で泳いでいたので、ビックリしました。
 最近は、沖縄本島恩納村(おんなそん)の新川でオオグチユゴイの稚魚がたくさん泳いでいるようです。稚魚そのものは見損ねましたが、成魚の大きなうねりを見ました。この魚は昆虫や甲殻類、小型の魚を食べるのでルアーで釣れるそうですが、私が見たときには誰も釣っていませんでした。
 同じルアーを使った釣りでは、海に棲むコウイカの仲間で最大のコブシメ(九州南部から琉球列島、西太平洋、インド洋の熱帯域に生息。50cm以上)を狙う釣り人は多いです。胴体に比べて脚が短く、愛嬌のあるイカです。体型のせいか、泳ぎが得意ではないようです。1月から5月ごろよく見られるそうで、産卵はオスとメスの交接後に行われます。200個ほどの卵を、サンゴの間に産みつけるそうです。産卵中のメスの周りをオスが泳いで守っているように見える姿は、なんとも微笑ましいです。
(2019年4月号掲載)

※ 河口部など、海水と淡水が混じりあっている水域

沖縄のヤギ事情

 沖縄では、ヤギを飼っている家庭があります。琉球大学でも、農学部では農場で飼育しています。ある施設で飼育しているヤギのことです。繋いでいるロープの範囲の草を食べるので、次々と場所を移動させています。
 構内で私が採集していると、このヤギに遭遇することがありました。オスはツノを切ってありますが、多少は残っています。近くを通ると頭を下げて突っ込んできます。前からは避けられますが、後ろからだと気がつかず、突き上げられることがあります。結構、痛いです。ヤギも本気ではなく、遊び相手としてかまってもらいたいのだと思います。ある時ヤギのロープが外れて歩き回ってしまい、ある教授の車に頭から突っ込んだようで、車体に傷がついてしまいました。想像するに、車の色が真っ黒の塗装であったため、ヤギ自身の姿が車に映り、ヤギは好敵手が現れたと思い、それに突っ込んだと思われます。
 大学の千原池の周辺は入ることができないため、野犬が住み着いています。10頭以上は、いると思われます。普段は吠えたりしていますが、それほど凶暴には見えませんでした。しかしある時、農場のヤギが野犬に襲われたというニュースが流れてきました。怖い目にあった学生さんもいたようで、対策が立てられたと聞いています。敷地が広く樹木が茂っていると、いろんなことが起こります。
(2019年6月号掲載)

久米島ボタル

 久米島に生息する久米島ボタルは、沖縄のほかの地域のホタルの幼虫が陸生なのとは違い、水生の幼虫です。1993年に新種のホタルとして発見され、特殊なので保護対象となっています。日本では、ゲンジボタル、ヘイケボタルについで第3番目の水生ホタルであり、1994年には沖縄県の天然記念物に指定されました。本土のホタルとの違いは、最終齢の幼虫が地上に移動するときに水中で光っていることです。
 大きな産業がない久米島ではサトウキビの栽培に力を入れているので、大雨のときに畑の赤土がどっと河川へ流れ込むことになります。この土砂が海にも流れ込むため、あまり良い状況とはいえません。生息環境の極端な変化に伴い、久米島ボタルは数も減り、絶滅を危惧されました。そのため、行政の補助を得てホタルの維持と増殖を目的として、久米島ホタル館が設置されました。大雨が降ったときに、水が濁るのを避ける対策をしてホタルを守っています。
 久米島ホタルの会も、ホタルの住む環境を蘇らせてホタルとホタルにつながる在来の生き物を保護し、人間を含めた健全な生態系を保全することを目的に活動しています。いろいろなツアーを企画していますが、夜のツアーでは、夜行性のオオムカデやオオゲジなど、標本でしか見たことのなかったものを見ることができ、魅力的でした。
(2020年3月号掲載)

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