イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

展覧会に出かけると(4)

放送大学 客員教授・九州国立博物館 名誉館員・一般財団法人 環境文化創造研究所 顧問 本田光子

着物でミュージアム

 新しい年を迎えました。今年は、着物でミュージアムへ出かけてみませんか。近年、全国各地の多くの美術館・博物館・資料館で、着物姿の来館者への入館料割引など優待サービスが行われています。
 古美術、古文書、歴史、民俗資料などを展示収蔵する美術館・博物館・資料館では、年間を通して優待を行う館が増えています。展覧会のテーマや季節の行事にあわせての期間限定優待館も年々増加しています。春は雛祭りや花見、夏は盆踊りや花火、秋は紅葉や芸能、冬は正月、それぞれの催しに館ごとの特色を凝らした小展示なども加わり、地域の観光振興とも連携したイベントとして定着するようにもなりました。
 日常的に着物を着る習慣がほぼなくなった今、着物姿の来館者への優待は、着物を着ることや着物姿に触れる機会を増やすための取組みのひとつです。日本の伝統や文化を身近に感じ、継承する気運につながることを期待して行われています。先人たちから引き継いだ知や美、技を未来へ継承する場でもあるミュージアムに似合ったサービスだと思います。
 日々の大半が着物暮らしの私は、このサービスで展覧会の多くをお得に楽しんでいますが、ほかにも嬉しいことがあります。着物姿は珍しいからか、見知らぬ方からよくお声を掛けられるのです。会場でたまたま隣り合わせた方との着物がご縁の会話もまた、展覧会の愉しみです。
(2022年1月号掲載)

お気に入りのミュージアムカフェで

 3年前の3月に、福岡市美術館は40年ぶりにリニューアルしました。都会のオアシスとして市民や観光客で賑わう大濠(おおほり)公園の傍(かたわ)らにあります。かつての福岡城の外濠(そとぼり)である大きな池に面するミュージアムカフェも、大濠公園や美術館と同じように多くのファンに愛され続けています。
 美術館は常滑焼(とこなめやき)タイルの茶色の建物で、歴史と自然豊かな大濠公園に溶け込みながらも存在感のある優雅な佇(たたず)まいです。1階のカフェの大きなガラス窓からは趣のある艶の壁、鮮やかな色彩が風と調和する彫刻、光る池の水面、飛び立つ鳥たち、遠くの樹々、池を周回するランナーたち、散歩を楽しむ人々などが1枚の絵のように映り、流れるシャンソンに包まれ、人気スイーツ「大濠シュー」とともに美術鑑賞の心地よい余韻に浸ることができます。福岡市民の私には、お気に入りの場所です。
 マスコミと館で主催する大規模な特別展の際にはこのカフェも大変混み合いますが、分野別のコレクション展や企画展だけが行われている期間は、穏やかな寛ぎ感のある静かな癒しの空間です。実は、これらの小規模な展覧会では重要文化財を含む珠玉の館蔵品が公開されることが多く、まさに感動の余韻にゆったりと浸れる場所となるのです。
 時には、お近くの博物館や美術館で大規模な展覧会のない期間に、常設展や小規模企画展とミュージアムカフェをセットで訪れてみませんか。
(2022年3月号掲載)

子どものいる風景 その1

 近年、美術館や博物館では、子どもや親子向けの展覧会や日時限定の家族連れ鑑賞企画などがあり、子どものいる風景が増えてきました。そうした特別な機会以外での子連れアート鑑賞はハードルが高いのが実状ともいえますが、ふたつの朗報をご紹介します。
 ひとつは、託児サービスです。授乳室やおむつ替えスペースなどは基本的な設備としてすでに普及していますが、託児サービスの常設運用は国立新美術館や金沢21世紀美術館など少数です。しかしこの数年、各種条件はあるものの、全国各地の美術館で続々とサービスが始まっています。託児サービスは、子育てとアート鑑賞両立へのまさに朗報です。
 もうひとつは、最近の展覧会で私が遭遇した子どものいる風景と、その雰囲気です。東京国立近代美術館『民藝の100年』では、ベビーカーを押しつつ静かに作品を語り合う両親、幼児を抱いて小声で作品を説明する父。京都国立近代美術館『上野リチ展』では、3、4歳の女児を背負い作品に目を凝らす母。女児は「お母さん、これ綺麗ね」と声を発します。ほかの観覧者が子どもの存在やその声を気にする様子はなく、むしろ和やかな空気感が会場全体に満ちているようで、ほっとしました。
 子育て中の方々も、臆せずアート鑑賞ができる時代に進化してきたようです。展覧会の内容や会場にあわせて、観覧パターンも楽しみましょう。
(2022年4月号掲載)

