Kanbunken 環境文化創造研究所

COLUMN

- コラム

弊所発行の「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。

安富和男先生の面白むし話(19)

日本衛生動物学会・日本昆虫学会 名誉会員 安富和男

尺取虫(シャクトリムシ)の擬態と冬尺(フユシャク)の暮らし

 尺取虫は尺蛾類の幼虫です。シャクガ科は蛾の中で夜蛾(ヤガ)科に次いで大きなグループで、日本では827種、世界では約2万種も記録されています。鱗翅類の幼虫は胸に三対の胸脚、腹に五対の腹脚を持っていますが、シャクガ類では五対の腹脚のうち前方の三対が退化しており、長さを測るような独特の歩き方をするので尺取虫と命名されました。寸取(スントリ)虫、量(ハカリ)虫の別名でも呼ばれています。尺取虫は擬態の名手であり、体をまっすぐに伸ばして静止すると木の小枝そっくりになるので誤って土瓶をかけると落ちて割れ、ドビンワリの別名が生まれました。
 尺蛾には冬季に活動する特異な仲間がいて冬尺という名前がついています。日本には36種の冬尺が生息しており、昼間に活動します。幼虫の尺取虫は若葉を食べて育ち、初夏に蛹化(ようか)したあと数か月の深い眠りに入り、冬に夏眠から覚めて成虫になる暮らしです。冬尺類は成虫の発生時期によって晩秋型、初冬型、厳冬型、早春型、長期出現型という5つのタイプに分けられています。
 メスの冬尺は、翅が退化しており木の幹や枝にとまっています。尾端(びたん)から性フェロモンを放出してオスを誘い交尾が成立します。
 冬尺が冬に活動するようになったのは、天敵からの逃避です。捕食性天敵が姿を消しているので「わが世の冬」を謳歌できるというわけです。
(2013年2月号掲載)

昆虫の脳と本能の知恵

 「一寸の虫にも五分の魂」といわれます。昆虫に魂があるとすれば、脳の働きによるものです。昆虫の頭部には神経のふくらんだ脳があり、分泌される脳ホルモンは前胸線を刺激して脱皮・変態が進行する役目などを果たしています。昆虫の脳は人類などの高等動物に比べれば簡単な構造であり、昆虫の行動はすべて本能に基づくというのが定説です。しかし、昆虫は鋭敏な感覚に恵まれ、匂いや光などによる会話手段を持ち、万物の霊長である人間顔負けの知恵を発揮することさえあります。
 山でクマに出会ったら死に真似をすれば助かるという俗説を聞きますが、その真偽はともかく、昆虫では擬死(死んだふり)をして難を逃れる例があります。ある初秋の朝、山梨県の山道を登っていたとき、鳴く虫のセスジツユムシを見つけたのでカメラを近づけたら突然、虫が草に化けました。顔面を葉につけて触角と前脚を揃えて前に伸ばし、腹を持ち上げて「草化(くさば)け」をしたのです。指でさわっても微動だにせず、擬態と擬死を合わせた戦略でした。夜蛾科の蛾にとって最も怖い天敵はコウモリです。ヤガの胸には鼓膜器官(耳)があり、コウモリの出す超音波をとらえて逃避します。音源が至近距離に迫ると瞬時に翅を閉じ落下して難を逃れます。ひとりでに擬死が起こるのです。擬死という合理的な護身術は実に見事な「本能の知恵」といえるでしょう。
(2013年2月号掲載)

食べられる昆虫

 日本で古くから食用昆虫としてなじみ深いのは、イナゴ、ザザムシ、ハチの子であり、貴重なタンパク源になってきました。イナゴは平安時代から食用とされており、現在ではコバネイナゴの佃煮やしぐれ煮が主流を占めています。食糧難に苦しんでいた第二次大戦中や戦後間もない頃、熊本県にイナゴの粉末を商品化した会社があり、九州各地で買い求める客が多く繁盛していました。ザザムシは、長野県天竜川の清流で冬季に採集されるカワゲラ類やトビケラ類、特にヒゲナガカワトビケラの幼虫です。川の浅瀬を「ざざ」というので「ざざむし」と呼ばれ、佃煮として人気の高い昆虫食品になっています。
 珍味「蜂の子」は、クロスズメバチの幼虫と蛹を甘露煮にしたものです。クロスズメバチは「スガレ」と呼ばれており、「スガレ追い」という独特の方法で巣を採ります。肉片のついた真綿を目印にした働き蜂を放ち、これを追跡して地下の巣を見つけるのです。大きな巣では1万匹の収穫があり、缶詰も作られています。このほかカイコの蛹やセミの幼虫なども、価値のある食用昆虫といえましょう。世界最大の水生昆虫タイワンタガメが、東南アジアの市場や路傍(ろぼう)で売られています。タイではタイワンタガメを蒸してソースや野菜を加えて高級料理が作られ、オスには強い香りがあるので香辛料にも使われています。
(2014年1月号掲載)

