Kanbunken 環境文化創造研究所

COLUMN

- コラム

弊所発行の「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。

食品にまつわるトラブルから学ぶ(1)

元東京都杉並保健所 食品衛生監視員 谷口力夫

焼き菓子に黒色の異物

 食中毒、不適正表示、異物混入など、食品の安全性や信頼性に関わる問題が次々と発生し、食品業界と消費者の信頼関係を改善することが非常に重要な課題となっています。ある日、「高級焼菓子を開封したところ、私の品物にだけ黒色のカビのような異物が入っていて食べられなかった。焼菓子は個包装が6個1箱入りのもので、会社の同僚が食べた5個に異常は認められなかった」と保健所に届け出がありました。
 拡大観察した苦情品の黒色異物は、不定型でカビの胞子等の生物由来のものではありませんでした。届出者はハサミを使って丁寧に包装を開封していたため切断面を詳しく調べてみると、包装内側に接着された脱酸素剤の小包装もきれいに切断されていました。黒色異物には磁性があることから、鉄が主成分の脱酸素剤の中身であることが確認できました。
 届出者は、菓子の異物原因が自身の開封方法にあったことに恐縮するとともに、お気に入りの菓子に問題がなかったことに安心した様子でした。消費者の製品への期待が裏切られた場合には、そのことが食品事業者への不信につながります。お互いの状況を正確かつ客観的に理解し合える関係性も重要です。時として、食品衛生監視員はその食品知識、客観的な状況判断力などにより、この両者の相互理解のために専門性を発揮することも大切な役割です。
(2019年1月号掲載)

刺身を乗せた熱々のご飯に白色異物

 近年、中食や外食への需要は増加していますが、一方で市販食品の安全性に対する消費者の見方も厳しくなっています。
 スーパーマーケットでパック容器入りご飯とビンナガマグロの刺身を購入した人が、店内の電子レンジでご飯を熱々に加温し、その上に刺身を乗せて自家用車内で食べ始めました。食べている途中でパック容器の内側に白色のロウのような異物が付着しているのを見つけ、すぐに店に申し出ましたが担当者からは納得のいく説明が得られず、体への影響が心配になり保健所に届け出ました。
 再現性試験などの検査の結果、熱いご飯の上にマグロの刺身を乗せたことで魚の油分が溶け出し、ご飯の成分と混ざりあって容器周辺部分で冷えて固まることが確認できました。動物性の脂肪は飽和脂肪酸を多く含むために常温では溶けにくく固体ですが、魚に含まれる脂肪は不飽和脂肪酸を多く含むので融点が比較的低く、常温では液体になります。特にビンナガマグロの肉は脂肪が多く淡桃色で熱すると白色になるため、鶏肉にあやかり「シーチキン」名の缶詰もあります。
 食品に関わる従事者は、日頃から取扱う商品についての正確な知識を持ち、プロの専門知識を拠り所としつつ、お客様から信頼を得られるようなコミュニケーション力を高めることが大切です。
(2019年2月号掲載)

野菜ジュースの缶詰から異物

 近年、新たな食品技術の開発や生産技術の向上などにより、家庭でもさまざまな食品を味わえるようになっています。しかし、食品の特徴を理解せずに取扱いを間違えると思わぬ事故を招くこともあります。
 自宅に保管していたプルトップ缶詰の野菜ジュースを開けて飲んだ人が、缶の中に黒くて柔らかいかたまりを見つけました。しかし、開缶時には缶の密封性に異常を感じませんでした。
 検査の結果、黒い異物はカビの一種でした。一般的にカビの増殖には空気が必要ですが、缶表面に破損箇所は認められませんでした。カビは缶のプルタブ部分にできたわずかな隙間周辺で増殖し、内側から缶を塞いでいたと考えられました。
 缶詰にカビが発生した原因調査を進めていたところ、届出者から「苦情を取り下げたい」との連絡が入りました。届出者の孫が3か月ほど前に当該ジュースを飲もうとしてプルタブを途中まで引き上げたようだとのことでした。開缶途中のプルタブの隙間から空気中のカビが缶詰内に入り込み、長期間の常温放置で増殖したものと推察されました。
 いかに保存性の高い缶詰やレトルト食品であっても、密封性が損なわれると通常の食品と同様に腐敗しますので、容器や包装が傷んだり破れたりしないように丁寧に取り扱うことも大切です。
(2019年3月号掲載)

イカ燻製品に輪ゴムが混入?