子どものいる風景 その2

 展覧会場でベビーカーやおんぶ・抱っこの子連れ風景が増え、託児サービスの普及・利用など、乳幼児の子育て中にも臆せずにアート鑑賞ができる時代になったことを先月号でお伝えしました。今回は、小学生以上の子どもたちや親子でのミュージアムデビューを見てみましょう。
 東京・上野公園内の美術館や博物館を舞台として2013年に始まった『Museum Start あいうえの※ 』では、親子がともにミュージアム体験を楽しむことをサポートする「ファミリー&ティーンズ・プログラム」、先生と参加する「学校プログラム」、家庭状況や多様な文化背景を持つ子どもたちのための「ダイバーシティ・プログラム」が行われています。
 世界のミュージアムは、多様な人々をつなぎ、多様な価値を対等に分かち合う場所としての役割も担うといわれます。さまざまな形で子どもたちが活動する教育プログラムの風景も、そうしたテーマを象徴していると思います。生活環境の異なる子ども同士や、大人と子どもが同じ作品や資料に同じ目線で一緒に対面し、感じたことや考えたことを伝え合うことでお互いへの理解の第一歩が始まるのではないでしょうか。
 昨今は、全国各地の美術館・博物館で、その土地ならではの子どもや親子向けの教育プログラムが続々と登場しています。お子さんと一緒にミュージアムデビューしてみませんか。
(2022年5月号掲載)

※ 参考サイト https://museum-start.jp/

子どものいる風景 その3

 美術館や博物館のトークフリーデーをご存知ですか。友人や家族と作品をめぐる会話を気兼ねなく楽しみながら観覧できる日で、毎月あるいは毎週定期的に実施する館が増えています。同じ作品を見ていても感じ方は人それぞれ。その違いを語り合うことで鑑賞の楽しみが深まります。さらに、お互いの感性や考え方の理解につながる嬉しさもあります。
 日本では一般的に展覧会は「おしゃべりNG」で、新聞の投書欄やSNSでもしばしば「観覧者同士の会話」や「子どもの話し声」などが気になるという意見が寄せられます。静かな空間で鑑賞したいという一方で、欧米のように会話を楽しむ鑑賞や子どもの教育効果などを考えれば多少のおしゃべりはよいのではという意見も同じようにあります。
 トークフリーデーは「静寂な日」とは別に「会話を楽しむ日」を設定し、時代のニーズに応えたものといえましょう。観覧者には「作品の保存に影響を与えない」、「ほかの観覧者に迷惑をかけない」のふたつが望まれますが、これはルールよりマナーでまもられるほうが和やかな鑑賞空間になります。「子どものいる風景」の在り様は時代や地域の展覧会文化の姿や美術鑑賞マナー普及のバロメーターなのかもしれません。
 コロナ対策によりトークフリーデーは休止の館が多いのですが、再開されたらぜひ、家族や友人とご一緒に楽しんでみてください。
(2022年6月号掲載)

子どものいる風景 その4

 美術館や博物館での子どものいる風景について、3回にわたりご紹介しました。今回は、かなり昔に海外で遭遇した2つの光景をお伝えします。
 1つは、30年前にイタリア・フィレンツェのウフィツィ美術館で体験した驚きと納得の場面です。ボッティチェリ作『ヴィーナスの誕生』が展示されている部屋に入った途端、目に入ったのは絵の前の床に直に座っている子どもたちでした。一瞬びっくりしましたが、思い思いの格好で鑑賞に集中している彼らの真剣なまなざしと静けさゆえからか、その存在はすぐ気にならなくなり、ともに名画に魅入ったことを覚えています。
 2つめは、20年前にアメリカ・ワシントンのナショナルギャラリーオブアートで経験した和やかな空間です。展示室中央の長椅子で寄り添う、白髪の年配男性と小学校高学年くらいのおさげの少女がいました。目前の絵画をじっと見つめながら小声で語り合う祖父と孫かもしれない2人の楽し気で優しく穏やかな後姿が、前方の壁の絵画を背景にしっくりとおさまっていて、まるで映画の1シーンのように思い出します。
 2つの光景は、世界中から大勢の人々が訪れる海外の有名な館で観光客の一人としてひとむかし前に目にした思い出ですが、その後、日本の館でも同じような幸せな雰囲気に出会うことは珍しくないように感じています。展覧会では、時には子どものいる風景も楽しんでみませんか。
(2022年7月号掲載)

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