Kanbunken 環境文化創造研究所

COLUMN

- コラム

弊所発行の「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

目黒寄生虫館に展示されている寄生虫(2)

公益財団法人 目黒寄生虫館

カクレガニ

 アサリの味噌汁を食べるとき、貝に小さなカニが入っていることがあります。これはカクレガニの仲間で、アサリに寄生していた個体がそのまま加熱調理されたものです。カクレガニはれっきとしたカニの仲間ですので、調理されたものを食べても問題ないと思われます(甲殻類アレルギーの人は注意が必要です)。
 また、寄生といっても、カクレガニはアサリの肉を食べているわけではありません。アサリはプランクトンなどの小さな有機物を水と一緒に吸い込んで食べますが、その一部をカクレガニが横取りしているのです。寄生による害はほとんどありませんが、アサリが少し痩せることがあるようです。
 さて、日本周辺には、30種ほどのカクレガニが分布し、さまざまな2枚貝の中に住んでいます。そのひとつである「カギヅメピンノ」という種の標本が、目黒寄生虫館に展示されています。このカクレガニは、脚の一番先にある節が非常に小さく、あたかもカギ爪のように見えることが特徴です。展示したカギヅメピンノは、甲羅の横幅が2cmほどで、この種としては大型で見応えのある標本です。韓国の養殖トリガイに寄生していたもので、養殖場の栄養条件や水温などの環境が、カギヅメピンノの成長に好条件だったのかもしれません。
(2019年5月号掲載)

エキノコックス

 エキノコックス(多包条虫)はサナダムシの一種で、成虫は体長わずか数ミリメートルです。目黒寄生虫館にはこの成虫と、幼虫が多数寄生して肝臓が腫大したハタネズミ(実験感染)の標本が展示されています。
 日本では北海道が流行地域で、毎年約20人の患者が発生しています。しかし、多包条虫は昔は北海道にはいませんでした。北海道の礼文島では1930~60年代にこの条虫が原因で約200人が死亡しましたが、これは1920年代に野ネズミ駆除と毛皮生産のため、島に移入されたキツネが原因とされています。キツネには成虫が寄生し、キツネの糞に含まれた虫卵を食べたネズミで幼虫が発育して、そのネズミを食べたキツネがまた感染する、という感染の環が島に定着しました。さらに飼い犬もネズミを食べ、その糞の中の虫卵が人間への感染源になりました。対策として島内のキツネや犬はすべて殺処分され、今は島での多包条虫症の発生はありません。
 一方、北海道本島での分布拡大は、周辺の島から流氷を渡って侵入したキツネが原因といわれています。現在、北海道のいくつかの自治体では、駆虫薬入り餌を野外散布してキツネに食べさせる対策が行われています。最近は本州の犬でも散発的に感染が確認されており、注意が必要です。
(2019年8月号掲載)

ポリポジウム

 皆さんは、チョウザメをご存知ですか。サメという名前はついていますが、硬骨魚の仲間で、多くは淡水に棲んでいます。おとなしい魚で、生きた化石とも称される古代魚です。そのチョウザメが、日本で養殖されています。理由は、世界の3大珍味のひとつとされるキャビア(チョウザメの卵)を取るためです。今回は、ロシア産チョウザメの卵に寄生するポリポジウムのお話です。
 この寄生虫は卵が未熟な時に侵入して、内部で分裂増殖し、ついには鎖状に連なった群体となります。チョウザメが産卵する際に、群体は卵を破って水中に出て、クラゲの形をした無数の単体に分かれます。この単体は触手や刺胞を持ち、雌と雄の間で有性生殖します。その後、ポリポジウムがどうやってチョウザメに侵入するのかはよくわかっていません。
 エカテリーナ・ライコーバ博士は、50年以上もの間、その生態や生活環の研究に打ち込んだ研究者で、ポリポジウムが刺胞動物(クラゲやイソギンチャクの仲間)であることを明らかにしました。目黒寄生虫館には、彼女から寄贈された群体の標本が展示されています。珍しい宿主には珍しい寄生虫が見つかることがよくあります。それにしても、本来は自由生活性のクラゲが、どのような経緯でチョウザメに寄生するようになったのでしょうか。
(2019年10月号掲載)