 異物混入や不適切な表示などが要因となる食品企業の自主回収件数は、なかなか減る傾向が見られません。
 スーパーで購入した袋詰めのイカ燻製品をつまみにして酒を飲んでいた人が、袋の中に輪ゴムを見つけました。この消費者は「最近の異物混入は社会的にも大きな問題であり、このようなメーカーは直ちに処分してもらいたい」と憤慨して保健所に届け出ました。
 この製品は、味付けしたスルメイカを短冊状に加工し袋詰めしたものでした。異物として届け出られた物の色や形状は半透明の輪ゴムに類似していましたが、拡大観察してみると生物の組織構造が確認されました。そこで、異物、イカ燻製品、輪ゴムについてフーリエ変換赤外線分光計(FTIR※ )による成分の比較分析を行ったところ、異物は輪ゴムとは明らかに異なる成分構成で、イカ燻製品と同一であることがわかりました。
 届出者には分析結果などから、細く割けたイカの表面部分が輪ゴムのような色、形状に見えたようだということを伝えましたが、「異物でなければそれでよい」という一言のみの反応でした。
 この事例は消費者の強い思い込みにより発生したものでしたが、食品に関する苦情や相談などがあった場合には、その背景要因も含めて冷静に事実確認を行って判断、対応することが肝要です。
(2019年5月号掲載)

※ 物質に吸収される赤外光を測定する分析機器で、化学構造や状態に関する情報を得ることができ、異物の非破壊分析法としても活用される

ネズミにかじられた菓子パンを販売

 食品を提供する店では、お客様目線で店舗内を見直してみることがサービス改善への大きなヒントになります。
 購入したばかりの菓子パンを食べていた人が、パンと包装袋にネズミにかじられたような痕があるのに気づきました。購入店に申し出ましたが納得の行く説明が得られず、健康への不安から保健所に届け出ました。
 この店ではネズミによる食品被害が繰り返し発生していましたが、効果的な対策がなされず、場当たり的な対応に終止していたようです。
 店舗入口は集合住宅の共用ゴミ置場に隣接し、周囲にはネズミの痕跡が認められました。また、早朝に搬送される食品類は一時的に店舗外に保管されるため、ネズミが搬入前の食品を食べ荒らしたり、店舗入り口の自動ドアから店内に侵入することが容易な状況でした。
 本格的な防鼠対策のために専門業者と連携し、ネズミが繁殖しにくい店舗内外の衛生環境の整備、侵入経路の遮断と捕獲作業などが行われました。一方で、店舗での食品の受け入れ、陳列、販売時の従業員による商品チェック体制の強化にも努めました。しかし、これらの対応策が効果的に機能するまでには約1年近い時間と多額の費用を要しました。食品を取り扱う方々には、日頃から職場の小さな異常にも気づく鋭敏な感覚と適切に判断して対応できる行動力を持っていただきたいものです。
(2019年6月号掲載)

温めた唐揚げにプラスチック片が混入

 食品関連業界では人手不足が深刻な問題となっていますが、そのことが、提供する食品の安全性にまで影響してはなりません。
 ある男性が深夜にコンビニエンスストアでパック入りの唐揚げを購入して自宅で食べたところ、口の中に何かが刺さりました。吐き出した異物は尖ったプラスチック片であったため購入店に申し出ましたが、応対したアルバイト店員の説明に納得できず、保健所に届け出がありました。
 当該唐揚げはフタ付きプラスチック製トレイパック入りでさらにラップフィルムで包まれた商品で、購入者の依頼によりレンジ加温されたものでした。検査の結果、混入した異物と唐揚げ用トレイパックの破損部分の形状が合致し、その主成分もポリスチレン※ で一致しました。
 販売店の防犯カメラの映像から、店員が当該品の容器の端をハサミで切り落とし、電子レンジで加温している様子が確認できました。商品のレンジ加温の際には外装のラップフィルムのみに切り込みを入れる手順になっていましたが、トレイ容器の端も一緒に切断したために、その切れ端が唐揚げに混入したものと推定されました。
 この店舗では全系列店における商品加温時のハサミ使用を禁止し、手順を再度周知しました。業務に精通していない従業員でも「ミスを犯しにくい食品取扱い環境づくり」への一層の工夫が求められています。
(2019年7月号掲載)

※ スチロール樹脂とも呼ばれ、熱可塑性で成形がしやすく無味無臭であるため、食品の包装材として利用される。値段も安価であるため、日用品やプラモデルの素材としても広く用いられ、発泡剤を用いて成型される発泡スチロールは断熱材としても知られる

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