放浪の旅に追い出される蝶

 立秋を過ぎた頃から、各地の人里に現われる可憐な蝶・ウラナミシジミがいます。翅の裏面にさざ波模様を持つのが和名の由来です。メスはマメ科植物に産卵し幼虫は蕾(つぼみ)や花、若い莢(さや)を食べて育ちますが、寒さが訪れると成虫、卵、幼虫、蛹はすべて死に絶え、越冬できません。ウラナミシジミには、休眠して低温に耐える仕組みがないのです。食草も、蝶の幼虫などを宿したまま枯れてしまいます。では、この蝶はなぜ滅びないのでしょうか。
 ウラナミシジミが冬を越している南の「故郷」がありました。それは1月から2月の平均気温が7℃を下らない温暖地の房総半島南端、静岡市久能山南麓、三重県志摩半島、熊野灘沿岸、高知県物部川河口付近、鹿児島県西桜島や指宿(いぶすき)海岸です。いずれも無霜(むそう)地帯で、エンドウ、ソラマメ、フジマメ、ノボリフジ(ルピナス)などを食草として冬も繁殖を続けています。ウラナミシジミの故郷では増えすぎて過密に陥り、初夏から夏にかけて共倒れを起してしまいます。それを救うかのように間引きが行われ、体つきは成虫になっていても性的な成熟をとげていない若い蝶が故郷を追われる犠牲者になります。旅の途中で性的に成熟して交尾、産卵をするのですが、冬が近づくと親子もろとも死に絶える運命が待っています。哀れな「彷徨(さまよ)い流れ旅」といえましょう。
(2014年1月号掲載)

巨大な塔を造るシロアリ

 2月11日は建国記念の日です。昆虫の中にも、塔の城を築くシロアリがいます。
 昆虫は寿命が短く、昆虫世界の王者といわれるカブトムシも成虫になってから130日、カゲロウの成虫にはわずか1日で死ぬ種類さえあり、寿命の短さを旺盛な繁殖力で補っています。ところが、巨大な塔を造るオーストラリアのナスティテルメス・シロアリの女王は100年も生きる長寿者です。百獣の王ライオンが30年の寿命しかないのに比べると、人間の平均寿命を超える「百年女王」には驚嘆するほかありません。
 草原に高さ6mの塔を造る百年女王は体長10cm、小さなオス(王)と王室にすみ、大勢の職アリ(働きアリ)から食事を与えられて、命あるかぎり産卵に専念します。一生の産卵数は50億個にも達するといわれ、これも昆虫界ナンバーワンです。300万匹の大家族をかかえる塔は「換気装置」を備え、熱の放散、二酸化炭素の放出、酸素の取り入れが合理的に行われています。和名ではシロアリとアリのどちらにも「アリ」がつくので、近縁だと誤解されがちです。しかし、シロアリは古生代に現われた起源の古い昆虫で、ゴキブリと類縁が近く、アリは中生代になってから現われたハチの仲間です。類縁の遠い両者が、女王を中心にした社会生活を営むように進化したのは不思議なことです。
(2014年2月号掲載)

ゴキブリの体内にすむ共生微生物

 ゴキブリの仲間に、森林中の朽木(くちき)を食べている種類がいます。日本ではオオゴキブリ、クチキゴキブリ、エサキクチキゴキブリの3種、アメリカなどの外国ではヨロイゴキブリが食材性※ のゴキブリです。食べた朽木が砕かれて消化管の後腸(こうちょう)に送られると、数百万匹の原生動物(鞭毛虫類)の分泌するセルラーゼ酵素によって繊維素(セルロース)が糖に変わって栄養源になります。
 共生する原生動物を利用して木材の繊維素を消化するのはシロアリが行っている方法であり、シロアリと食材性ゴキブリが共通した消化の仕組みを持っていることは両者が近縁である証拠といえましょう。
 現在、シロアリとゴキブリに宿っている原生動物は、太古の時代にすみついた先祖から続いてきた直系の子孫と考えられています。
 ゴキブリは飢餓に強い昆虫です。飲まず食わずの過酷な状態におかれた場合でも、ワモンゴキブリではメスが40日間、オスが30日間生存できます。ゴキブリの体腔内(たいこうない)、特に腹部には白くて柔らかい脂肪体があります。飢えに強いのは、脂肪体の栄養物をエネルギー源として利用しているからです。さらに脂肪体にはマイセトサイトという細胞があり、共生バクテリアが各種アミノ酸を生合成し、ブドウ糖からグリコーゲンを作り、尿の成分を分解する機能も果たしています。
(2014年2月号掲載)

※ 衰弱木や枯死木などに依存する性質

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