旋毛虫

 最近はジビエ料理がブームで、イノシシやシカなど野生鳥獣の肉を使った料理や飲食店が話題になっています。牛や豚などの家畜の肉とは異なり、野生動物の肉にはウイルスや寄生虫などの病原体がいることがあるため注意が必要です。
 旋毛虫はこうした病原体のひとつで、線虫の仲間です。幼虫は体長1ミリメートル弱で、哺乳類の筋肉内で渦巻き状に巻いて寄生するため「旋毛虫」と呼ばれます。感染動物の肉と一緒に食べられた幼虫は、動物の腸内で成虫になってすぐに幼虫を産みます。幼虫は、腸粘膜から体内に侵入して全身の筋肉に寄生します。このように旋毛虫は、一度も動物の体外に出ずに世代交代をするので「究極の寄生虫」といえるかもしれません。感染数週間後に発熱や筋肉痛などの症状が現れ、重症例では死亡することもあります。旋毛虫は、現在12種が知られています。欧米では主に豚に寄生する種による自家製の生ハムやソーセージからの感染が問題ですが、日本では冷凍した熊肉が感染源となった例が目立ちます。筋肉内の幼虫は、冷凍されても死滅しなかったのです。2016年に熊肉が原因となった症例が国内では35年ぶりに発生し、あまり報道されていませんが2018年にも熊肉による発生が報告されています。野生鳥獣肉の調理には十分に注意しましょう。
(2019年12月号掲載)

フクロムシ

 磯遊びでカニを捕まえると、お腹にクリーム色からオレンジ色の塊が付着していることがあります。それはおそらく、フクロムシという寄生虫です。フクロムシは、カニだけではなく、ヤドカリやシャコといったさまざまな甲殻類に寄生することが知られています。
 実は、フクロムシ自体も甲殻類で、岩などに張り付いているフジツボに近い動物です。寄生生活を送るため、一般的なフジツボとは似ても似つかぬ形に進化したと考えられています。カニの表面に見えているのは、メスの生殖器官です。それ以外の部分は、宿主の体中に、まるで植物の根のように張り巡らされていて、そこから栄養を吸い取っています。オスは非常に小さく、精巣以外の体の構造はほぼすべて退化しており、メスの生殖器官の中で生活しています。
 フクロムシに寄生されたカニは、繁殖能力が失われてしまいます。この現象を寄生去勢と呼びます。カニが繁殖に栄養を割かないぶん、フクロムシがたくさんの栄養を摂取できると考えられています。また、オスのカニが寄生された場合、だんだんと形がメスに近づいていき、お腹のフクロムシを守るような行動をとることも知られています。一方、フクロムシは人間には害がありませんので、海で見かけても恐れる必要はありません。
(2020年1月号掲載)

ヒトヒフバエ

 目黒寄生虫館の展示標本には昆虫類は少ないのですが、2階展示室の衛生動物コーナーにそれらが集められています。なかでも興味を惹くのは、ヒトヒフバエです。
 ヒトヒフバエは中南米に生息するハエの一種で、ヒトを含む哺乳類の皮膚に幼虫が寄生します。感染の仕方は少し変わっていて、雌は宿主に直接産卵せず、吸血性のサシバエなどのハエ類、カなどを捕まえて、その腹部に卵を産みつけます。幼虫は卵の中で成長し、卵を産みつけられたハエなどが哺乳類から吸血したり、汗をなめている間に、幼虫は体温を感じて卵から孵化し、宿主の皮膚に潜り込みます。5~10週後に幼虫は皮膚から脱出してサナギになります。寄生されると痒みと痛みを伴うので、皮膚を切開して摘出する、呼吸のための穴を塞いで幼虫が脱出するのを待つ、などの治療が行われます。
 アフリカにはヒトクイバエという別種のハエが生息しますが、こちらは砂場などに産卵して、そこを訪れた動物に幼虫が取り付き、皮膚内に寄生します。汗をかいたシャツや子どものオムツなどを好んで産卵することが知られるので、生息地では洗濯物を取り込んだ後に必ずアイロンをかけて卵を殺すよういわれています。海外旅行の機会はますます増え、渡航先が多様化しているので、こうした虫にも注意が必要です。
(2020年4月号掲載)

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